第40話 獣人の逆襲
時はレイスとタマが飛んでいった直後まで遡る。
その場にいた人々は、タマを蹴り飛ばし、そしてレイス自身も飛んでいった方向を呆然と見つめていた。
「あぁ、、、置いてけぼりをくらったか、、、どこまで行ったんだろう、、、」
高台にいるグレッグもその1人であった。
「あの人のことだから大丈夫な気もするけど、、、というかもしレイス君が死んだら私がヤバイし、、、」
グレッグは宙を見上げながら、レイスの安否を考えていた時、
スパパパ!
「うわぁぁぁっ!!!」
下から物を切り裂く音と、人々の悲鳴が聞こえてきた。慌ててそちらの方を見ると、獣人たちがその爪で人間たちを切り裂いていた。
「これでテメェらも終わりだ!!タマ様が来たんだからな!!下等種族の分際で調子に乗りやがって!!覚悟しやがれ!!」
大将のタマが来たことで士気を取り戻した獣人たちが、レイスの突入により呆然としていた人間たちに襲いかかっていた。
「うわぁぁぁっっ!!」
勢いを削がれ、加えて獣人の反撃を受けた人間たちはたちまち阿鼻叫喚に包まれた。
「怯むな!!戦えっ!!」
人間たちを指揮する青年、アイザックスが剣を振り回し人々を鼓舞するが、一度体勢が崩れてしまうと立て直すのは難しく、単純に身体能力が高い獣人たちに押されていってしまう。
「ヤバイヤバイッ!!ボーっとしてる暇なんてない!!」
事態の重大さに気づいたグレッグは高台からズルズルと滑り降りていき、彼らの前に進み出て力の限り大声で呼びかけた。
「みなさーーんっっ!!一旦落ち着いてくださーーいっっ!!」
グレッグの必死の叫びも虚しく、ヒートアップを続ける両陣営には全く聞こえていない。
「ねぇお願い!聞いて!」
「うるさい!邪魔だ!!」
ガンッ!
戦っている人間たちにつかみかかって説得しようとするも、強引に振り払われ、勢いよく転倒してしまう。
「イテテテ、、、」
「人間め!!くらいやがれ!!」
グレッグが倒れたところへ、1人の狼獣人が彼に対して鋭い爪を振り下ろそうとする。
(ヤバイ!死ぬ!)
戦う術をほとんど持たないグレッグはどうすることもできず死を覚悟した。その時、
「危ない!!」
突如グレッグは服を掴まれて後ろに引っ張られ、間一髪で獣人の攻撃をかわした。
「おらぁっっ!!」
直後に屈強な壮年の男が攻撃をした狼獣人の頭にハンマーを振り下ろし、獣人は声も出せずに絶命した。
「何やってるんだ!?戦えないやつは下がってろ!」
グレッグを引っ張り上げたのは、人間たちの指揮をとっていた20歳くらいの青年アイザックス。そして、たった今獣人を始末したのは、同じく人間たちの指揮官である、役人の服を着た壮年の巨漢、ビューフォードであった。
「わ、私は、、、この争いを止めようと、、、」
「状況が見えてないのか!?奴らに説得なんて通用するわけないだろ!!」
「その通りだ。こうなったらどちらかが絶滅するまで戦いを終わらせることはできん。」
グレッグの主張はキッパリと否定されてしまう。そうこう言っているうちに、殺気に溢れた獣人達が隊列を組んで次々と迫り来る。
「来るぞ!覚悟を決めろお前達!たとえ命が尽きても奴らを地獄に落としてやるんだ!!」
アイザックスの言葉を聞き、人間達の何割かが気を持ち直し武器を握りしめて獣人達と向かい合った。
「やってやる、、、やってやるぞこの鬼畜な獣どもめ!!」
「フンッ!さっきまでは油断してたが、本来貴様ら下等種族など俺たちの相手じゃないんだ!それを思い知らせてやる!!」
今まさに、獣人と人間の衝突が起こりそうな、その時だった。
「ずいぶん調子に乗っているようだな。虫ケラども。」
心臓にまで響くような低い声が辺り一面に響きわたった。その直後、隕石のような勢いで巨大な物体が人間と獣人の間に落ちてきた。
その物体はゆっくりと立ち上がると、3メートルはあろうかという巨体と、目だけ人を殺せそうな獰猛な顔が露わになった。
「監視長だ!!」
「レオンハルト監視長がおいでになったぞ!!」
直属の上司の登場に、獣人達はにわかに活気づく。
それに対して、人間達はせっかく奮い立ったのにも関わらず、彼が来たことでまた恐怖の心が勝ってしまい、顔を青くして後ずさる。
人間達を激励していたアイザックスとビューフォードも、この時ばかりは動揺を隠せなかった。
(マズイ!ここ以外にもあちこちで反乱は起こってるはずなのに、よりによってレオンハルトがここに現れやがった!)
2人は自分達の運の無さを呪った。
それを見透かしたように、レオンハルトはわずかに笑うように目を細めた。
「儂が現れるなんて運がない、、、貴様らは今そう思っているな?」
「、、、、、、。」
「逆だ。貴様らはとても運が良い。」
「どういうことだ?」
レオンハルトの言葉の意味がよく分からず、アイザックスは武器を構えながらも聞き返す。
それに対するレオンハルトの返答は、その場にいる全員を驚愕させるものであった。
「貴様らで最後だ。他の場所で反乱を起こした虫ケラどもは全員とうに死んでおる。儂自らの手によってな。だから、他の奴らよりほんの少し長生きできたから、運が良いと言ったのだ。」
「な、なんだって!?」
「聞こえなかったか?それとももっと分かりやすく言わねば劣等種の脳では理解できんか?つまり貴様らはもう終わりと言うことだ。」
その証拠と言わんばかりに、レオンハルトは大量の血で濡れた自身の手を見せつける。
それを見た何人もの人間たちの手から武器が地面に落ちていく。
「ハ、ハッタリだ!!コイツ1人で反乱軍全員を倒すなどできるものか!!みんな騙されるな!!コイツは俺たちの士気を挫こうと、、、」
味方の戦意を維持するため声を荒げるアイザックスであったが、その最中、自分の体の横を風が通り抜けるのを感じた。その瞬間、
ズバババババッッ!!
「グァッ!!」
「ヒィッ!?」
背後から、何かを大量に切り裂いたような音と、たくさんの短い悲鳴が聞こえてきた。
「!!?」
慌ててアイザックスが振り返ったとき、そこは地獄になっていた。背後に控えていた数千人にのぼる大勢の人間たちがバラバラに切り裂かれ、血の海に沈んでいた。人間側で立っていたのは、最前線に立つアイザックスのすぐ近くにいたビューフォードとグレッグ、その他わずか十数名だけであった。
「なっ、、、なっ、、、」
あまりの光景に絶句するアイザックスとは対照的に、レオンハルトは得意げな様子で話し始める。
「儂を他の獣人と一緒にするな。儂のこの極めた獣爪拳と膂力をもってすれば、たかだか数億匹程度の虫ケラを殺して回るのくらいわけないのだ。」
「く、くそ、、、!」
「あわわ、、、!これはマズイ!パナケイア様!!」
グレッグが自身に宿る神の名前を叫ぶと、たちまち彼の体が緑色の光に包まれ、黒い神父服は健康的な緑色のローブに変わり、その手にはどこからか現れた先端に玉のついた杖が握られていた?
「ム?」
「みんな治れ!ヒール!!」
グレッグが杖を振りかざすと、たちまち暖かい光があたりを包み込んだ。すると、アイザックスたちの体中にあった傷がたちまち消え去り、レオンハルトに切られた中で、かろうじて息があった人達の数も塞がった。しかし、大多数は何も変化がない。
「く、、、!やはり生き返らせることはできないか!」
「ふむ。貴様、妙な魔法を使うようだな。」
いつの間にか、レオンハルトはグレッグのすぐ後ろにまで迫ってきていた。グレッグはもちろん、ずっと獣人たちの方を見ていたアイザックスやビューフォードも、彼の動きが速すぎたために接近に反応できなかった。
「う、、、」
レオンハルトの3メートルはある体躯と、全身から放たれる殺気に気圧され、後ずさってしまう。
「普通の回復魔法とは違いそうだな?面倒そうだ。」
そう言うとレオンハルトはグレッグの頭を掴み、抵抗する暇もなく獣人たちのいる方向へ投げられた。
ドサッ
「ぐぁっ!」
「回復でもされたら面倒だからな。お前たちはそいつを片付けろ。儂はこいつらをやる。」
「了解です!へへへ、、、」
「くぅぅ、、、え?」
顔をあげたとき、グレッグの思考は一瞬真っ白になった。なぜなら獰猛な顔をした獣人が何十人も、自分を取り囲んでいたからである。
「こ、ここは平和に話し合いを」
「劣等種どもが調子に乗って、こっちもストレスが溜まってるんだ。存分に遊ばせてもらうぞ!!」
「そ、そうですか、、、」
(レイスーーーッ!!助けてーーーっ!!)
一方で、アイザックスたちは、レオンハルトに向けて剣を構えていた。
「さて、貴様らがこんな面倒なことを起こした元凶のようだな。貴様らは楽には死なせん。虫ケラ如きが我ら獣人に逆らったことを存分に後悔させてやるわ。」
「、、、ビューフォードのおっちゃん。どうやらやるしかないみたいだな。」
「もとより命など捨てる覚悟よ。」
圧倒的強者を前にしたアイザックスとビューフォード。そして、無数の獣人に囲まれたグレッグ。レイスが不在の間に、彼らにかつてないほどの危機が訪れていた。
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