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第39話 獣神タマ(2)

「ガハッ! ゲホッ! こ、この、、、!」


タマは地面に這いつくばりながら憎しみのこもった目で冷たく自分を見下ろすレイスを睨みつける。


「たった一発当てただけで、、、勝ったつもりでいるのかニャッ!!?」


タマは即座に飛び上がると地面に着地し、再び「獣爪拳」の構えをとった。


「もちろん、こんなので終わるだなんて思ってないし、終わらせるつもりもない。今の一発は昔の借りを返しただけだからな。」

「ニャ?さっきからニャにを言ってるニャ?昔の、、、?あんた、タマに会ったことがあるのかニャ?」

「ああ。」

「うーん。確かにあんたの顔、どこかで見た覚えがあるような、、、」


タマは過去の記憶を辿った。そして、浮かんできたのは、12年前の出来事であった。コウガと共に悪徳領主を成敗した時、他の衛兵が紙切れのように吹き飛ばされる中、たった1人だけ、コウガに真っ向から立ち向かってきた1人の騎士。

レイスの顔を見て、その騎士をタマは思い出した。

そして、その後広場で起こった出来事も。


「、、、ニャるほど。思い出したニャ。あの時広場でコウガに襲いかかった子供だニャ?」

「、、、ああ。そうだ。お前が俺に殺される理由がわかっただろ?こちとらいまだにあの時のことを数日おきに夢で見るんだ。」

「フンッ、、、逆恨みもいいところだニャ。あの領主は悪党だったニャ。ということはそれを守ったあんたの兄貴も悪党だニャ。」

「あの領主がどんなヤツだったのかはどうでもいい。俺が許せないのは、お前らがわざわざ全員を殺したことだ。お前らなら殺さずとも無力化させるなど容易かったはずだ。違うか?」

「、、、、、」


タマはしばらく考えたあと、ニヤリと口角を上げた。


「コウガはこの世で1番強くて偉いんだニャ。そのコウガに逆らったんだから死んで当然ニャ。」

「だから俺もお前を殺す。」

「やれるものなら、、、やってみニャッ!」


タマは体を低くすると、力強く地面を蹴った。

先ほどよりもさらに高速でレイスに接近すると、爪を伸ばした手を思い切り振りおろした。


スッ

スパッ


レイスの体をバラバラに切り裂くつもりで放った攻撃であったが、彼はすんでのところで横にずれ、タマの爪をかわしていた。代わりにレイスが立っていた場所から数キロメートル先までの地面と遊具が切り裂かれた。


「た、ただの爪がなんて威力、、、!まるで神の攻撃じゃない、、、!」


フレイヤはタマの攻撃の破壊力を目の当たりにして戦慄した。


「フレイヤさん。危ないので俺の中に入ってください。」

「え、えぇっ!」


レイスがフレイヤに避難するように言うと、身の危険を感じていたフレイヤは慌てて彼の体に潜っていった。


「フニャー、、、たまたまとはいえよく避けたニャ。でも奇跡はそう何度も起きないニャ。」

「奇跡?そんなスローな攻撃を避けたことがか?」

「ほざくニャ!!フニャニャニャニャッッッ!!」

スパパパパッッ!!


タマは次々と攻撃を繰り出していき、その度に豪華な庭園や遊具が無残に切り裂かれ、崩壊していくが、そのどれもレイスには当たらない。


「クッ、、、!このっ!!」


苛立ったタマはレイスの頭部目掛けてまっすぐ腕を突き出した。


ガッ!


その手が、レイスの頭を貫くことはなかった。彼は迫り来るタマの攻撃を見切り、彼女の腕を掴んで止めたのである。


「バ、バカニャ、、、」

「これで何度目だ?「奇跡」ってやつは?」

「く、喰らえ!」


タマは腕を掴まれたまま体を浮かせ、レイスの顔に蹴りを入れようとした。しかし、レイスはそれによって生じた一瞬の隙を見逃さなかった。


「フンッ!!」

ドゴッ!!

「ブニャッ!!?」


浮き上がった彼女の体に、レイスの拳が打ち込まれた。タマは叫び声を上げながら砲弾の如きスピードで地面に激突する。


「こ、こんニャこと、、、ありえニャイ!!」


タマは即座に立ち上がり、次々とレイスに攻撃を繰り出していく。蹴り、パンチ、切り裂きと、多種多様な攻撃を瞬きよりも短い間に何百とレイスに浴びせるが、レイスは平然とその全てを避ける。


「フニャニャニャッッ!!!」

「止まって見えるぜ。そんなスローな動き。」


そう言いながらレイスはタマの攻撃を避けて即座に彼女にカウンターパンチを叩き込む。


「ブニャッッ!!?」


顔に強烈な一撃を受けたタマは地面をバウンドしながらはるか遠くまで飛んで行った。


(す、すごい!なんて強さ、、、!あのタマを完全に圧倒してる、、、!!)


フレイヤはレイスの中から、彼の視界を共有する形で2人の戦いを見ていたが、彼女はただレイスの圧倒的な力に驚愕するばかりであった。

2人のあまりに速すぎる動きにほとんどついていくことはできなかったが、それでも、爪の一振りで当然のように地形を変えてのけるタマがジョナサンよりもはるかに強いことは理解できた。

にもかかわらず、レイスはタマが全く問題にならないほど圧倒している。


(ミケーアにいた頃とは全く別人。一体この子は何者なの?)


フライヤがレイスのことを不思議がっている間にも戦闘は続き、レイスは着実にタマを追い詰めていた。


「フ、フニャ、、、」


身体中に攻撃を受けてボロボロになったタマはドサリと地面に倒れ込んだ。


「終わりだ、クソ猫。地獄で見上げて今まで殺してきた人たち、それから兄さんと父さんに詫び続けろ。」


勝利を確信したレイスがとどめを刺すために仰向けで倒れるタマに近づいていく。


「ククク、、、ニャハハハハハハッッッ!!!!」


絶体絶命の状況だというのに、タマは突然大笑いし始めた。


「なんだ?おかしくなったのか?」

「驚いたニャ、まさかタマをここまで追い込むニャんて。でも忘れてないかニャ?」


タマは笑みを浮かべたままゆっくりと上半身を起き上がらせる。


「このタマにも「スキル」があるってことを!!」

「ッッ!!」

(レイス!!早くトドメを!!)

「分かってる!!」


フレイヤが叫ぶのよりも速く、レイスはタマを仕留めるために飛びかかっていた。その時、


ヂッ


と、マッチを擦ったような音がして、レイスは自分の右肩が突然軽くなったような気がした。見てみると、自分の肩の一部が抉られ、傷口は真っ黒になっていた。


「な、なんだ、、、?」

「あちゃー。あんまり慣れてないから狙いがズレちゃったニャ。」


レイスが気を取られている間に、タマは立ち上がっていた。そして彼女は、レイスに向かって人差し指をさし、それと同時に彼女の指先が光った。


「ヤバイ!!」


それがタマの攻撃であることを即座に感じ取ったレイスは、タマの指先がさす方向にある自身の胸を守るために、腕を胸の前でクロスさせる。


バチィンッ


腕に凄まじい衝撃を受けたレイスは、その衝撃を殺しきれず大きく後ろに吹き飛んだ。


「大丈夫!?」

「な、なんとか、、、」


レイスの体から出てきたフレイヤに支えられながらなんとかレイスは起き上がる。

謎の攻撃を受けた腕を見てみると、腕を覆うフレイヤのグローブは大きくひび割れ、穴から覗くレイスの皮膚は重度の火傷を負っていた。


「、、、これは魔法ですか?」

「まさか!?獣人は魔法を一切使えないはずよ!?」


アルフガンドの神であるフレイヤはこの世界の摂理を端まで知っている。その彼女が記憶を辿っても、魔法を扱える獣人は見たことがなかった。

なぜなら、そもそもアルフガンドの獣人には、魔法が使えない代わりに身体能力が高いという、生命を生み出す創造神が決めた「設定」があるからである。


「、、、チートスキルってやつか。」

「ご名答ニャ。」


レイスが可能性を口にすると返答が返ってきた。タマの手にはバリバリと音を発する電気の塊のようなものが握られている。それだけでなく、あれほどの攻撃を与えたのにもかかわらず、タマの体からは傷が消滅していた。


「コウガのおかげでタマは獣人の限界を超えたニャ。「無限電力蓄積(フルボルト・チャージ)」。タマは体内にいくらでも「電気」を溜められるニャ。」


そう言うとタマは手に持っていた稲妻を投げた。


「危ない!!」


レイスは間一髪でその稲妻をかわす。振り返ると、稲妻が飛んでいった方角には、レイスの視界のほとんどを埋めるほどの大きさのけむりが立ち上っていた。タマが投げた小さな稲妻は、国がいくつも入るほどの面積がある、「コウガランド」の一角を跡形もなく消し飛ばしたのだ。


「なんて威力だ、、、ジョナサンの必殺技みたいじゃないか、、、。」


その破壊力はレイスに、ジョナサンの最後の切り札を思い出させた。


「ニャハハッ!流石に素早いニャ!ならまだまだいくニャッ!」


タマは今度は両手にそれぞれ稲妻を生み出した。


「ヤバイ!」


危険を察したレイスは地面を蹴って空中に逃れる。


「逃がさないニャッ!」


タマは身体中に電気を纏い、宙に浮かび上がる。


「あいつ空も飛べるのか!?」

「喰らうニャッ!!」


驚いている暇もなく、タマが投げてきた2本の稲妻を、レイスは空中で身をよじることでなんとかかわす。

すると後方で、先ほどと全く同じ大爆発が立て続けに起こった。


「く、、、無茶苦茶しやがる、、、」

「レイス!危ない!!」


レイスが前方に意識を向けた頃には、雷と同化したタマがすでに懐まで接近しており、彼女のパンチをまともに受ける。


「カハッ、、、!」

ドォォォンッッ!!


タマのパンチの威力に乗って光を超えた速さでレイスは空中から地面に叩きつけられ、地面に巨大なクレーターが生まれた。


「グ、、、ッ くっそぉ、、、」


腹部を押さえながらなんとか立ち上がるが、タマの攻撃は終わらない。彼女は超高速でレイスの周りを回りながら次々と彼に攻撃を続けていく。


(パワーもスピードも桁違いに上がっている、、、!)

「捉えられないニャ?タマをさっきまでと同じと思うニャよ?」


レイスがほとんど反応できないほどの速度で蹴りが放たれ、それを腹部にまともに受けてしまう。


「カハ、、、ッ」


レイスは血を吐きながら転がっていき、仰向けで倒れる。先ほどとは全く逆の状況になった。


「ニャハハッ。いいことを教えてやるニャ。ここアルフガンドをはじめ、宇宙統一帝国では電気の永久機関が確立したニャ。だから、「コウガランド」の電飾も遊具も永遠に消えることがないニャ。ついでに、ここコウガランドの中心地にある「電波塔」からは、空気を伝って大量の電気がアルフガンド各地へ供給される!」

「、、、それがどうした。」

「頭が悪いニャ〜。つまりこういうことニャ!」


タマの体に雷が落ちてきた。それを受けたタマの体はバリバリと音を立てながら発光する。


「タマはこの()()()か、電気を補給できるニャ。タマは10年以上、こうやって充電を続けてきたんだニャ。」

「なっ!?アルフガンド全体に行き渡るほどの電力を貯め続けてきたと言うの!?だったらタマの中にどれだけのエネルギーがあるか、、、」

「くだらないな。」


驚くフレイヤとは対照的に、レイスはくだらんと吐き捨てた。


「俺は理科の授業を受けにきたわけじゃないんだ。ごたくはやめてさっさとかかってこい。まだ勝負はついちゃいないだろ。」

「ふん。口のへらない奴だニャ。だったら勝負ってやつをつけてやるニャ。」


そう言うとタマは空高く飛び上がり、腕を上げる。すると、タマの体内にある電気が彼女の手に集中していく。


「あわわ、、、っ!なんかヤバそうよ、、、!」

「確かに、ちょっとヤバイかもですね。」


地上の2人は、何か大きな攻撃が飛んでくることを悟り、身構えた。


「タマがこれまで貯めた電気の「10%分」を一気にくれてやるニャ!!くらえ!!「フルボルトキャノン」!!!」


タマは手のひらに集まった電気を地上目掛けて投げつけた。すると、





ピカッ




全てを「無」に還すほどの強烈な光が辺り一面を包み込み、レイスもその光の中に消えていった。

読んでくださりありがとうございます。

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