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第4話 全宇宙の頂点

軍神アレウス戦死


この知らせを聞いた神々は心の底から震え上がった。そして理解した。自分たちは「狩る」側ではなく「狩られる」側なのだと。上位神でもトップクラスの力を持ったアレウスが敗れたということは、ほとんどの神は転移者に勝つことができないということである。恐怖にかられた神々の多くは家に閉じ籠るか、神界から脱出し、それ以外は、上位神を中心に、軍勢を編成し、転移者への攻撃を試みた。


しかし、転移者は圧倒的な強さで神々の軍勢を剣で切り、魔法で焼きつくし、あるいは力任せに殴り飛ばして、蹂躙の限りを尽くした。その結果、神々の元に勝利の報がもたらされることは1度たりともなかった。


そして、転移者たちは次々と神界を制圧していき、ついには神界の首都にまでたどり着いた。


「やれやれ。全く。数だけは多いな。」


首都を警備する神たちの首を剣ではね飛ばしながら、コウガが愚痴をこぼす。


「文句ばっか言うんじゃなくてちゃんと働きやがれ!!」


コウガに怒声を浴びせたのは、彼と犬猿の仲であるカズキであった。彼は、首都警備の指揮官である上位神の頭を片手で鷲掴みにしていた。上位神の頭からは、メキメキと骨が軋む音が出ている。


「た、たす、、、助け、、、」

バキャッ!


言い終わるよりも前に、上位神の頭はカズキによって握りつぶされた。


「やれやれ。せっかく神と戦えると思ったのに拍子抜けもいいところなんだが。やれやれ。」

「こいつらはただの雑魚だ。こいつらを従えている最上位神なら少しは手応えがあるだろうさ。」


コウガの愚痴にユウヤが答える。


「で、そのお強い「最上位神」サマってのはどこにいるんだい?」

「あそこだ。」


カズキが聞くと、ユウヤは上を指差した。その先には、贅の限りを尽くしたという表現が当てはまる豪華な装飾が施されたとてつもなく巨大な神殿が宙に浮いていた。


「なるほど。まさに「世界の王」がおわすのに相応しいって感じの神殿だねぇ。おい!あそこに乗り込むんだよな!?」

「ああ。神界各地に派遣したヤツらが神どもを殺して帰ってきたらすぐにな。」

「りょーかい。あーあそれまで退屈だな。」

「退屈なら残りの神どもでも殺しに行ってろ。その辺の神殿の中には隠れてる神が大勢いるはずだ。」


まるで買い物にいくかのような感覚で、カズキは神都の神殿という神殿を破壊し尽くした。その結果、転移者が最高神のいる神殿に乗り込む頃には、神々の国の偉大なる首都は、瓦礫と死体で埋め尽くされた。




最上位神の神殿。この神殿は、「世界のすべてが始まる場所」である。神界でもっとも重要な施設であり、上位神ですらこの場所に立ち入ることは許されない。


神殿内部の会議場、その部屋の中で、神々の主である「最上位神」達はモニターを通して転移者の戦いを見ていた。


「へぇ、、、あの人間達中々やるね、、、」

「まさかあの時の人間達があそこまで強くなるなんて予想外だったわ。」

「ここにも攻めてくる気か?ちったぁ楽しめるといいが。」

「、、、、、、不届きな。」


最上位神は今まさに上位神たちを虐殺している様子を見て各々感想を言っているが、神たちが殺されていることに対して恐れたり、憤っている者は1柱としていない。

「最上位神」とそれ以外の神々では、神として、「1生物」として、格があまりにも異なり、最上位神と比べればそれ以下の神など虫ケラどころか微生物にも満たない力しかないため、彼らが冷めた反応をするのはある意味で当然であった。


「諸君」


その時、会議場全体に響き渡るような声が聞こえ、最上位神全員の顔が強ばり、声の主を恭しく見上げる。

視線の先にあったのは、最上位神が座る場所よりも高所に設置された玉座を思わせる椅子に座る3柱の神。

純白のローブを着た美しい女神の「創造神」、漆黒の衣装を身に纏った荒々しい風貌の男神である「暗黒神」そして、真ん中に座る、黄金の服を着た中性的な顔立ちの「中立神」。

彼らは最上位神の中の最上位神。宇宙の始まりの頃から存在している「原初神」である。彼らはまさに神々にとっての絶対的な王であった。その3柱の中で真ん中の椅子に座る神、「中立神」が言葉を続ける。


「我らが特別な恩恵を与えた人間が我らに反抗してきた。数分後にはこの神殿にも殴り込んでくるだろう。これはまさに人間のことわざで言うところの「飼い犬に手を噛まれる」というものだ。」


「中立神」の言葉を、他の最上位神は神妙な顔で聞いている。


「、、、これは試練だ。神が試練を受けるというのもおかしな話だが、ともかく、これは我らの力を示す絶好の機会でもある。諸君らの間にはいさかいもあったであろう。だが今はそれを水に流して、愚かな人間どもに天誅を下してやるのだ。」


「中立神」の演説を聞いた最上位神たちは歓声をあげ、それぞれ武器を装備し始めた。

「原初神」の3柱も玉座から下りてきた。その直後、


ドゴォンッ!


轟音とともに会議場の扉が吹き飛び、ユウヤを筆頭とした13人の転移者が神の会議場に乗り込んできた。


「人の身でありながらよくぞここまで来た。侵入者よ。褒めて使わすぞ。残念ながら褒美はないがな。」


神々の代表のように「中立神」が転移者たちに声をかける。それに対してユウヤは「中立神」に淡々と問いかける。


「貴様らがあの時俺たちを転移させた神どもだな?」

「そうだ。汝らの狙いは分かっている。この座が欲しいのであろう?」


そう言うと「中立神」は自分が座っていた「原初神」の玉座を指差した。


「強い者が生き残るというのは人の世界も神の世界も同じ。さっさと始めるとしよう。」

パチンッ


「中立神」が指を鳴らすと、転移者たちと最上位神を光が包み込んだ。





気づいたとき、ユウヤがいたのは「空間」であった。「広大」という言葉ではとても足りないほどのただただ巨大な「空間」。よく見ると、その空間には無数の球体が浮かんでいる。その球体はそれぞれ「宇宙」を内包していた。


「、、、、、、」

「おや?意外とリアクションがないな。安心しろ。汝の仲間は他の最上位神とともに「決戦」の場に相応しい別の時空へ転移させただけだ。丁度汝以外の転移者と我ら以外の最上位神はともに12いたからな。今頃それぞれの時空で1対1の戦いをしているだろう。


、、、改めてようこそ。この場所こそが「全ての始まり」の空間。ここは全ての宇宙を内包している。汝らが元々いた世界もアルフガンドも、この空間の1部だ。我らと汝の決戦のバトルフィールドとして、これほど相応しい場所などあるまい。」

「俺だけは貴様ら3人が相手というわけか。」

「フフフ。それは違うわよ坊や。」


ユウヤの問いかけに、今まで黙っていた「創造神」が初めて口を開く。


「俺たちは3柱であると同時に1柱でもある。」


それに続くように「暗黒神」も口を開く。それと同時に、「創造神」と「暗黒神」、2柱の体が光だしたと思うと、彼らは小さな光の玉となり、「中立神」の体に吸い込まれていった。


「、、、?」


ユウヤが困惑していると、光を吸収した「中立神」が話し始める。


「汝に少し昔話をしてやろう。どちらかと言えば歴史の勉強かな?ともかく、最初に、ただ1柱の原初神があった。原初神は拠点である「神界」と、宇宙を内包するための「空間」を生み出した。それが「ここ」だ。」


「中立神」は両手を広げて「空間」を示しながら続ける。


「原初神は自らの補佐をさせるための12柱の神を生み出すと、自らの強大すぎる力を3つに分けた。その結果、「創造神」、「暗黒神」、そして、「中立神」という、3柱の神が生まれた。」


「中立神」は今度は右手で自分自身を示した。


「「創造神」が司るのは文字通り「創造」。ヤツは1秒よりも短い時間の間に「無限」を超える数の宇宙を生み出す。」

「無限?」

「そう、無限だ。汝らの世界の数の単位で「無量大数」というものがあるであろう?数学の世界では「グラハム数」とか「巨大数庭園数」とかいうのもあるんだったか?ともかく、汝らが巨大と認識する数字ではとても足りない、たとえば「グラハム数」に「グラハム数」をかけて、それを「グラハム数」回繰り返しても到底足りない。それだけの数の宇宙を「創造神」は一瞬ごとに生み出したのだ。もっとも、「空間」自体がそれ以上の速さで膨張するからそれでも足りないほどだがな。奴は同時に生み出された宇宙に「生命の芽」を植えつけ、暗黒神はそこに「悪の芽」を植えつける。我は中立の立場でそれを見守る。こうして世界のバランスは保たれるはずだった。ところが、、、」


「中立神」は困ったようなポーズをする。


「創造神と暗黒神は仲が悪くてな。しょっちゅう争っていた。我が止めても聞きはしない。とはいえ「原初神」同士が直接争うのはご法度だ。だから奴らは作った宇宙を舞台に争ったのだ。アルフガンドに現れた魔王も、暗黒神から創造神への嫌がらせの一環だ。逆に汝ら転移者は創造神による暗黒神への嫌がらせのやり返しというわけだ。創造神が作った特別な恩恵、汝らが「チートスキル」と呼んでいるものを人間に与えたらどうなるのかという実験の意味合いも含んでいた。」

「、、、つまり何だ?」

「つまり、、、汝ら転移者は、力を手にしたと自惚れているようだが、我らからすれば汝らなどいわゆる「ボードゲームの駒」でしかないということだ。」

「くだらん。結局は言いたいのは「自分は偉い」ということか。貴様らはその「駒」に滅ぼされるんだ。」


ユウヤは2本の剣を抜いて構える。


「我らを、、、「我を」甘くみないほうがいいぞ。」


「中立神」から凄まじいプレッシャーが放たれる。さすがのユウヤもこれほどの威圧感を感じたことはなく、わずかに動揺する。


「我は他の2柱の力を吸収することで、本来の「原初神」の力を取り戻すことができるのだ。安心しろ。「駒」相手とはいえ、これほどの舞台で手を抜くなどという白けるような真似はしないさ。」


そう言うと、「中立神」もとい「原初神」の体が光はじめた。


「心するがいい。ハァァァァッッ!!」


「原初神」が力を解放した瞬間、「空間」全体が光に包まれた。


光が消えたとき、ユウヤの目の前にいたのは、巨大な三つ首の竜であったのは。首はそれぞれ、両端の白と黒、真ん中の黄金と、「原初神」の3柱を思わせる色をしている。そして、何よりも特徴的なのはそのサイズである。指をほんのわずかに動かしただけで、無限を超えた数の宇宙が潰され、消滅してしまっている。


「これが「原初神」の真の力だ。感謝するぞ人間。汝がいなければこの力を発揮する機会など未来永劫訪れなかったであろうからな。」

「フハハハッッ!!力があふれでてくるぜ!」

「フフフ。あっさり終わっちゃつまらないから少しは頑張ってね。」


三つの首がそれぞれ人格を持っているようで、それぞれ喋りだす。この巨大なドラゴンを前にして、ユウヤは剣を構えながら珍しく口角をニィッと上げた。


「少しは本気でやってもよさそうだな。」




一方その頃、、、


「ガ、、、 バ、、、ッバカな、、、ッ」


左肩から大きく袈裟斬りにされた最上位神が地面に倒れ込んだ。

彼はあらゆる戦いを司る戦の神であり、剣を扱うコウガとは相性がいいはずであった。しかし、現実は、彼に1度も攻撃を与えることもできず、一方的に斬られ、倒された。


「こ、、、この、、、私が、、、人間、、、ごときに、、、」

「やれやれ。弱すぎなんだが。やれやれ。こんなのが戦神とはちゃんちゃらおかしいな。やれやれ。これなら僕の妻たちのほうがよっぽど強いぞ。やれやれ。」

「に、人間がぁぁぁぁっっっ!!!」


おちょくるようなコウガの口調に激怒した戦神は、コウガに飛びかかったがその瞬間、コウガに素手で顔面を殴られ、気を失ってしまった。


「やれやれ。まったく単細胞だなやれやれ。ユウヤに殺すなと言われてたけど弱すぎてうっかり殺してしまうところだったぞやれやれ。」


コウガが戦神を倒すと、彼とボロボロの戦神は自動的に神殿まで転送させられた。彼が転送された頃には、既にほとんどの転移者が勝利して戻ってきていた。彼らの足元には、瀕死の最上位神が転がっている。


「あと来ていないのは、、、ユウヤだけか。」






「ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、」

「、、、こんなものか。」


「始まりの空間」での戦いは、早くも決着がついていた。「原初神」の体には大きな切り傷があちこちにあり、おびただしい量の血を流しており、さらに、真ん中以外の白と黒の首は切り落とされていて、首が1本だけになっていた。一方でユウヤのほうは、服こそ汚れたものの、目立った傷はない。

竜の体が光り、もとの「中立神」の姿に戻ると、彼はそのまま倒れた。


「こ、ここまで、、、力の差が、、、あったか、、、」

「言うだけのことはあった。俺以外の転移者が相手だったら善戦くらいはしただろう。」

「ク、クク、、、ハハハハハッ!」

「何が可笑しい。」

「ハァ、、、ハァ、、、ま、負けたのは悔しいが、、、我らは、、、今まで作ることのできなかった、、、「神をも超える力」というものを、、、ついに生み出したのだ、、、で、できれば、、、汝らがどこまで行くか、、、見届けたかった、、、」

「それは無理だな。貴様はここで死ぬ。そして俺の作った「スキル」で貴様らの力を奪い、俺たちは更なる高みに達する。そのために他の転移者には最上位神を生かしておくように言ったんだ。」

「フ、、、そうか、、、我らの力を奪い、、、本格的に神を超えるつもりか、、、」


ユウヤは「中立神」の胸に手を置いた。


「スキル「強奪」」


ユウヤが叫ぶと、ユウヤの手が「中立神」の中に入る。それを抜くと、ユウヤの手には光の玉が握られていた。


「これが貴様の「創造」の力だ。これがあれば俺は「チートスキル」を作れるようになる。」

「、、、我らが作った恩恵は、、、「チートスキル」は1人につき1つしか身に付けられないんだぞ。」

「知っている。作った「チートスキル」は俺たちに忠実な者に与える。そいつらに数多の時空を支配させ、俺たち転移者による永遠の帝国を築くのだ!」

「、、、、、、」


ユウヤを見て「中立神」は思った。かつての自分達のようだと。


「、、、汝らは全能感に支配されている。」

「当然だ。全能なのだからな。」

「我らもそう思っていた。だが結果はこのザマだ。汝はどこまでも強いが「全能」ではない。我ら神も含めて「全能」などこの世に存在せんのかもしれんな、、、いつの日か汝をも越える存在が現れるだろう。」

「言いたいことはそれだけか?貴様にはもう用はない。今楽にしてやる。」


ユウヤは剣を抜いて、「中立神」に止めを刺そうとする。ユウヤの剣が「中立神」の胸を貫く直前、「中立神」は叫んだ。


「地獄で待っているぞ!ユウヤ!」


こうして、神界は完全に転移者の手におちた。最上位神は、ユウヤによって力を抜き取られた後、1人残らず処刑された。

転移者がアルフガンドに現れてから、神界を完全に制圧するまでの期間、わずか3年。

転移者は神をも超えた。文字通り「全て」を手に入れた。世界を生むのも壊すのも転移者の自由になった。


神が倒れたことを知った「全世界」の人々は、転移者による支配を甘んじて受け入れた。既に転移者の力に魅了されていた人たちは諸手を上げて歓迎し、そうでない人たちも、彼らの圧倒的な力を前にして、抵抗する気力を完全に失った。

それから10年、世界の人々のほとんどは、「世界が転移者に支配されるのは当然だ」と考えるようになった。


しかし、ほんの一握りの人々は、まだ諦めていなかった。

ある者は成り上がるために、ある者は自身の力を世に示すために、そして、ある者は復讐のため、全宇宙の頂点となった転移者たちの命を狙っていた。



森の中で1人トレーニングに励む青年、レイス・ビネガーもその1人である。

この物語の主役は転移者たちではない。

これは復讐の物語。

そして、世界を転移者たちから解放するために戦う戦士たちの物語である。

読んでくださりありがとうございます。

今回で長いプロローグは終わりです。

次回からはこの物語の真の主役であるレイスの視点に入ります。

最後に、改めて読んでくださりありがとうございます。

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