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第37話 再会と再戦

「フニャーッ。さっぱりしたニャー。アレ?電話がきてるニャ?」


画家を殺した時についた血を落としたタマが風呂場から出てくると、机の上の携帯電話、「スマートフォン」と呼ばれるものに着信履歴があることに気づいた。


「もしかして、、、コウガッ!!?」


コウガから連絡が来たと思い込んだタマは光の如きスピードでスマホに飛びついた。

このスマホはコウガが特殊な魔法で作ったもので、コウガ、シルフィ、カレン、マリー、そしてタマの間で、どれだけ離れていても連絡がとれるという代物であった。アルフガンドの支配者となったことでたまにしか会えなくなったタマにとって、スマホはコウガを感じることができる数少ない道具の一つであった。

しかし、履歴を見ると、電話をかけてきていたのはシルフィであった。


「ニャーんだ、、、」


相手がコウガではないと知ったタマは露骨にテンションが下がったが、シルフィもコウガを取り合うライバルとはいえ大切な仲間である。タマはすぐに折り返しの電話をかけた。


プルルル プルルル ガチャッ


どうやらスマホを持って待機していたのか、すぐに繋がった。


『もしもし?タマですか?』

「そうニャ。一体なんのようニャ?」

『なんのようじゃないですよ!あなたのアルフガンドで今大変なことが起こってるじゃないですか!』

「、、、ニャ?」


慌てた様子のシルフィに対して、なんの心当たりもないタマは間の抜けた声を出してしまう。タマが何も分かっていないことを電話ごしに悟ったのか、スマホからシルフィのため息が聞こえてきた。


『全く呆れましたよ、、、何も知らないんですね。いいですか?落ち着いて聞いてください。私も先ほど「情報部」から聞かされたのですが、、、アルフガンドのミケーアが敵の手に落ちました。』

「ニャンですと!!?」


予想外のシルフィの言葉にタマは部屋中に響き渡るほどの大声で叫んだ。


『ち、ちょっとタマさん。あまり大声を出さないでください。』

「ご、ごめんニャ。でも、ミケーアがやられたってことは、、、」

『えぇ、あのジョナサンが負けたってことです。』


タマの脳裏に、かつてコウガに戦いを挑んでコテンパンにされ、後にコウガに忠誠を誓った元Sランク冒険者、ジョナサンの姿が浮かぶ。


「、、、あいつは昔コウガに逆らったイヤなヤツだったけど、実力はある程度あったはずだニャ。」

『えぇ。ですが本当に敗北したようです。それもたった1人を相手に、、、どうやら敵はかなり手強いですよ。』

「それは分かったニャ。それで、どうすればいいニャ?ミケーアを攻め落とせばいいのかニャ?」


タマは手の爪を少しずつ伸ばしながらシルフィに相談する。コウガの支配地が陥落したということは、愛しのコウガに喧嘩を売ったということであり、それはタマとしては一番許しがたい行為であった。

しかし、流石にタマの独断で国を滅ぼすことはできない。「コウガランド」を作るためにいくつもの国を更地に変えたが、その際にもコウガやその最側近であるシルフィの許可が必要であった。


『いいえ。あの街はコウガ様の覇道の始まりの一つ。コウガ様もミケーアを破壊することは望まれません。それに、敵はどうやら流れ者のようで、すでに街を出たそうです。』

「ニャ?それじゃあどこにいるのかニャ?」

『情報部によりますとあなたのいる場所の方角に、、、』


シルフィがその「敵」の居場所について話そうとしたその時、


ドゴーンッ


タマの驚異的な聴覚が、遥か遠くで起こった爆発らしき音を捉えた。


「ニャ?」

『タマ?どうかしましたか?』

「、、、シルフィ。どうやら向こうから来てくれたみたいだニャ。」

『なんですって!?すぐさま援軍をそちらに』

「いらないニャッ!そんなもの!コウガの世界を荒らす者は誰であろうと許さない。その不届きものはこのタマが直々に成敗してやるニャ。」


そう言うとタマは通話を切って、バルコニーに出ると、足に力をこめる。


「ニャンッ!!」


彼女がそのまま思い切りジャンプすると、凄まじい衝撃波を発して、「愛の城」が跡形もなく崩れ去り、城にいた使用人たちは全員わけもわからずそれに巻き込まれて死んだ。

移動するためのジャンプによって甚大な被害が出たわけだが、タマにとってはそのことなどどうでも良かった。

城など奴隷をまた大量に調達して建てさせればいい。コウガの美術品も、また芸術家を集めて作らせればいい。

今のタマにとっての最重要事項は、突然現れた、コウガに反抗する愚か者を処刑することだった。

当然だが、反抗したところで、神を超えた存在であるコウガはおろか、自分たちの脅威になることすらあり得るはずがない。しかし、彼女にとって絶対的なコウガを否定する人間がいるという事実だけで、彼女を正気を失う寸前まで激怒させるには十分であった。


「今に見てるニャ。このタマが血祭りにあげてやるニャ。」





一方その頃、コウガランドの各地では、反乱を起こした人間と、獣人との間で戦闘が起こっていた。


「うーん、、、まさか、、、こうなるとはね、、、」


あたりに人間と獣人の屍が倒れ、人間の集団が獣人を追い回している光景を高台から目の当たりにして、レイスは半ば呆然とした様子で呟いた。

タマを探しながら人間を虐げる獣人を片っ端から倒してきたわけだが、このようなカオスな事態に陥ることは予期していなかった。


「おそらく人間たちはすでに臨界点に達していたのでしょう。我々が来たことでそれが爆発したのでしょう。それにしてもこれは、、、なんとも凄惨な、、、あの、、、フレイヤ様。あなたの「神様パワー」的なのでなんとかできませんか?」


グレッグはフレイヤに問いかけた。元神父の癖で神様を頼ったが、当のフレイヤは頭を横に振った。


「そんな都合のいいことできないわよ。それに、前にも言ったけど私の力はほとんど全部このレイスにあげたのよ?何とかできるとしたら彼の方よ。」

「ああ、そういえばそうでしたね、、、一体どうすればよいのでしょうか?」

「騒ぎをおさめるのなら、獣人のトップであるタマを倒すのが一番手っ取り早いわね。」

「でも、さっきから探していますが、ここが広すぎてとても見つけられませんよ。レイス君はどう思いますか?」


グレッグはこの混乱を引き起こした張本人であるレイスを見る。彼は腕を組んだまま無表情で惨劇を眺めていた。


「何もしない。ここで待ってる。」


レイスのその返答は、グレッグの予想を外れたものであった。なぜならレイスは、タマを地の果てまで追い詰めていきそうな殺気を放っていたからであった。


「え?何もしないのですか?」

「うん。」

「ど、どうして?」


フレイヤも不思議に思ったようで、レイスに疑問を呈した。


「、、、俺は「あいつら」とは5分くらいしか同じ空間にいなかった。、、、5分より短いかも。でも、その短い時間でも、あいつらがどういうヤツなのかってのはよく分かったよ。」


レイスはたくさんの像や遊具を指さした。


「あいつらにとってはとにかく「コウガ様」がこの世の中心だ。大方、この遊園地もコウガの機嫌をとるために作られたんだろう。」

「そ、それがどうかしたんですか?」

「タマってやつが、コウガに関わるものを壊されて黙っているとは思えない。あいつは必ず、今まさに騒動が起こっている「ここ」に来る。」


その時だった。


ズドォォォンッッ!!!


「何か」が凄まじいスピードで地面に落ちてきた。誰もがその物体を正確には認識できなかった。誰もが隕石かと思ったが、やがて、巨大なクレーターの真ん中から、砂煙をかき分けて1人の少女が姿を現した。


「ニャー。よくもやってくれたニャ?この下等種族どもがぁ。」

「タ、タマ、、、ッ!」


少女の見た目とは思えないほどの殺気を放つタマを前にして、人間たちの間に恐怖と混乱が広がる。


「コウガの遊園地を作るっていう素晴らしい仕事をくれてやったのにサボるどころか壊すなんていい度胸だニャ。」


タマはクレーターから出て人々の前に立った。彼女が一歩前に出るたびに、人々は気圧されて後ろに下がってしまう。


「数だけは多いから調子に乗ったのかニャ?一匹とて逃がさニャイ!お前らは全員タマの爪でズタズタに」

「よお。」


タマの声を遮って1人の男が彼女の背中から話しかける。


「ニャ?」

ゴッッッッ!!!


タマが声のした方を向いた瞬間、鼓膜が破れそうになるほどの爆音が周囲に響き渡った。タマを見た瞬間、高台からタマの背後へ移動したレイスの拳が、彼女の顔をとらえたのである。そのあまりの速さのために、彼のすぐ近くにいたグレッグやフレイヤは、彼がいつ移動したのか全く分からなかった。


「くあっ!」


空から降ってきたタマが、今度はレイスによって空に殴り飛ばされた。レイスもそれを追うように、地面を蹴って空に飛び上がった。


「ち、ちょっと!?」


レイスからあまり離れられないフレイヤも、飛んでいったレイスに引っ張られる形で空に飛んでいく。

人々も、高台に残されたグレッグも、何が起きたのか分からず全員ポカンとしていた。


「く、、、一体何者ニャ!?このタマが気配を感じ取れなかったニャンて!」


タマにとって殴り飛ばされた以上に重要だったのは、攻撃してきた人間が、コウガの側近である自分に気配を全く感じさせることなく超至近距離まで接近してきたことであった。タマは空を飛びながら、自分を攻撃した白髪に赤色の髪が混じり合った人間の正体について考えていた。


「もしかしてアイツがジョナサンを倒したっていう、、、」

「こんなもんじゃ終わらないぜ?」


シルフィの言っていたことを思い出した時には、レイスはすでにタマに接近して、攻撃の構えをとった。


「ッッッ!!!」


タマは咄嗟に防御するが、レイスの蹴りの威力を殺し切ることはできず、タマは隕石のような勢いで地面に落ちていった。


ズドォォォンッッ!!!


タマが着地した時よりも数十倍は大きなクレーターができ、周囲の像や遊具はその衝撃によって崩壊した。


「く、、、この、、、!」


さすがと言うべきか、レイスの凄まじい攻撃は致命傷にはならず、タマは地面にめり込んだ体を即座に持ち上げて、目の前に立つレイスと、彼に抗議の視線を向けるフレイヤに対して構えをとった。


「な、何者ニャッ!?お前たちは!」

「忘れてるのか?まぁ、そりゃそうか。ならこれから思い出させてやるよ。まずは自己紹介だ。俺はレイス・ビネガー。これからお前を倒す者の名だ。」


一見冷静な自己紹介をしたレイスだったが、彼の心の中は炎のように燃え上がっていた。


「ようやく、、、ようやく1人目に会えたぜ、、、兄さんと父さんの仇、、、なんとしてでも取らせてもらう!!」


読んでくださりありがとうございます。

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