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第36話 狂乱

「一斉にかかれ!!」

「調子に乗るなよ!!人間ごときが!!」

「八つ裂きにしてやる!!」


作業場では、突如現れた侵入者レイスに対して、獣人たちが攻撃を続けていた。しかし、


「ハァッ!!!」

ズバババッ


獣人たちは次々と、レイスの手刀によって紙切れのように切り裂かれるか、あるいはパンチによって体に風穴が開くかして、屍となっていく。


「よし。片付けた。このまま次の所へ行くぞ。早く車を出してくれ。」

「あ、はい。」


あっという間に数十にのぼる獣人の死体の山を築いたレイスは特にリアクションをするでもなくグレッグに命令する。

さっきから、獣人たちを見つけては殺し、見つけては殺しを繰り返すレイスの体は異様な殺気に包まれており、車内は緊張感で包まれていた。

フレイヤですら気まずそうに黙ったままなので、グレッグはたまらずレイスに話しかけた。


「レイスくん、、、。なんかピリピリしているといいますか、、、殺気だってませんか、、、?」

「いや、別に?」

「あんな風にすぐ命を奪うタイプではなかったと思いますが、、、」

「奴らはこれまで何人も殺してきた。」

「それはそうですが、、、」


グレッグが聞いても、身も蓋もない答えばかりが帰ってくる。


(レイスのこの怒りは明らかに尋常ではない。)


グレッグは詳細は知らないが、ミケーアの城での反応からして、レイスとタマには何かしらの因縁があることは容易に想像できた。

でなければ、あのタマにわざわざ喧嘩を売りに行くような真似はしない。それこそ相当に覚悟が()()()()()()のだろう。


(ほとんど勢いでついてきたけど、はたして俺はレイスの隣で戦えるだろうか?)


先ほどから続いているレイスによる獣人たちの虐殺。それは、レイスと自分の力の差のみならず、これから先戦っていく覚悟の差を見せつけられるようで、グレッグはそれに一抹の不安を覚えた。





「クソッ!連絡がつかない!どうなってるんだ!?」


レイスたちが暴れている場所とは別の作業場、神の地を飾る庭園を作る区画では、獣人達が混乱状態に陥っていた。

「神の地」があまりに広すぎるために、何らかの異常事態が起こっていることは分かるが、正確な情報を知ることはできなかった。また、もし正確な情報を伝えられたとしても、見下している人間たった1人に同胞が次々と倒されているなど、信じることはできなかったであろう。


ドゴォォン!


「ウォッ!!?」


離れた場所から轟音が聞こえ、音の発生源に目を向けると、巨大な砂煙が立ち上がっているのが見えた。


「クソッ、一体なんだってんだ?ドラゴンでも攻めてきたってのかよ!?」

「分からん。だがただならぬことが起こっているのは間違いない。」

「何かあったらタマ様にどんな目に合わされるか、、、!」


獣人たちはああだこうだで意見がまとまらない。その間奴隷たちは作業の手を止めて獣人たちの話し合いの様子をじっと見ていたのだが、そのことを気にかける余裕のある獣人は1人もいなかった。


「、、、仕方ない。何人か様子を見に行こう。作業に支障が出れば俺たちは連帯責任だ。流石に俺たちは殺されんだろうが、奴隷どもが大勢死ぬのは避けられん。そうなると面倒だからな。」

「ああ、それがいい、、、」

ヒュンッ ドスッ!

「え、、、?」


突如飛んできた枝切り鋏が、獣人の胸を貫き、わけもわからず絶命した。


「な、何が、、、グッ!?」

ドスッ! ドサッ


立ち尽くしている獣人に向かってもう一本の枝切り鋏が、今度は頭部に当たる。

この段階でようやく獣人たちは周囲を見渡した。すると、多くの人間の奴隷たちが、その手に鋏やハンマーなどを握りしめて、憎しみに燃える目で獣人たちを睨みつけ、取り囲んでいた。


「き、貴様ら、、、っ!気が狂ったのか!?こんなことをしてただで、、、っ!!」


獣人が騒ぎ立てるなか、奴隷の1人がスゥッと息を吸った。そして、


「ブッ殺せッッッッ!!!!」

「「「ウォォォォォォォッッッ!!!」」」


周囲に響き渡る叫び声とともに、奴隷たちは一斉に獣人たちに飛びかかった。


「なっ!?このっ!!」

ザシュッ!


1人の狼獣人が、迫り来る奴隷を自慢の爪で3人まとめて切り裂いた。しかし、


ドゴッ!

「グアアッ!」


奴隷たちは一才怯むことなく、狼獣人に接近して、手にしていたハンマーを狼獣人に振り下ろした。狼獣人は頭から大量の血を流して地面に倒れ込み、数人の奴隷がその体を押さえ込んだ。


「やれっ!!やっちまえっ!!!」

「や、やめ、、、」

バキッ! ドスッ! ドカッ!

「アアアアアアッッッ!!!」


狼獣人の体には次々と工具や鋏が突き立てられていき、あっという間に限界を留めないほどの肉塊となる。

本来、人間が膂力だけで屈強な獣人を傷つけることは容易なことではない。しかしながら、転移者たちが支配者となって以来、あらゆる技術は飛躍的に進化し、その結果、奴隷たちに支給された枝切り鋏や、像や石碑を作るための様々な工具は性能がかなり良く、容易く獣人にダメージを与えることが可能になった。

そして何より、神の地で働かされている人間の奴隷の数は、獣人よりも圧倒的に多かった。


「殺せっ!殺すんだっ!!苦しめて殺せっっ!!」


最初に叫んだ男の号令に従い、奴隷たちの復讐は激しさを増していった。兎獣人はその長い耳を切り落とされ、猫獣人は尻尾を端から切り刻まれていく。

体を破壊されていく獣人たちの絶叫と、獣人を痛ぶる人間の狂気の笑い声が周囲に響き渡った。そして数分後、約30人いた獣人は全滅した。

辛うじて息のある者もいたが、それでも目を抉られたり、舌を切られたり、爪を全て剥がされた上で手足の骨がバキバキに砕かれたりしていて、再起不能になっていた。


「ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、」


獣人への復讐を終えた人間たちはその場で呆然と立ち尽くしていた。何か考えが会ったわけではない。獣人たちが動揺している隙をついて衝動的に彼らに復讐したのである。これだけのことをすれば、死刑は免れない。いっそ死刑ですめばまだマシであろう。もっと恐ろしいのは、他の人間たちへの見せしめとして、絶え間ない拷問を受けることである。


「ハ、ハハッ、、、」


自分たちの暗い未来を予見して、人々は乾いた笑い声を出してその場に座り込んだ。その中で、20歳前後の若い男が、近くにあったコウガの巨像に向かっていった。男性にしては長いストレートの髪の毛が特徴の、鋭い目をして、痩せた背の高い男は、最初に獣人に鋏を投げ、「殺せ」と叫んだ男だった。


「こんなもの!!」


青年は自分たちが作ったコウガの像目掛けて、何度も何度もハンマーを振り下ろす。

しかし、青年の膂力では、コウガの像に僅かに傷をつけるのが精一杯だった。


「ハァ、、、ハァ、、、クソッ、、、!」


思ったように壊せないことに苛立ちを覚えながらも、男は何度も何度も巨像の足元を殴りつけていく。


「おい、それじゃいつまで経ってもダメだ。」


長髪の青年とは対照的な短髪で筋肉質な中年の男が見かねて、話しかけてきた。


「あんたは、、、」


青年はその顔に見覚えがあった。彼は、青年の隣で作業していた老人が倒れた際に、その亡骸を放り投げた監視員であった。


「貸してみな。」

「え?ちょっと、、、!」

「ハンマーってのはこう使うんだ!」


男は青年からハンマーを奪い取ると、渾身の力を込めてハンマーを像に叩きつけた。すると、バキバキとヒビが入っていき、像はズズーンと音をたてて後ろに倒れた。


「、、、あんたすごいな。」

「まぁ、昔は冒険者だったもんでな。」

「そんなのか、、、その、、、ありがとよ。」



長髪の男は礼を言うと、倒れた像の上に立ち、ハンマーを持った手を空に向けて突き上げた。


「みんな聞いてくれ!!このまま突っ立ってても死ぬだけだ!どうせ死ぬなら俺はあの獣人(クソ)どもに目にものを見せてやりに行く!お前らはどうする!?」

「「「うおおおおっ!!!」」」


男の言葉を聞いた人々は叫びながら武器を突き上げた。すでに人々の怒りは頂点に達しており、逃げることよりも復讐を優先するようになっていた。


「よし!理由は分からんがあの獣人(クズ)どもは混乱状態にある!奴らを殺して行ってもすぐに応援が駆けつけることはないはずだ!目についた獣人(クズ)どもは片っ端から殺せ!ついでにこのクソみたいな「広場」もめちゃくちゃにしてやるぞ!!」

「「「おうっ!!」」」


号令と共に人々は一斉に動き出した。ここだけでなく、広場の至る場所で人間による獣人への反乱が巻き起こっていた。あるものは木々を焼き、あるものは像を粉々に打ち壊し、またあるものは獣人を凄惨な拷問にかけていた。


「ハッ!すごいことになったな。」


像を壊した男が、長髪の青年に話しかける。


「ああ、みんな怒りが溜まってたのさ。こうなったら命尽きるまで暴れてやる。」

「俺はすぐには死ねねぇ。ちゃんと「手土産」を持って息子に会わなくちゃならないからな。」

「おじさん息子がいるのか?」

「ちょうどお前さんくらいのな。誇りを持って息子に会えるよう、散々俺たちを苦しめてきた獣人どもに目にものを見せてやる。」

「そうだな。ところでおじさん名前は?」

「ビューフォードだ。お前さんは?」

「アイザックス。」


その後、長髪の青年アイザックスと、元冒険者のビューフォードが中心となり、わずか数時間で各地の暴徒を次々と吸収して軍団を形成し、獣人たちを次々と血祭りにあげていくのだった。

レイスがこの地に降り立ったのを皮切りに、神の地はかつての美しさなど見る影もないほどに破壊されていくのだが、丁度この時、返り血を落とすために入浴していたタマに、そのことを知るよしなどなかった。

読んでくださりありがとうございます。

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