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第33話 希望などない場所

アルフガンドの中心部にある遊戯国家「コウガランド」。

何百もの国を更地にして作られた巨大な国を兼ねた遊園地。

その園内には様々な植物が植えられ、池や噴水が設置されたりして、さながら王宮の庭園のようであった。また、観覧車やジェットコースターなどの遊具もいくつも置かれていた。しかし、何よりも目立つのは、その遊園地の至る所に設置された、高さ数10メートル以上はある無数の像である。黄金でできたその像はコウガそのものである。両手を広がるコウガ、剣を構えるコウガ、剣を振り下ろすコウガ、広場にある像全てが、コウガの形をしたものであった。そして、その足元には、コウガがいかに素晴らしい人間であるかということを記したパネルが設置されてある。

「コウガランド」とは、コウガの偉大さを知らしめるためだけの場所である。この広場を作るために、コウガが冒険者だった時のパーティーメンバーの1人、タマはアルフガンドの中心にあった大小数百の国を一瞬で更地に変えたのである。



そんな、あちこちに建つ巨大な像の足元では、大勢の人間たちがさながら働き蟻のようにワラワラと動いていた。

彼らは全員、コウガランドを作るために無理やり連れてこられた、タマによって滅ぼされた国の国民たちである。奴隷となった彼らに与えられる役割は3つ。像の作成、遊具の建設、そして、像をより美しく見せるための、広大な庭園を像の周りに作ることである。


彼らにとって最悪なのは、「作業が永遠に終わらない」ことである。タマのコウガへの崇拝は止まるところを知らず、定期的にコウガランドの周辺国を更地にしてはその場所に新たに像と庭園を作るのである。そのため、神の地は一番最初に作られた時から倍以上の広さになっていた。

機械では到底間に合わず、人力も容赦なく駆り出される。魔法が得意な者は、魔力が完全に切れるまで魔法を駆使して作業し、そうでない者は黄金にロープをくくりつけて、複数人で像に向かって引っ張っていく。

彼らは毎日毎日寿命を削りながら、神の地を広げるために働き続ける。


「ハァーッ ハァーッ ウゥッ!」

ドサッ


作業をしていた集団のうちの1人の老人が、力尽きて倒れてしまった。


「お、おい!大丈夫か!?じいさん!」


老人の近くでドリルを片手に作業していた青年が、老人に駆け寄り、その体を抱える。周りにいた人たちも作業を中断して、老人を囲う。


「しっかりするんだ!じいさん!」


青年は呼びかけるが、老人は全く反応がない。すでに老人の呼吸は停止していた。


「クソッ!」


悔しさと怒りで、青年は舌打ちをする。その時、


「貴様らっ!!何をやっているんだ!!サボるんじゃあないっっ!!」


鎧を着た監視員の1人が、鞭を振り回して、顔を真っ赤にして怒鳴りながら青年たちに駆け寄ってくる。


「じいさんが死んだんだ。この人のための墓を作る時間をくれないか?」

「バカがっ!!そんな時間などあるわけがないだろうがっ!!」


監視員は老人の遺体の胸ぐらを掴むと、乱暴に放り投げた。


「よく聞けっ!!作業員はすぐに補充する!!それまでは貴様らだけで作業を進めるんだ!!分かったらさっさとやれ!!」


監視員が鞭を思い切り地面に振り下ろすと、奴隷たちは怯えながら作業を再開する。


「ハァッ、、、ハァッ、、、ハァッ、、、」


奴隷からは高圧的に見える監視員であったが、実際のところ、その表情には奴隷を痛ぶるのを楽しんでいるような表情はない。むしろ、手がガクガクと震えるほど怯えきっていた。


(タマ様の視察は近い、、、っ!急がねばっ!少しでも遅れたら全員殺されるんだ、、、っ!)


命の危険に晒されているのは奴隷たちだけではない。彼らを見張る監視員の方も、いつ命を落とすかも知れない状態にある。


このコウガランドを支配しているのは、「獣女王タマ」を頂点とした獣人である。そのため、この場所では人間は監視員といえども立場的にはほとんど奴隷と変わりない。

コウガランドに連行された数十億人にのぼる人間たちは、約100万の獣人によって完全に支配されていた。


ザッ ザザッ


突然、監視員の腰に下げていたトランシーバーが反応した。彼の周りにいた他の監視員も、一斉にトランシーバーを手に取る。


(赤色の点滅、、、これは、、、「非常事態」!)


嫌な予感がしながらも、監視員はトランシーバーから発せられる声に意識を向ける。その声は一見冷静なようで、どこか焦りを感じさせる調子だった。


『監視長が抜き打ちの視察。繰り返す。監視長が抜き打ちの視察。準備されたし。』


その言葉を聞いた時、監視員たちは一斉に騒ぎ始める。


「なんてことだ、、、レオンハルト監視長の視察だって、、、?」


思いもよらぬ情報に皆慌てていると、再びトランシーバーから声が聞こえてくる。


『追加。監視長はあと5分ほどでそちらの区画に到着する予定。至急準備されたし。』

(あと5分!?まずい!!)

「おいお前たち!!あと5分で監視長が来る!いいか!彼の前では「死ぬ気で働いている」ように見せるんだ!!少しでも怠けていると思われたら終わりだぞ!!分かったらさっさと作業にかかれ!!」


監視員たちは奴隷に対して大声で指示を飛ばしていく。奴隷たちは監視長が来ると聞いて、半ばパニック状態になりながら、なんとか「必死に働いている」ように見えるよう務めるのであった。


それから約5分後、、、

バイクや車をふかす音が聞こえてきた。


「き、来た、、、!」


監視員を含めた作業場の人々に、一気に緊張が走る。


「オラァッ!下等な人間の奴隷ども!俺様たちがわざわざテメェらを見にきてやったぞっ!!」


彼らの前に現れたのは、乗り物に乗った数十人の獣人の一団であった。彼らはやってきていきなり、傲慢な口調で働いている人たちを罵り始める。

その一団の中心、最も巨大で目立つ車に乗っているのが、監視員たちの直属の上司。作業現場を取り仕切るライオンの獣人、かつて獣人の国の支配者で「獣王」と呼ばれていた男「監視長レオンハルト」であった。

立派な立髪を生やした獰猛な顔つき、さらに、3メートル近い巨躯なのに加え、筋骨隆々の体格が合わさって、見る者全てに凄まじい威圧感を与え、現実以上に大きく見える。


「これはこれは、レオンハルト様。わざわざこのような場所に足を運んでいただき、感謝の極みに存じます。見ての通り、彼らは偉大なるタマ様のコウガ様のために、身を粉にして働いております。」


獣人の一団の一番近くにいた監視員がレオンハルトの乗る車の前に進み出て、跪いて作業の近況を報告した。


「、、、フンッ。それにしては仕事が遅れているようだがな。きたるタマ様の視察の日に、もし僅かでもノルマに達していなかったら、、、どうなるのか言うまでもないな?」


レオンハルトは車に乗ったままジロリと監視員を虫を見るような目で見下ろす。レオンハルトの威圧感に当てられた監視員は汗が吹き出るが、声色だけは変わらないように務める。


「、、、重々承知しております。必ずや。」

「当然だ。我々の命令を聞き、それを正しく実行する以外に、貴様らに存在理由などはないのだ下等な人間よ。せいぜい、圧倒的強者たる我らに虫のように踏み潰されぬよう足掻くんだな。」


レオンハルトの言葉と同時に、周りの獣人たちがギャハハハと笑い始める。


彼らがここまで人間を見下す理由、それは、獣人の戦闘能力が基本的に人間を大きく上回っているからに他ならない。獣人は、魔法を一切使えない代わりに凄まじい身体能力を持つという特徴があり、幼少の時点で上位の冒険者を倒すことが可能であるなど、その身体能力は人間とは比べものにならない。

しかし、人間はそのスペック不足を、魔法や科学などの技術でカバーしてきた。それだけで獣人との戦闘能力差を埋めきることはできないが、獣人がそもそも数が少ないこともあり、これまで彼らが表舞台に出てくることはなかった。

そのため、獣人には人間を軽蔑し、憎悪している者が多く、猫の獣人であるタマがアルフガンドで絶対的な権力を握ったことで、不遇な扱いを受けた埋め合わせをすると言わんばかりに、この神の台地で人間を痛ぶっているのである。


獣人たちの嘲笑を受けて、監視員は悔しい思いをしながらも、それを顔には出さずに、跪いたままレオンハルトの言葉に対して肯定の返事を続ける。


そこからはしばらくレオンハルトたちによる見回りが続き、飽きたのかそれとも他に用があるのか、レオンハルトたちがその場を去ろうとする。


(よかった、、、今回は何もなかったか、、、)


その様子を見て、監視員や奴隷たちはホッと胸を撫で下ろす。


「あぁ、そうだ。」


車にエンジンをかけたところで、レオンハルトは何かを思い出したように車をおりる。


「い、いかが致しましたか、、、?」

「さっきから気になっていたんだが、、、」


レオンハルトは人差し指をまっすぐ立てると、


「ここは随分と年寄りの奴隷が多いな。」


その指を横にきる。するとその瞬間、


ズババババッッ


数キロメートルの範囲にわたり、数千人の老人の奴隷たちの首が胴体から別れ、断面から夥しい量の血がシャワーのように噴き出した。


一呼吸おいて、奴隷たちは一斉にパニックになり、作業場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。


「ギャハハッ!高くまで飛んだな!」

「下等種族の癖に血は赤いんだなぁ。」

「アハハッ ヒヒヒッ あーおもしれ。」


その地獄のような光景を見て、獣人たちは皆喜劇でも見ているかのように膝を叩いて大爆笑している。

監視員が言葉を失う中、レオンハルトは特に感情のこもってない口調で淡々とつげる。


「大袈裟だな。そんなに慌てるほどのことでもない。我ら獣人は慈悲深いのだ。また別の国を滅ぼして若い奴隷を調達してきてやる。」


そう言い残し、レオンハルトたちはパニック状態の奴隷たちを無視してその場をあとにした。

我に帰った監視員たちは、パニックになる奴隷たちを落ち着かせるために奔走する。


このような状態にあっても、彼らは現状を変えるために立ちあがろうとは考えない。考えることができない。わずかにでもその考えを表にだした者はすべて、獣人による血の洗礼を受ける。そんな人を、彼らはこれまで何人も見続けてきた。

終わることのない労働、そして長年の恐怖による支配が、この地の奴隷たちの希望を完全に破壊してしまったのである。



その「支配」を木っ端微塵に打ち壊すとんでもない「劇薬」がこの地に迫ってくることを、彼らはまだ知らない。

読んでくださりありがとうございます。

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