第32話 意外にも早い再開
地下牢から地上に戻ってきたレイスたちは、グレッグの案内で城の宝物庫に向かった。
中はいかにも王家の財宝らしい、繊細に加工された金細工や宝石、いかにも高価そうな像や絵などが美術館の展示品のように置かれていた。
(見れば見るほど、「隠してる」って感じがしないな。もしかしたら貴族とかを招いて見せたりしてたのかも。)
そう思いながら、室内を歩いていると、部屋の中心と思われる、少しひらけた場所に出た。そのさらに真ん中にあったのは一つの台と、そこに置かれた腕時計であった。
その時計はやけにチープなメカメカしさがあり、レイスはなんとなくヒーローの変身ベルトを連想した。
「、、、何これ。なんかやけに場所に合ってないわね。なんでこんなのが部屋のど真ん中に、、、?」
フレイヤもレイスと同じ感想を持ったようで、不思議そうにそのゴツい腕時計を見ていた。
「あなた方が求めていた移動手段というのがそれです。」
グレッグが腕時計を手に取り、フレイヤの質問に答えた。
「え?ただのおかしなセンスの時計じゃない。」
「実際に見てもらった方が早いと思います。ここだと少し狭いので、玉座の間に行きましょう。」
3人は玉座の間に移動する。グレッグはそこで、腕時計の隣についているボタンを押すと、それを床に放り投げた。
「ホラ!危ないですよ!下がって下がって!」
「は?え?」
レイスとフレイヤは訳も分からず、グレッグに言われるがまま数歩下がった。
すると直後、腕時計が急に浮き上がったかと思うと、折り紙作品を開くようにガチャガチャと変形して、あっという間に、6人は乗れるであろう先端が尖った宇宙船を思わせる乗り物になった。
「これが、最新の移動手段、「プレミアム・ファルケン」です!光を超えた速度で移動し、さらに座標を正確に打ち込めば、大抵の場所には瞬間移動することが可能!さらに!最大6人乗りの大容量!これならば一瞬でアルフガンドを出ることができますよ!」
口を開けて呆然とするレイスとフレイヤをよそに、グレッグは怒涛の勢いで説明を始める。
「いや、、、あの、、、なんていうか、、、物理法則とかどうなってるの、、、?」
乗り物が手に入ったとか以前に、レイスはどうしても気になった疑問を口にした。
「さぁ?よく分かりません。というか、気にするだけ無駄だと思いますよ。だってこれは「統制省」から支給されたものですから。理屈とか分かりませんよ。」
「統制省?」
「宇宙帝国の最高機関です。分かりやすく言ってしまえば、13人の転移者のグループ名ですよ。」
「ああ。なるほど、、、」
この時計が転移者によって作られたものだと聞いて、確かに転移者がやることを理屈で考えても無駄だなと2人は納得した。
「でも、、、ヒントにはなりそうね。多分、転移者には機械が大好きな人間が1人いるわ。」
「奇遇ですね。俺もそう思います。」
明らかに作成者の趣味が入っているプレミアム・ファルケンのデザインを見て、2人は呟いた。
「さて。我々はこれに乗って行くわけですが、大事なのはルートです。」
会議室に戻り、グレッグは懐から大きな地図を取り出して、机の上に広げた。
「すごく大雑把ですが、これがアルフガンドの全領土を描いた地図となっています。で、今我々がいるのはここです。」
そう言ってグレッグは地図の一番下の端の方を指差した。
「我々が目指すのは、この地図から見てずっと上の方角、地理的に見れば北にまっすぐ行くことで、転移者の根城である統制省に行くことができます。ですから我々は、「この中央部を避けて」回り道をしつつ、北に向かっていくべきです。」
レイスはグレッグの言い方が引っかかった。
「なぁ。ジョナサンも言ってたけどさ、頑なにその「中央部」とやらを避けたがるよな。」
そう指摘すると、グレッグの顔に緊張が走る。
「、、、当然です。ここに行くことは、死ににいくのも同然ですからね。」
「もう一つ。この地図だが、土地にパズルみたいに線が引いてあるのは、それぞれの国の国境とかだろ?でも、この中央部。どう見ても他の国の数百倍の大きさはある上に、国境と違って完全な真四角になってる。」
レイスが言った通り、グレッグの地図のど真ん中には、そこだけを綺麗にくり抜いたような巨大な四角形が描かれていた。
「もったいぶらずに教えてくれ。この中央部はどういう場所で、ここには誰がいるんだ?」
「、、、ここは、ある人物の偉大さを讃えるための像を建てる場所なんです。天に届くほどの巨大な像をいくつも。また、テーマパーク的な側面もあって、いくつも遊具が作られて、遊園地のようになっています。世界一巨大な遊園地ですよ。それを建てる広場を作るために、中央部にあった約500の国が、たった1人の少女の手によって、一瞬で更地にされました。」
「ご、500の国が更地になったの!?」
フレイヤは、あまりの規模の破壊に愕然とした。
「ええ。その少女は現在、遊園地建立の総責任者となっています。今でも夥しい数の人間が、彼女の奴隷として働かされているのです。その土地は現在、神の台地、と呼ばれています。」
「そ、そんなことが、、、知らなかったわ。」
アルフガンドで起きていた惨劇を知り、フレイヤはショックを受けていた。しかし、一方でレイスは別のことを考えていた。
(遊園地、、、)
馬鹿げてるとしか言えない、たった1人の男をテーマにした遊園地。そして、それを建てるために大量虐殺も厭わない少女。レイスは、そんな常軌を逸した状況に覚えがあった。
異常とも言える自己顕示欲、そして、それに追随する女たち。10年以上前の記憶が蘇る。
「なぁ、グレッグ。そのいくつも建ってるっていう像だけどさ、コウガの像だったりしないか?」
「え?はい、そうですよ、よく分かりましたね。ここアルフガンドはその土地全てが、コウガの領地の一つですので。ちなみにこの遊園地は「コウガランド」と呼ばれています。」
「、、、この遊園地の責任者が誰か知ってる?」
「私も詳しいわけではありませんが、名前くらいなら知っていますよ。名前は、、、」
レイスの心拍数がどんどんと上がっていくのを、本人と、彼と融合しているフレイヤが感じ取った。
「確か名前は「タマ」です。元々コウガと共に旅をしていたパーティーメンバーの1人です。」
「、、、、、、へぇ、、、そうか、、、あいつが、、、」
ズキリと腹部が痛む。それは忘れもしない、レイスがコウガを攻撃しようとした際に、たまから受けた痛み。
レイスは一見冷静だが、その体から沸々と湧き上がってくる闘志が、レイスの興奮を伝えていた。
「、、、次の目的地はどうやら決まったらしいな。」
そう言うとレイスはテーブルに置いてあった腕時計を手にとって、部屋を出ようとする。
「ま、まさか、コウガランドに行くつもりですか!?」
グレッグは驚いて聞いた。
「当然さ。俺はこの時を待ち続けてきたんだ。まさかこんなに早くチャンスがくるなんて思わなかったよ。」
「馬鹿げてる!今戦って勝てるわけがないでしょう!?あのタマって女は全く違う次元の「生き物」なんです!転移者「コウガ」の最側近の1人ですよ!?」
「関係ないね。」
グレッグは説得をしようとするが、レイスの決意は揺らぐことはなくグングンと歩みを進めていく。
「それにあなたは確か「戦うほど強くなる」とかじゃありませんでした!?今戦わなくても十分な力を蓄えるまで待てばいいじゃないですか!」
「大局的に見ればそれが正しいのかもしれない。それで勝てるのかもしれない。
でも小局的に見ればそれは「逃亡」以外の何物でもない。あいつらから逃げることは俺の魂が許さない。」
レイスはまさに「聞く耳を持たない」という状態であった。
「これは俺の問題だ。あんたを巻き込むつもりはない。タマをぶっ飛ばしたら戻ってくるよ。それまで少し待っててくれ。」
レイスはそれだけ言い残すと、立ち尽くすグレッグを置いて城を出た。
数時間後、陽が落ちて夜になり、レイスはミケーアの門の外に出て、プレミアム・ファルケンを出していた。
「本当に行くのね?レイス。」
「はい。俺の都合に巻き込んで申し訳ありません。」
「いいわよ。乗り掛かった船だもの。それに、私にとっても悪い話じゃないわ。転移者の側近を倒したとなれば、あなたと同時に私の名声も広がるってもんよ!」
フレイヤの様子を見たレイスはクスクスと笑う。
「フレイヤさんのそういうところ好きですよ。こっちもなんだか勇気が出てきます。それでは、行きますか!」
レイスたちがファルケンに乗り込もうとしたその時、
「おーーい。待ってくださーーい。」
遠くから、パンパンになったリュックを背負ったグレッグが走ってきた。
「ハァハァ、、、やはり私たちも行きます。同行させてください。」
「、、、え?来るの?」
「仕方ありません。タマを倒してまた戻ってくるなんて時間がもったいないですし、君たちだけだと色々と危ない気がしますからね。第一、君はそれの操縦の仕方を知っているんですか?」
「いや、全然。」
「そうでしょうね。とりあえず私が運転しますから、少しずつ覚えていってください。」
そう言ってグレッグはファルケンの運転席に乗り込んだ。レイスとフレイヤは顔を見合わせてニヤリと笑うと、助手席に乗る。
「では出発しますよ。心残りはないですか?」
「ない。あんたは?ミアさんたちとの別れは済んだのかい?」
「今生の別れにする気は無いんですから、そんな湿っぽいことはしませんよ。それに、一応手紙は置いてきました。」
「念の為言っとくけど、多分本当に危険な旅になると思うよ?」
「かつては冒険者を志した以上、覚悟は出来ています。」
「そうか。じゃあもう何も言わない。頼りにしてるよ。グレッグ。それとパナケイアさん。」
「こちらこそよろしくお願いします。では!出発しましょう!!」
グレッグは慣れた手つきでボタンを押すと、ファルケンが浮き上がり、パッとその場から消えた。
後日、教会のグレッグの部屋に、手紙が一通置かれているのをミアが発見した。その手紙には、一言だけ書かれてあった。
「英雄になってくる」




