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第31話 光栄 

「私がお二人の旅に同行を?」

「えぇ、お願い。これから先の戦い、あなたの力がきっと必要になるわ。」


ジョナサンとの激闘から一夜明け、ミケーア全体がめでたさでお祭り騒ぎになる中、レイスとフレイヤ、そしてグレッグの三人は、騎士たちがいなくなったミケーアの城の中で、今後について話し合っていた。

その最中、神と融合した者同士で情報共有をしようという話になり、フレイヤがグレッグと交渉する。


「い、いきなりそんな話をされましても、、、」


先日の戦いで、グレッグは治癒の神パナケイアと融合を果たした。本人にも当然その自覚はあるが、どうにも決心がつかなかった。

下っ端も下っ端とはいえ、グレッグは神父であり同時に宇宙統一政府に所属する職員の1人。直接見たことはなくとも、宇宙全体を支配する転移者がいかに強大な存在であるのかということは、噂でよく聞いていたし、上司からも嫌というほど教わっていた。


神を超えた絶対的な支配者

決して逆らってはならない存在


それが、グレッグたちが持つ共通認識であった。いかに神の力を得たと言っても、それだけで転移者を倒せるという実感は湧かなかった。


「そ、それに、先日の戦闘の影響で政府から刺客が来るかもしれません。私が神の力を持っているというのに、みんなを置いて街を離れるわけには、、、」

「だったら尚更、君は街を出るべきだと思うよ。」


渋るグレッグに対して、フレイヤの隣の席に座るレイスが口を開いた。


「ど、どういうことですか?」

「まず昨日の戦いだけど、あれだけ派手なことをしたんだから、当然向こうは認識してるだろう。俺のことも、君のことも。特に君は昨日、死にかけてる人間を何人も治すという「神がかり」的なことをしてみせた。」


今にも生き絶えそうになっているミアを復活させたのみならず、破壊された建物さえ再生させたグレッグの回復魔法は、レイスの頭に強烈にこびりついていた。


「俺はあれを見た時背筋が凍ったよ。多分転移者側も似たような感想を持つと思う。それで、そんな強力な力を持った、自身に反抗してくる存在を、転移者が見逃すはずはない。次から次へと手下を送り込んでくるだろう。君が死ぬまで。」


それを聞いてグレッグは、次々と転移者の手下が襲いかかってくる光景を想像してゾッと背筋が凍るような感覚に襲われる。


「、、、俺は転移者がどういうやつかよく知ってる。自分に逆らうもの、思い通りにならないものを絶対に許さない傲慢さ。自尊心と自己顕示欲の塊。奴らは君という存在を決して許しはしないだろう。君は殺されて、街は跡形もなくなってしまうだろうぜ。」

「そ、そんな、、、」


いくらなんでも大げさ、と言ってしまいたかったが、そうとも言い切れない。何せジョナサンは、シルフィの目を誤魔化すためだけに、住人を100人も殺そうとしたのだ。

今更ながら、なんてものを敵に回してしまったのだろう。グレッグは青ざめ、絶望のあまりそのまま床に崩れ落ちてしまいそうになる。


「一応、君もこの街も助かる可能性がある。君が俺たちに着いてきてくれれば。」

「ど、どうやってですか?」

「俺たちが、あちこち移動しながら転移者の手下どもに喧嘩を売りまくるんだ。奴らの目を俺たちに釘付けにしてしまえば、奴らはわざわざミケーアに手を下さないんじゃないかと思う。絶対に安全とまでは言えないけど、少なくとも君が居続けるよりは安全になると思う。」

「、、、街が安全になっても、私が命懸けで戦うことには変わりありませんよね?」

「昨日見せた覚悟があれば大丈夫さ。それに、俺たちもそうやすやすと君を殺させたりはしない。」


グレッグはしばらく考え込んでいたが、やがて重い口を開いた。


「わかり、、、ました、、、同行させていただきます。」

「おう!よろしく!」


渋々といった様子で、グレッグはレイスたちと共に旅をすることを了承した。


「た、ただし!戦闘にはあまり期待しないでください!ミアから聞いたと思いますが、私は昔から剣術とか魔法とかからっきしなんです!」

「ええ。その辺の情報共有もしないといけないわね。あなたは昨日みたいな回復魔法以外だと、他に何ができるのかしら?」

「えっと、、、それがよく分かりません。」

「あなたと融合してる、パナケイアだったかしら?その神に呼びかけてくれない?」

「そ、それなんですが、、、。」


グレッグはバツが悪そうに答える。


「どうにも、、、久しぶりに魔法を使って、えらく疲れているようで、ずっと起きないんですよ。ちょっと待っててください。」


そう言うとグレッグは席を立ち、会議室の隅に移動すると、体の中にいるパナケイアに話しかけ始めた。


「女神様?めーがーみーさーまーっ!!」

「なーにー?」


グレッグの大声に反応して、緑のローブを纏った女神が彼の体内から飛び出してきた。


「あ、あの、こちらが私と融合した女神様、パナケイア様です。」

「ん。よろしくー。」


パナケイアはいかにも眠そうに目をこすりながら、寝癖を完全にそのままにして自己紹介をする。

神々しい見た目とのギャップがなかなかひどいなとレイスとフレイヤは内心思った。


「、、、ということでですね、パナケイア様、回復魔法以外に、何か能力はあるのでしょうか?」

「あるよー。人差し指を伸ばしてー。」

「こ、こうですか?」

「うん。で、指に魔力を送り込んで、集中。」


グレッグは言われるがまま、人差し指に魔力を溜め、目を閉じて集中する。レイスとフレイヤも一体これからどんなすごいことが起こるのかと、緊張した面持ちでグレッグの指を凝視する。

ポゥッと指先が淡い緑色の光を発する。そして、


ジワッ ポタッ、、、


わずかな量の液体がグレッグの指先に生まれ、それが水滴として床に落ちた。


「あの、、、これはなんでしょうか?」

「ポーション」

「ポーションッ!?回復薬のアレですか!?」

「うん。じゃあ、眠いから私もっかい寝るね。おやすみ。」


パナケイアはそう言うとグレッグの中に入っていった。グレッグはというと、そのあまりにも使い道の無さそうな能力に愕然とし、頭を抱える。


「まぁ、、、そのうち役に立つよ。神父さんの指汁。」

「慰めになってない!指汁なんて言わないでください!」

「き、気を取り直して、レイスの能力を紹介するわね!!」


フレイヤが無理やり話を切り上げて、自信満々に自分の胸を叩いた。


「言うまでもないけど、レイスと融合したのはこの私!私はとってもとっても強くて偉い武神!私が融合したらこの通り!このなんの変哲もない少年が一瞬にしてチートスキル使いをバッタバッタと薙ぎ倒していく狂戦士に早変わり!!」


フレイヤは宣伝のようにレイスをプッシュしていく。熱心な実演販売を聞いているようで、グレッグもレイスも若干引いた。


「それだけじゃない!私と融合したレイスにはなんと!「チートスキルを破壊する能力」を持っているらしいことが分かったのよ!!」

「ちょっと待ってください!初耳なんですけど!?」


聞き捨てならないセリフが飛び出して、レイスは突っ込みを入れた。


「チートスキルを破壊する能力って一体なんですか!?」

「そのままの意味よ。昨日の戦いでほとんど確信したわ。あなたにはチートスキルを使い手から消し飛ばす力があるのよ。」

「に、にわかには信じられませんね。」

「、、、私は、本当だと思います。」


考え込む様子のグレッグが、2人に割って入る。


「先日、ジョナサンが言っていました。トムがチートスキルを使えなくなっている、と。それで彼は、君にチートスキルを封じる能力があるのではないかと予想していました。」


グレッグの話を聞いても、まだレイスは信じきれない。


「まぁ「論より証拠」って言うでしょう?会いに行きましょうよ。「レイスの被害者たち」に、ね?」


3人は城の地下牢に向かう。そこにいたのはレイスたちがよく知っている人物であった。


「おや。珍しい面会人だな。」

「ヒ、ヒィッ!こ、こないでくれぇっ!!」

「、、、何のようだ。」


トム、アンドリュー、ジョナサンがレイスを見て三者三様の反応をする。死ぬ寸前の状態で、グレッグの魔法により辛うじて一命を取り留めたアンドリューは、完全にレイスがトラウマになっており、レイスを見た途端子供のように怯え、牢屋の隅に移動してしまう。


「3人に聞きたいんだけど、何か体におかしいところとかないか?」

「おかしいところ、、、?」

「ああ。例えば、「昨日まで使えてたものが使えなくなった」とか、」


それを聞いて、3人はハッとした様子で顔を見合わせる。


「上がってた魔力が減った。」

「お、おれは、、、パ、パワーが前と比べて出なくなった、、、チートスキルをもらう前に戻っちまった。」

「、、、ここ10年は魔力が減るなんてことなかったのに、昨日は完全にガス欠になっちまった。」


3人とも、チートスキルの恩恵を完全に失った自覚があった。レイスは驚き、グレッグはやはりという顔をする。そして、フレイヤはほらねと言いたげなドヤ顔をする。


「言ったでしょ?レイスはただ強いだけじゃない。言わばチートスキル使いに対抗する「切り札」なのよ。」

「私にもあるんでしょうか?その力が。」

「それは、、、分からないわね。実際に戦わないことには。あるかもしれないしないかもしれない。」

「それはまぁ、、、そうですよね。」


2人をよそにレイスは、自分の手のひらを見ながら、内心興奮していた。


(もしも本当なら、、、あのコウガから、チートスキルを引っ剥がせる!「たまたま運良く手に入れただけの力」で、あいつの全てを奪ってやる!)


「おい!そっちで勝手に盛り上がらないでもらえるか!?」


ジョナサンはイライラした様子でレイスたちに吐き捨てた。


「用事はそれだけか!?力を失った俺たちを嘲笑いに来たのか!?用が済んだのならさっさと消えてくれ!!」

「あ、ああ。ごめん。いや、それだけじゃないんだ。なんていうか、聞きたいことがあってさ。この城にめちゃくちゃ速い「乗り物」ってないか?俺たちはそもそも乗り物を手に入れるためにミケーアに来たんだ。」

「乗り物だと?」

「ほら、転移者のせいで世界がメチャクチャ広くなったんだろ?奴らをぶっ飛ばすにはまず奴らの元に行かなくちゃならない。そのためには移動手段が必要なんだ。」

「、、、ただのホラかと思ったが、お前は本気で転移者を倒す気なのか?倒せると思っているのか?この世界を文字通り「作り替えた」あの怪物たちを。」

「当然だ。」


はっきりと言い放ったレイスを見て、ジョナサンはどこか納得したような顔をした。


「お目当ての乗り物なら宝物庫にある。場所はグレッグが知っているだろう。欲しけりゃくれてやる。好きにするがいい。」


レイスがグレッグの方を見ると、どうやら彼には心当たりがあったようでコクリと頷いた。


「分かった。ありがとう。それから、、、」

「あん?まだ何かあるのか?」

「なんていうか、あんたは伝説じゃないけど、少なくとも俺はあんたと戦ったことは忘れない。それだけ。」

「、、、ハッ!何を言い出すかと思えば、そんなことかよ。」

「ああ。どうしても言っときたかったからな。じゃあな。」


今度こそ用事を全て終えたレイスたちは、地上に戻るためのエレベーターのボタンを押した。待っている最中、レイスたちに聞こえるほどの大声でジョナサンが話しかけてきた。


「一つだけ忠告してやる!アルフガンドを出るにしても、アルフガンドの中央部を通るのはやめておけ!少なくとも今のお前じゃ、中央部にいるあの「化け物」に一瞬で殺されるだろうよ!」


レイスがグレッグの顔を見ると、彼の顔には明らかに緊張が走っていた。どうやら、中央部にとんでもないやつがいるのは間違い無いのだろう。


「分かった!参考にしておく!」


レイスも大声で答え、3人はちょうどやってきたエレベーターに乗り込んで地上に戻った。



(あんたと戦ったことは俺は一生忘れない。)


ジョナサンは牢の中で1人、先ほどのレイスの言葉を思い返していた。そして、誰にも聞こえないような小声で呟いた。


「、、、光栄だよ。」

読んでくださりありがとうございます。

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