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第30話 ある伝説の結末

空に突如星を思わせる、下手をすると星以上の超巨大質量の光る物体が現れ、すでに日が落ちつつあった世界が、真昼のように明るくなる。

広場にいた者だけでなく、ミケーア中の、それどころか、ミケーアの周辺にあるいくつもの国や村の人々が空に現れた物体を見上げていた。

それを目撃したある者は呆然とし、ある者はパニックとなり、ある者は世界の終わりのような光景にただ絶望し、またある者は転移者や神に祈った。


「な、なんなの、、、?あれ、、、」


その神であるフレイヤも、神の力を得たグレッグも、呆然と空を見上げる。

ただ1人、レイスだけがこの現象の正体を即座に判断して、まっすぐジョナサンを見た。


「ずいぶんとでっかい剣だな。あんなものまで出せたのか。」

「ククク。その通り。これが俺の真の「最後の手段」よ、、、」

「いったいどうやったんだ?お前のさっきの説明を聞いたかんじ、お前のチートスキルではお前の魔力量よりも多い魔力の魔法は使えないと感じたが、、、」


レイスがそう疑問を投げかけると、ジョナサンは可笑しそうにケラケラと笑った。


「ハハハハッ。お前は格闘は強くても、魔法に関しては素人同然と見た!魔法の「重ねがけ」を知らないのか!」

「、、、重ねがけ?」


よく意味が分からなかったレイスは振り返って、この場で一番魔法に明るそうなミアを見た。

レイスの視線に気づいたミアは彼の意図を感じとり、魔法についての説明を始めた。


「あいつが言った通り、魔法には「重ねがけ」というテクニックがあるんだ。それは読んで字のごとく、「魔法」の中に「魔法」を発動させること。例えばファイヤーボールを一度発現させて、その中にさらにファイヤーボールを展開すると、相乗作用によってそのファイヤーボールは倍以上の威力になるんだ。」

「へー。」

「だが当然、重ねがけをすると魔法2回分の魔力を消費してしまうため、そう何度も行うことはできないはず、、、!」


そこまで聞いて、レイスはジョナサンがあれほど強大な魔法を作れる理由に察しがついた。


「なるほどな。大体分かった。お前魔力減らないからこんなことができるんだな。」

「ふははは!その通りだ!俺ならば0.1秒以下の間隔で魔法を打ち続けることができる!上の剣は今もどんどんと巨大になっていくのだ!!いずれはアルフガンドを超えるほどの大きさとなるだろう!!」


破壊力が高すぎるため、この技はジョナサン自身も自粛しており、使ったのはわずか一回だけである。その一回は、ジョナサンがミケーアの統治者に任命されて間もない頃、ミケーアの区画を消滅させた時のことであり、その区画は、コウガが現れた途端に手のひらを返した、冒険者だった時のジョナサンが拠点としていた場所であった。

今、空にはその時の何万倍、何億倍もの大きさの剣が浮いている。この技の破壊力を知っているグレッグは、非常に焦った様子で割り込んできた。


「バ、バカなことはやめろ!!勝つために全てを滅ぼす気か!?それにあんなものを落としたらお前自身だってどうなるか分からんぞ!?」

「、、、フンッ。あれは元々俺の魔力だ、俺自身の影響は受けん。それと、最初の質問だが、答えは「YES」だ。俺は負けないためなら全てのものを捨てられる!城も!街も!共に戦ってきた仲間も!!負けてしまえば全て失い2度と手に入らない!だが負けさえしなければ!また手に入れることはできるさ!!俺は負けないためだったらなんだってやってやる!!」


凄まじいまでの執念の炎を燃え上がらせるジョナサンの迫力に、グレッグは言葉を失ってしまう。

もはや説得は不可能だと思ったグレッグは、レイスに耳打ちをした。


「レイスくん。空のあれが落ちてきたら終わりです。私がうまくあいつの気を引きますから、君は隙をついてジョナサンを一撃で倒してください。そうすれば魔法は消えるはずです。」


剣を落とされる前に、レイスが一瞬でジョナサンの意識を奪うというのがグレッグの作戦であった。


(と、考えているだろうな。)


ところがジョナサンも、グレッグの考えなど見透かしていた。彼は服の中に忍ばせていた注射器を掴む。その注射器の中には、紫色の液体が入っていた。


(シルフィから送られてきたこの液体、取り込めば一時的に身体能力や魔力を底上げする。それでもやつを倒すまでには至らんだろうが、逃げるだけなら十分だ。奴らの力に頼るのは癪だがやむをえん。)


ジョナサンは、もしもレイスが近づいてくる素振りを見せたら、すぐに注射器を自分に打って、その場から逃走するつもりだった。

ところが、レイスはこの時、ジョナサンの、それどころかその場にいる全ての人間にとって予想外の行動をとった。


「、、、、、、。」


レイスはその場から一歩も動かない。それどころか、戦闘中にもかかわらず、ポケットに手を入れた。


「な、何をしている?貴様、、、」

「待ってる。」

「は?」


ジョナサンは思わず素っ頓狂な声をあげて聞き返す。グレッグはフレイヤも、レイスの言葉が理解できず、困惑の表情で彼を見る。


「だから、待ってるって言ってるんだ。上のあの剣が実際に落ちてくるまで。俺はそれまで何もしない。たっぷり時間をかけて、ギリギリまででっかくすればいいさ。」


ジョナサンを含め、この場の誰もが耳を疑った。レイスは、人智を超えたチートスキルを最大限活用した最強の一撃を、真っ向から叩き潰すと宣言したのである。


「ちょっと!?何を考えてるの!?こんな時にふざけないで!!」


フレイヤが怒って、レイスの胸ぐらを掴んだ。


「今があいつにとどめを刺す絶好のチャンスなのよ!?勝利をわざわざ遠ざけるような真似しないで!!」

「そうです!今は正々堂々なんて忘れるべきです!」


フレイヤの意見に賛同する形で、グレッグもレイスに詰め寄った。


「まぁ、、、大丈夫ですよ。びっくりするくらい負ける気がしませんから。」


そう言うと、レイスはジョナサンに向かって歩き出し、2人は向かい合う形になる。


「そういうことだ。俺は全力で迎え打つつもりだから、お前も全力で来い。」

「ククククッ。イカれているのか?あの剣を打ち破ろうとすることなどできるわけがない。」

「やってみなきゃ分からないだろ?それに、お前ごときの必殺技を正面から潰せるくらいでないと、転移者には絶対勝てないからな。」


レイスの言葉に反応し、ジョナサンの眉がピクリと動く。レイスの「お前ごとき」という発言に怒ったのではない。ジョナサンは、この時初めて、レイスの目的が転移者を倒すことであると知ったのである。


「なるほど、、、貴様もか、、、よかろう!同じ志を持つと言うのなら、俺も全力で相手をしようではないか!」


ジョナサンは懐から注射器を取り出すと、それを自分の腹に刺した。

瞬間、ジョナサンの魔力が何十倍にも膨れ上がった。


「う!こ、これは、、、!こんなものを隠し持っていたのか!」


グレッグはジョナサンの魔力量と、ジョナサンがいまだに手の内を全て見せていなかったことに驚愕した。

一方でレイスの方は特に驚いた様子はない。

いかに巨大な攻撃を作っても、本体が倒されてしまっては意味がないということをジョナサンが知らないはずがないし、それを放置しておくはずがない。きっと、何らかの手札を持っているのだろうという、確信に近い予想がレイスにはあった。


「この薬で俺の魔力は何十倍にもなる、、、!そして当然、俺の場合増えた魔力は薬の効果が切れるまでどれだけ魔法を使おうがそれよりも下がることはない!つまり!空にある俺の魔法が成長するスピードはグンと上がると言うことだ!」


見上げると、ジョナサンの言った通り、肉眼でもはっきり分かるほどのスピードで光の剣が膨張して、アルフガンドの空をほとんど覆い尽くしており、辺りは真昼以上の明るさとなっていた。

それを見たレイスは深呼吸をして、ゆっくりと拳を握りしめる。


(今日はなんか絶好調だ。負ける気がしない。)


静かに闘志を燃え上がらせるレイスの肩に、フレイヤが手を置いた。


「全く、、、しょうがないわね。あなたのバカみたいなことに付き合ってあげるわよ。」


その言葉と同時に、フレイヤの手から、レイスの体に魔力が流れてくる。


「私の魔力をあなたの体に入れたわ。あなたは魔法は使えないみたいだけど、こうすればあなたのパンチに魔力の分、威力が加算されるはずよ。」

「私たちも!」


四方八方から魔力がレイスの体に流れる。周りを見渡すと、グレッグ、ミア、アバン、レジスタンスの冒険者たち、人質の中で魔法が使える者たち、そして、ミケーア中から集まった冒険者が、レイスに向けて手を伸ばし、魔力を与えていた。


「レイスくん!お願いです!成し遂げてください!」

「レイス!頼む!」

「街を救ってくれ!」


みんなは口々にレイスに声援を送る。それによって、レイスの心にかつてないほどの闘志がみなぎった。


「みんな、ありがとう。確信した。さっきまでは勝率99.9%くらいだったが、もう俺はジョナサンに100%勝てる!」


一方でジョナサンは彼らを見て鼻で笑った。


「フン。おめでたい連中だな。カスどもが何匹集まったところで結果が変わるものか。小魚が集まって大魚を打ち倒す絵本があったが、あんなものは所詮まやかしだ。それを分からせてやる。」


ジョナサンは手を空に向けて伸ばすと、それをゆっくりと振り下ろした。


「もうこの大きさで十分だ。くらえレイス。「光の(シャイニング)黙示録(アポカリプス)」」


瞬間、「空」がそのまま落ちてくるような感覚に襲われる。ついに、ジョナサンの剣が地上めがけて落下を始めた。


「光栄に思うがいい!お前の名は永遠に残る!俺の伝説の1ページとしてな!!」

「スゥゥゥハァァァ、、、」


レイスは大きく深呼吸をすると右手を地面スレスレまで下ろし、砲丸投げの選手が砲丸を投げる直前のような姿勢をとる。


「分からせられるのはお前の方だ。みんなの魔力も、覚悟も、まやかしじゃない!」




ズドンッッ!!



壁をぶち抜いたような轟音が、ミケーア全体に響き渡った。発生した衝撃波により、ミケーアのほぼ全ての建物の窓が砕け散った。

人々が目を開くと、そこにいたのは勝利を宣言するように拳を突き上げるレイス、そして、その上にあったのは、雲ひとつない「青空」であった。

レイスの拳は瞬間的に光速を超越し、その勢いのまま放たれた拳圧と魔力の衝撃波は、ジョナサンの「シャイニング・アポカリプス」を破片すら残さず完全に消滅させた。


「や、やった、、、レイス君がやった!」


グレッグの声とともに、あちこちから割れんばかりの歓声が巻き起こる。


「全く、、、ヒヤヒヤさせてくれるわね、、、」


レイスの背中でフレイヤはホッと安堵する。


(あんなのを一発で消しちゃうなんて、中位神クラスはないとできないはずだけど、、、この子の才能もそうだけど、案外私にも隠れた才能があったりするのかしら。)


広場全体が歓喜の声で包まれる中、ジョナサンは1人冷や汗を流していた。


「クソッ、、、バカな、、、ま、まだだ!」


ジョナサンは再び手を突き上げると、空中に無数の光の剣を生み出そうとする。


「薬の効果はまだ残っている!今のうちにもっとデカいのを作って、、、」

ドクンッ!

「ウグッ!ガッ、、、」


突如、全身が疲労感に襲われ、彼は息を荒くし、胸を抑えて苦しみだす。足はガクガクと震え、立っているのもやっとの状態である。ジョナサンはこの苦痛に覚えがあった。


「ハァ、、、ハァ、、、これは、、、「魔力切れ」!?バカな!俺の魔力は永遠に減らないはずだ!!もしや、、、!」


魔力切れによる、激しい運動後のような疲労。これを感じるということは、ジョナサンからチートスキルが失われたということ。タイミング的に見ても、それの原因がレイスであることは明らかだった。


「これが、、、これこそがお前の真の能力か、、、っ!!」

「?」


ジョナサンは忌々しげに吐き捨てるが、当のレイスは自身の能力にまだ気づいておらず、ジョナサンの言葉の意味が分かっていない。しかし、フレイヤ、ミア、グレッグは、フラフラの様子から、ジョナサンがどのような状態にあるのかを理解した。ジョナサンの大幅な弱体化を見たフレイヤは、彼に向かって叫んだ。


「もうおしまいよ!今のあなたにはその辺の人を倒す力さえないわ!降参しなさい、」

「フッ、、、クククッ、、、なるほど、、、確かに、最大の技が破られ、チートスキルも、魔力も失った、、、しかし!!」


ジョナサンは腰に差した剣を引き抜くと、ガクガクの足で一歩一歩地面を踏みしめながら、レイスに近づいていく。


「俺はジョナサン・ブレードッ!!この宇宙に永遠に語り継がれる伝説を築く男っ!!伝説には、、、「敗北」も「降伏」もないのだぁぁっっ!!」

「うおおおおおっっ!!!」

ドゴォォンッッッ!!


ジョナサンの剣が振り下ろされるよりも早く、レイスの拳が彼の顔に直撃した。すでに立っているのがやっとだったジョナサンはこれによって完全に意識を手放し、糸が切れた人形のように倒れ、そこから再び起き上がることはなかった。



この日、転移者の配下が支配する街「ミケーア」は、たった1人の流れ者、レイスの手によって陥落させられた。この時間より始まるレイスの転移者への宣戦布告は宇宙全体に広がっていき、やがて、転移者たちの耳にも届くことになる。


読んでくださりありがとうございます。

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