第28話 目覚めの時
「魔法」
それは、人の体内にある魔力を形にして放出したもの。直接的な攻撃魔法である炎や氷、間接的な攻撃やサポートに向いた風や水、人々を治療することが可能な回復や浄化など、魔法の種類は無限と言っても差し支えないほど多く存在し、どのような系統の魔法を扱えるのかは人によって異なる。
一般的には魔法を一度撃つと、その分、体内の魔力量が減少する。そのため、新たに魔法を撃つためには、再び魔力を溜めるための休息時間が必要となってくる。だから、魔法を用いて戦う者は基本的に、最大の魔法で一気に敵を殲滅する、短期決戦の戦法をとることが定石となっている。しかし、、、
「人間の体とは思ったよりも融通がきかない。自分の魔力量限界ギリギリの規模の魔法を撃てば、たちまち500メートルを全力疾走したようにバテバテになって、まともに動くことすらできなくなる。しかし!俺はチートスキル「魔力量固定」によって!一切体力を消耗することなく!途切れることのない海の波のように永久に最大威力の魔法を放ち続けることができるのだ!!」
「そ、そんな、、、!そんなムチャクチャな!」
近くで聞いていたグレッグは、ジョナサンのスキルのあまりの凶悪さに戦慄した。
(継戦能力の低さという魔法使いの弱点を完全にカバーしている。おまけに、永久的に魔法を撃てるとなると、ヤツに近づくことすらできない。)
永久にジョナサンの攻撃ターン。相手は近づくことさえ許されない。まさに反則。まさにチート。考えれば考えるほど、勝ち目が思いつかない。グレッグは心配そうに、ジョナサンと対峙しているレイスを見る。恐らくレイスもジョナサンのチートスキルの正体を知って、さぞ驚愕し、あるいは戦意を失うほど絶望しているだろうと思った。しかし、、、
「、、、だから何だ?」
レイスは全く動揺せず、涼しい顔で言い放った。そのあまりの余裕ぶりに、グレッグもジョナサンも面食らった。
「長々と説明ご苦労なことだな。だがお前の「スキル」が強いことなんて分かりきってるし、諦める気なんてサラサラないんだよ!」
レイスは地面を蹴ってジョナサンに突っ込んでいった。
「フンッ!無駄だということがわからんのか!」
ジョナサンは周辺に大量の光の剣を出現させ、それらが次々とレイスに迫っていく。レイスは四方八方から攻撃を浴び続けるが、その足を止めることなく、攻撃を躱し、弾き返しながら、ジョナサンに近づいていく。
(今だ!)
レイスは目にも止まらぬスピードで移動し、ジョナサンの背後をとることに成功した。
「トリャアッ!!」
レイスの拳がジョナサンに迫る。しかし、ジョナサンは彼の拳が当たる前に、はっきりと背後を認識した。
「無駄ぁ!!」
ドスドスドスッ!
瞬時に3本の光の剣が現れ、レイスの体に突き刺さった。
「グッ!」
「フンッ。終わったな。」
レイスは痛みに顔を歪め、ジョナサンは勝利を確信した。しかし、
「ウオオオオッッ!!」
「な、何っ!?」
レイスは止まることなく、そのまま拳を振り抜いた。完全に致命傷だと思い込んだジョナサンは、驚きのあまり、新たに剣を生むことができなかった。
ゴッ!!
「グゥッ!!」
レイスの拳がジョナサンの顔に直撃し、彼は吹き飛ばされて地面を転がる。
「バ、バカな、、、!」
地面に這いつくばり、ボタボタと鼻血が流れる顔をおさえながら、忌々しげにジョナサンが吐き捨てる。
「魔法を撃つのはあくまでもお前だ。そのスキルが自動で撃ってくれるわけじゃない。お前が反応しきれない攻撃は普通に当たる。今みたいにな。」
レイスの説明を聞いて、ジョナサンは彼を睨みつけながらも、ニィッと笑った。
「な、なるほどな、、、俺の虚を突いたのか、、、し、しかし、、、に、2度とその奇跡は起こらんぞ!お前の体は、すでに相当な重傷のはずだからな!」
ジョナサンは自身の光の剣がレイスの体に直撃するのを確かに見た。もはやレイスは立っているのがやっとであり、攻撃する余力など残っていないだろうとたかを括った。ジョナサンはレイスの無惨な体を目に焼き付けてやろうと、目を凝らした。すると、
「、、、、、、は?」
ジョナサンは自分の目を疑った。完全にレイスの体を貫いたと思った光の剣は、彼の体にほんの数センチ刺さったところで止まっていた。レイスは涼しい顔で体に刺さった剣を引き抜くと、
「フンッ!」
バキンッ!
レイスは握力だけで剣を容易く握りつぶした。粉々になった光の剣のかけらがバラバラとじめんに落ちて消滅した。
「イ、イカサマだ!貴様!どんなトリックをつかった!」
「さぁ?お前の魔法が大したことないだけじゃあないのか?」
「くっ!舐めるな!」
ジョナサンは大量の光の剣を展開して、レイスに向けて飛ばす。
「フゥンッ!!」
ドガァァン!!
レイスが拳を握りしめて思い切り腕を振り抜くと、衝撃波が発生して、目の前にあった大量の光の剣が完全に消滅してしまった。
先日の戦闘では、せいぜい叩き落とすくらいしかできなかったはずなのに、今のレイスは1度の攻撃で数十の光の剣を粉砕するまでに成長したのだ。
「お前の攻撃にはもう慣れた。多少は怪我をするだろうが、それさえ覚悟すれば、無理やりお前に攻撃を加えることなんて難しくない。」
「そ、そんな、、、俺の魔法が、、、」
ジョナサンは今まで数々の敵を、この光の剣で打ち倒してきた。自分の魔法は無敵だと思っていた。「ある男」に敗北したたった1回を除いて、彼の魔法が正面から粉砕されたことなど今まで無かった。
ジョナサンは、死よりも屈辱的だった「あの日」のことを思い出して、目に見えて狼狽した。
(こ、このままでは、、、「また」転落してしまう、、、!俺の「伝説」がまた砕け散ってしまう、、、!な、何か、、、!何か手はないか、、、!)
ジョナサンはこの状況を打開する術はないかとあたりを見渡す。その時、グレッグとミアが視界に入った。
ジョナサンはニヤリと笑うと、即座に彼らに向けて剣を飛ばした。
「え?」
咄嗟のことでグレッグは反応出来なかった。
「危ない!」
グレッグたちの前にレイスが駆け寄り、剣を破壊して彼らを救った。しかし、剣のうち一本がレイスの腕をかすめ、わずかに出血する。
「フ、フハハハハハッ!!読みが当たったぞ!!貴様はそいつらを見捨てることができん!!」
ジョナサンは高らかに笑うと、グレッグの周囲に無数の光の剣を展開させた。そして、それらの剣が一斉にグレッグに襲いかかる。
「チッ!!ウオオオオッッ!!」
ドガガガガガガッッ!!
レイスはグレッグめがけて飛んでくる光の剣を片っ端から壊していく。しかし、剣の破片が当たったりして、レイスの体に傷が少しずつ増えていく。
「俺の魔法はグレッグ達を狙い続ける!すると貴様はそいつらの近くから動けなくなる。」
今度こそ勝利を確信したジョナサンは自分から戦法の説明を始めた。
「俺の魔法は、俺の意識がある限り途切れることはない!たとえ俺の魔法では貴様にろくにダメージを与えられないとしても、水滴が岩を砕くように、少しずつ貴様の体力を削ってやるわ!!」
説明している最中も、ジョナサンの攻撃は止まらない。レイスは剣を破壊し続け、少しずつではあるが、レイスの体に傷が増えていく。
「認めよう。貴様は強い。俺よりもずっと。だがしかし!貴様は「伝説」となる器ではない!他人に構う者に!見捨てることができない者に!伝説は作れんのだぁっ!!!」
地面に座り込みながら、グレッグはジョナサンの話を聞いていた。グレッグは自分が情けなくて仕方がなかった。
レイスならば確実にジョナサンを倒すことができるはずなのに、自分のせいで彼は攻撃を受け続けてしまっている。いくらレイスが強くても、永久的に続く攻撃を受け続ければ、いつかは倒れてしまうだろう。
「レイスくん、、、我々のことは放っておいて、ジョナサンを倒してください!」
剣を砕く音の中、ちゃんと聞こえるかは分からないが、グレッグはレイスに話しかけた。
「私に生きている資格などありません!それに、ミアももう助からないでしょう。私なんかのためにあなたが死ぬことなんてありません!お願いです!ジョナサンを倒してみんなを救ってください!」
「、、、確かに、あんたらを見捨てれば勝てるかもしれないな。」
レイスが剣を破壊しながら、グレッグの声に応えた。分かってくれたかとグレッグは思ったが、レイスの言葉は続いた。
「でも、、、それじゃあダメなんだよ。」
「え、、、?」
「誰かの犠牲の上で勝ってもダメなんだよ。もう目の前で誰も死んでほしくないんだよ。」
レイスは無力だった。両親が魔王軍に、妹と仲間たちが転移者に殺されたのに、無力なレイスには何もできなかった。
「綺麗事だといわれようと構わない。俺は誰も犠牲にしない。俺は苦しむ全ての人を守るために!力をもらったんだ!!」
「フンッ。くだらんな。ではその理想を抱えたまま死んでいくがいい。」
ジョナサンはレイスの言葉をくだらないと断じ、さらに攻撃を激しくした。
(ちょっとレイス!?かっこいいこと言うのは勝手だけど何か打開策とかあるの!?)
レイスの体の中で慌てた様子のフレイヤが叫ぶ。
「考え中です!!」
実際のところ、レイスは何のアイデアも思いつかなかった。そうこうしているうちに、レイスの体には傷が一つ、また一つと増えていく。
「守る、、、」
一方でグレッグは、レイスの言葉と、これまでの自分が頭の中で駆け巡っていた。
自分はこれまで、人々を救うために行動してきたつもりだった。
しかし、本当に心の底から人々を守りたいと思っていたのだろうか?
ただ諦めているだけだったのではないだろうか?
レイスの言葉を聞いて、そう思った。
(私も、、、強くなりたい!皆を守れるように!)
グレッグはこの時初めて、心の底から強くなりたいと願った。そして、生まれて初めて心の底から「神に祈った」。
(神よ、、、どうか私に力をお与えください、、、人々を救うための力を、、、この英雄の、、、レイス•ビネガーの助けとなるための力を!)
『承知した』
突然、気高さを感じる女性の声が聞こえてきた。そして、気づくとグレッグは真っ白な空間にいた。
「ここは一体、、、?」
『ここはそなたの精神世界。』
グレッグの目の前に、1人の美しい女性が現れる。彼女は緑のローブを身にまとい、巨大な杖をついていた。その顔は無表情だがどこか優しげで、神々しさを感じさせる。
『私ははずっとあなたの中にいた。あなたが心から皆を守りたいと願ったこの瞬間、あなたは「神の力」を得る条件を満たした。』
淡々と説明すると女性はグレッグに手を伸ばす。
『さぁ、私の手をとって。まだ手遅れじゃない。あなたは私の力を得て、今度こそ多くの人々を守ることができる。』
「あ、あなたは、、、?」
『私の名前は、、、』
ドガガガガガッッ!!
「ハァ、、、ハァ、、、」
「フハハハハッ!流石に疲れてきたようだな!!」
レイスの体力は今にも尽きようとしている。一方で光の剣は変わらず凄まじい勢いで撃ち込まれ続ける。
(ク、、、どうすれば、、、)
いまだに有効な対処法が思い付かず、レイスが頭を悩ませていたその時、
ゴオッッ!!
背後に凄まじい魔力を感じた。
「え!?何!?」
「な、何だ?」
レイスだけでなく、ジョナサンも突然現れた魔力に気を取られ、攻撃を中断する。魔力の主は、地面に座り込んでいるグレッグであった。
「こ、これはまさか!!」
混乱する2人をよそに、何かを察したらしいフレイヤがレイスの体から飛び出てきた。
やがて、グレッグの体に変化が現れた。彼の神父服は緑色のローブに変わり、手にはどこからか現れた先端に緑の玉がつけられた杖が握られている。
グレッグが杖を振ると、緑色の魔力があたりを包み込んだ。強大だが、包み込むような優しさのある魔力であった。
「これは、、、」
レイスは、自分の体から痛みが引いていくのを感じた。自分の体をよく見てみると、あちこちにあった傷がどんどんと塞がっていく。
それだけでなく、今にも息絶えそうになっていたミアも、胸にあった大きな傷が塞がり、呼吸が安定してきた。周囲を見渡すと、どうやら倒された冒険者たちも、回復していっているようだった。
「何だ!一体どうなっている!!」
ジョナサンは混乱して、わけがわからず叫ぶ。
グレッグは慎重に、容体が安定したミアを地面に寝かせると、ゆっくりと立ち上がって、レイスとフレイヤに向き合った。
「ま、間違いないわ!この人だったのよ!」
フレイヤはレイスの肩を叩きながら興奮して叫ぶ。レイスもここで、なにが起こっているのかを理解した。
「ど、どういうことなんだ!貴様ら!」
ジョナサンが叫ぶと、グレッグはジョナサンの方を向いて、語りはじめた。
「お前を倒すため、世界を救うために、神が力を分けてくれたんだ。」
「な、何?」
「私はこの力で今度こそ、全てを救ってみせる。
「治癒の神」パナケイア。この姿は、私と融合した神の姿だ。」
読んでくださりありがとうございます。




