第27話 再戦
「間に合ったと思ったけど、、、全然間に合ってなかったな、、、」
ジョナサンは辺りを見渡して、そう呟いた。多くの人たち縛られ、跪かされており、集会に来ていた10人以上の冒険者が倒れ、騎士達に取り押さえられている。そして、自身のすぐ後ろでは、重傷を負ったグレッグが、今にも息絶えそうになっているミアを抱えている。
ジョナサンはこの惨状を見て、自分がここに来る前に何が起こったのかをなんとなく理解した。そして、彼らを助けることが間に合わなかった自身を恥じた。
「クソッ!情けない、、、!」
「後悔している場合じゃないわよ!今は目の前の相手に集中しなさい!」
「、、、はい」
隣にいるフレイヤに叱責されて、レイスは気合いを入れ直して構える。彼の目の前にいるのは、レイスを1度完全に倒した因縁浅からぬ男、ジョナサン・ブレイドだ。彼の強さはレイスもよく知っている。
2人は睨みあうが、1人の騎士が2人の間に割ってはいる。
「貴様がここにいるということは、、、アンドリューを倒してきたということか。城の周辺には多くの兵士がいた。チートスキルを持った騎士もな。そいつらも全員なぎ倒してここまで来た、、、」
ジョナサンは淡々とレイスのこれまでの行動を推察する。
その時、1人の騎士が現れ、2人の間に割ってはいった。
「ケッ。よく見たら傷だらけじゃねぇか。こんなヤツ相手にジョナサン様の手を煩わせるまでもねぇ。俺たちが相手をしてやる。」
その言葉とともに、大勢の兵士がレイスやグレッグたちを取り囲んだ。冒険者達を取り押さえていた兵士や、街の人々を見張っていた兵士までもが集まってきた。既に冒険者や街の住人には抵抗する力はないと判断したのだろう。
「神父も姫騎士もまとめて八つ裂きにしてやるぜ!お前ら!やっちまえ!!」
リーダー格の騎士の号令で、殺気あふれる兵士達が一斉にレイス達に斬りかかった。グレッグはミアを守ろうと、彼女に覆い被さった。しかし、彼らの攻撃がグレッグ達に当たることはない。
ボッ!!
一瞬。文字通り一瞬にして、兵士達は全員、意識を失ってその場に崩れ落ちた。
「なっ!?い、一体何が、、、!?」
グレッグはわけが分からなかった。レイスがたった1人で兵士全員を無力化したこともそうだが、何よりレイスが攻撃したと思われる音はたった1回しか聞こえなかった。
実際には、彼は兵士全員に1発ずつ拳を当てていた。しかし、それがあまりにも速すぎて、人々はその連続攻撃を認識できず、さながらレイスは一撃で数十人の兵士を無力化したように見えたのである。彼の攻撃をはっきりと認識できたのは、本人以外だとフレイヤとジョナサンだけであった。
「バ、バカな、、、!俺たちがあれだけ苦戦した兵士達を、、、一瞬で、、、!」
アバンは地面に倒れたまま、圧倒的な強さを見せたレイスを呆然と見つめていた。
「、、、そしてたった今、お前は俺の部下を全滅させた、、、」
ジョナサンは、たった今起こった出来事を付け加えて、レイスの行動の振り返りを締めくくった。
どれもこれも、騎士達の大将であるアンドリューにとっては都合の悪いことばかりのはずである。しかし、今のジョナサンの顔には、蹴り飛ばされた直後にはあった怒りがなくなっていた。
「素晴らしい!!」
ジョナサンは突然、両手を広げて天に向かって高らかに笑い始めた。その異様な様子に、彼以外の全員がぽかんとしている。
「こんなにいいことが立て続けに起こるとは!!やはり俺は選ばれた存在だ!!「伝説」を作るにふさわしい人間なんだ!!ハハハハハ!!!」
周りのことなど意にも介さないで、ジョナサンはひたすらに高笑いを続ける。
「、、、一体何を言っているんだ?お前は何で笑っている?脳に蛆でもわいたのか?」
「ククク。これが笑わずにいられるか。チートスキル使いを何人も倒したお前をこの俺が倒す!これ以上俺の「英雄伝説」にふさわしいストーリーなどないであろう!」
「、、、英雄伝説?」
訳が分からないレイスに対して、ジョナサンはギラギラした目で説明を始めた。
「俺のあらゆる行いが伝説として残り、世界で最も偉大な存在として未来永劫語り継がれて行く、、、これが俺の夢だ。イーバーン、トム、アンドリュー、多くのチートスキル使いを降したお前は、俺の英雄伝説の絶好のカモということだよ。ククク。光栄に思うがいい。ちっぽけな存在として歴史の片隅に消えていくはずのお前らが、俺の「伝説」の一部として語り継がれるのだからな。」
それを聞いたレイスは呆れてため息をついた。
「急に伝説とかぬかすから何かと思ったら、くっだらねぇな。お前のちっぽけな自尊心を満たしたいだけか。」
「、、、フンッ。そこでボロ雑巾のようになっている女も同じようなことを言っていたな。やはり俺の崇高な目的は凡人には理解できんということか。」
レイスは、ジョナサンの魔力が急激に増加したのを感じた。
ヒュンッ
パシッ!
予備動作もなく、光の剣が現れ、レイスに向かって高速で飛んでいった。しかし、レイスはその剣を指でつまんで難なく止めた。
「ほぅ、、、なぜかは知らんが昨日よりずいぶんと強くなったようだな。」
「あんたの「伝説」とやらは今日、この場所で終わる。自分に都合のいいことばかりが起きるとは思わんことだ。」
レイスはつまんだ剣を放り投げると構えた。
「クククク。どうやら少し強くなった程度で調子に乗っているようだな。お前は俺の力の1割もあの時は見ていなかったというのに。」
ジョナサンはそう言うと、自身の周りに無数の光の剣を展開させた。
「食らえ!」
数十本の光の剣がレイス目掛けて飛んでいく。そのスピードは昨日レイスが城で戦ったときよりもはるかに速くなっていた。
(速くはなったが、ワンパターンだな。)
レイスは内心、昨日と同じ戦法をとったジョナサンに呆れながら、軽々と剣をかわしていく。
その様子を見たジョナサンは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
(ッッ!レイスッ!上ッ!!)
レイスの中にいたフレイヤが、空を指さして叫んだ。レイスが見上げると、空から大量の光の剣が降り注いだ。
「ヤバイッ!!ウオオオオッ!!」
ドガガガガッ!
正面から飛んでくる攻撃と上から落ちてくる攻撃、それらをかわし、あるいは拳で弾き返して、なんとか攻撃の第1陣を凌いだ。
「あ、危なかった、、、」
(さっき気づいたけど空にある星のようなものは全部アイツの魔法よ!気をつけて!)
フレイヤはレイスの体の中にいるため、冷静に戦況を見ることができる。そのため、先程は上からの攻撃にいち早く気付き、レイスにアドバイスすることができた。
「チッ、、、あの女神め、、、もう少しで串刺しにできたものを、、、」
ジョナサンも、レイスがフレイヤのおかげで難を逃れたことを感じとり、忌々しげに呟いた。一方で、グレッグや街の人は、2人のレベルの違う戦いを、ポカンとした表情で呆然と見ていた。
(か、彼は一体なんなんだ、、、!速すぎて全く見えない、、、!)
グレッグはレイスに対して得体のしれなさこそ感じていたものの、いざ実際に彼が戦っているところを見ると、その実力はグレッグの予想を大きく上回っていた。
(彼なら、ひょっとすると、、、!)
人々の中にわずかな希望が見えてきた。その希望を一身に受けるレイスは、ジョナサンに話し始めた。
「意外と芸がないヤツだな。上からの攻撃が追加されただけか。」
嘲りの言葉だったが、ジョナサンはそれに対して特に不機嫌になることはなかった。
「ワンパターンだと言いたいのか?ククク。だが光の剣の物量で追いつめる。これこそが俺の最強の戦術よ。」
「なら俺も昨日と同じ戦術でいかせてもらうとするか。お前の魔法など俺にとっては避けるだけなら簡単だ。
お前の魔法が途切れたところでカウンターを叩き込む。昨日はアンドリューとかいうヤツに邪魔されたが、今日はお前を守るヤツはいない。」
「クク、、、ハハハハッ!!」
レイスの言葉を聞いた途端、ジョナサンは大笑いし始めた。
「何が可笑しい。」
「フフフ、、、あんまりにもお前が分かりやすく勘違いしているからな。お前の今の説明だが、間違いが2つある。1つ、俺には守ってもらう者など必要ない。そしてもう1つは、、、」
ジョナサンは再び自身の周りに光の剣を生み出す。
「俺の攻撃にカウンターを叩き込む余地など一切ない。」
その言葉と同時に、再びレイスの正面と上空から光の剣が飛んでくる。
「同じことをしても無駄だ!」
レイスは光の剣をかわし、あるいは叩き落としながら、ジョナサンに接近していった。
「これでも食らえ!」
十分ジョナサンに近づいたレイスが、彼を殴り飛ばそうとするが。
「フンッ。間抜けめ。」
即座に彼の周りに数本の光の剣が出現し、レイスに襲いかかった。
「何!?クソオオオッ!」
ガガガガガンッ!!
レイスは拳で剣を弾き返していくが、
ザシュッ ザシュッ
「クッ!」
弾ききれなかった数本がレイスの脇腹と肩をかすめ、レイスの血が飛び散った。
「クソッ!」
レイスは後ろに飛びのいて、ジョナサンと距離をとらざるを得なくなる。
「ほぅ、死ななかったか。大したものだ。」
ジョナサンはニヤニヤしながらレイスを褒める。
(レイス!大丈夫!?)
「問題ありませんよ。かすり傷です。」
(よかった、、、それにしても信じられないわ。)
「何がですか?」
(ジョナサンの魔法よ!さっき確認したけど、空に浮いてる光の剣が全然減ってない!撃った瞬間にすぐに新しい剣を出してるのよ!いくら熟練の冒険者だからって、あんな強力な魔法を瞬時に発動できるなんて、、、)
「、、、、、、。」
フレイヤの言葉を聞いて、レイスはこれまで戦ってきた者達を思い出した。
彼らはいずれも魔法を放つ際に、力を込めたり詠唱をしたり、また放った後は、わずかに疲労の様子を見せていた。
そもそも魔法は、体内の魔力を形にして放出するものである。そのため、強力な魔法を放つ際は、集中したり力を込めたりして体内の魔力量を高め、放出すると魔力が一気に減少するため疲労感に襲われる。
一方でジョナサンは、そのような様子が全くなかった。魔法を放つ際も基本的に直立不動で、力を込めたりする様子はない。また、魔法を発動した後も、彼からは全く疲労が見られなかった。これらの情報から、レイスはある仮定が頭に思い浮かんだ。
「一体なんなのかずっと気になっていたが、だんだん見えてきたぞ。お前の「チートスキル」の正体。」
「、、、ほう?」
「お前の「チートスキル」、、、「魔力が減らない」、、、とかじゃないのか?」
それを聞いたジョナサンは、心底驚いたという表情をした。
「驚いたな、、、そこまで見破ってきたやつははじめてだ、、、。いいだろう!」
ジョナサンは両手をバッと広げた。すると、自身の力を誇示するように、彼の周りと上空に大量の光の剣が出現した。空に至ってはもはや星とは思えないほど、光で埋め尽くされている。
「餞別代わりに教えてやる。俺が転移者から与えられた恩恵、チートスキルは「魔力量固定」。俺の魔力は最大の状態のまま固定され、どれだけ魔法を放っても永遠に減ることはない。だから一瞬で魔法を展開できる。つまり、、、」
ジョナサンは余裕の表情でニイッと笑った。
「その気になれば俺は永久に魔法を撃ち続けることが可能ということだ。」
読んでくださりありがとうございます。




