第26話 英雄
一般市民はおろか、戦いなれた冒険者や、チートスキルを授けられた騎士達でさえ気分が悪くなるほどの魔力の暴風が吹き荒れる広場の中、魔力の嵐の発生源であり、この場にいる全員の注目を集める男、ジョナサン・ブレイドは、上機嫌で広場の中心に移動した。
「昨日に続いて今日も、全くなんて都合のいい、素晴らしい日だろうか。「2ページ」だ。この2日で俺の「英雄伝説」のページが2ページ分埋まったぞ!」
ジョナサンは何やら訳の分からないことを楽しそうに話している。
「な、何を言っているんだ?」
「世界とは「劇場」だ。俺が英雄伝説を作り上げるための。昨日は、うちの騎士を倒した侵入者を捕らえた。そして今日は、お前たちを倒す。俺は勝って、勝って、勝って!そして!」
ジョナサンは空を指差して広場全体に響き渡る声で叫んだ。
「俺は、全ての頂点に立つ!そして全ての人間は、俺の偉大なる活躍を賛美するのだ!」
「、、、まるで子供の空想だな。くだらない。」
ミアはジョナサンの妄言に呆れ、冷めた表情で見ていた。
「空想、か、、、結構なことじゃあないか。俺にはそのくだらない空想を実現することができる力があるんだ!「チートスキル」という名の偉大なる力が!」
ジョナサンがそう言ったのと同時に、嵐のように吹き荒れていた彼の魔力が、彼の体に集中した。
「見るがいい。ここからが本当の地獄だ。」
ジョナサンから魔力の柱が天に向かってのびた。そして、空には何やらキラキラとしたものが現れて、空を覆い尽くす。さながら、夏の夜の満天の星のようであった。
「いくぞ。」
ジョナサンがくんと人差し指を下げると、同時に星の1つがミアを目掛けて落ちてきた。
「ヤバイッ!」
ガキィンッ
ミアは氷を纏わせたレイピアでその星を弾き返す。
「くっ!なんて威力、、、!」
その星は、ミアが今までに戦ったどんな魔物の攻撃よりも強かった。なんとか凌いだとはいえ、たった1回の攻撃で彼女の手はビリビリと痺れ、剣を握るのがやっとという状態になった。
「い、今のは一体なんだったんだ?」
弾かれて地面に刺さったそれを彼女は確認する。星だと思っていたものは星ではなく、「光の剣」であった。
(これは、、、まさか!!)
ミアは猛烈に嫌な予感がして星が輝く空を見上げる。空に浮かんでいるものは星ではなく、ジョナサンの膨大な魔力によって作られた、何万もの大小様々な光の剣であった。
(空のアレ1つ1つが、、、)
「顔が青くなったな。ククク。クールぶっているが意外と分かりやすいヤツだ。」
ミアの動揺を看破したジョナサンは可笑しそうに笑う。ミアは見透かされたことを恥じて気合いを入れ直すように頭を振ってジョナサンを睨み付ける。
「さて、これが俺の「真の力」というわけだが、、、一体お前は何分もつかな?」
その言葉と同時に、空から5本の剣が振ってきて、ミア目掛けて突っ込んでくる。ミアは氷の槍を生み出して、光の剣と相殺しようとするが、
パキィンッ!
ミアの作った氷の槍は、ジョナサンの剣と接触した瞬間、粉々に砕け散った。
「くっ!」
ミアは俊敏な動きで、迫り来る光の剣レイピアで弾いたり、避けたりするが、光の剣は止まることなく延々とミアを追跡する。そしてついに、ミアの体を光の剣が捕らえた。
「あああああっ!!」
肩、横腹、足に深い切り傷を負ったミアは絶叫して、その場に踞る。
「そんな!ミア!」
グレッグはミアに呼び掛けるが、彼女にはその言葉に答える余裕はない。涙目になりながらも傷口を押さえて激痛に耐えているが、戦闘不能になってしまったことは誰の目にも明らかだった。
「少しは期待してたのにがっかりだな。偉そうに言っておいて結局はこの程度かよ。」
ジョナサンはミアへの失望を隠そうともせず、踞る彼女に向かってゆっくりと歩き出す。
「い、いかん!」
ミアの命の危機を感じたアバンをはじめとした冒険者連合は、それぞれ戦っていた相手を無視して、ミアを救助するために一斉に全方位からジョナサンに攻撃を仕掛けた。
「邪魔だ虫ケラども。」
ジョナサンは何の抑揚もない声で呟くと、空から十数本の光の剣が降ってきて、冒険者たちに攻撃を仕掛けた。
「な!?ガハッ!」
冒険者たちは全員深い切り傷を負ってその場に倒れてしまい、駆けつけた騎士達によって取り押さえられた。
ミアの強さは同年代の冒険者と比べて圧倒的である。パーティーメンバーのアバンと模擬戦をしたときも、彼女は毎回圧勝していた。そんなミアが惨敗するような相手に、アバン達が束になってかかっても、ジョナサンに傷1つつけられないのは当然であった。
「み、みんな、、、く、、、」
目の前で仲間達が倒されたのを見たミアは痛みを噛み殺してなんとか立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かない。
「正直言って少し拍子抜けだが、まぁ仕方がない。俺はどうやらお前達とは次元が違う存在になってしまったらしいな。」
ジョナサンは空に浮かぶ大量の光の剣を見上げ、うっとりと呟いた。
「ぐっ、、、うぅっ、、、」
「心配するな。俺とよく戦った褒美だ。苦しまぬよう一瞬で殺してやる。」
ジョナサンは空から1本の光の剣を落としてそれを掴むと、瀕死のミアに向かう。
「さ、させる、、、か、、、」
ジョナサンがミアの間近にまで迫ったとき、腰の短刀を抜いたグレッグがミアを守るようにジョナサンの前に立ちふさがった。
「お、おまえの、、、相手は、、、私だ、、、こ、こい、、、っ」
「フン。しつこいヤツめ。お前なぞに何ができると言うのだ。」
ミアほどではないにしても、グレッグも大きなダメージを負っている。
「今さら正義に目覚めたとでも言うつもりか?お前も英雄と呼ばれたいのか?だがお前がここで格好つけたところで、お前がこれまで民衆を苦しめてきたという事実は覆ることはない。一体なぜこんな無駄なことをするのだ?」
「確かに、、、私がお前に勝てる可能性は全くない、、、それに、、、お前が言ったように、、、たとえお前をここで倒したとしても、、、私が許されることはないだろう、、、だが、、、できないんだよ、、、」
「、、、?」
「弱くても、、、お前に敵わなくても、、、「たったそれだけ」の理由で、、、!私のかつての仲間が、、、!街の人々が、、、!お前に殺されるのを黙って見ていることなんて、、、!それだけはできないんだよ!!」
グレッグの目に今までにない覚悟の光が宿った。そして、身体中の痛みを噛み殺して、短刀をしっかりと握ると、ジョナサンに向かって走り出す。
「うおおおおっ!!」
パキンッ!
ジョナサンめがけて放たれた短刀はしかし、彼の光の剣によって一瞬にして粉々に砕かれてしまった。
「ク、、、ソ、、、ッ」
「鬱陶しいヤツめ。もういい。死ね。」
ジョナサンが淡々と、グレッグの心臓を貫かんと剣を突きだす。その時、
「危ない!!」
ミアがグレッグを突き飛ばした。そして、地面に倒れたグレッグが顔を上げて見たものは、ジョナサンに心臓を刺されたミアであった。
「あ、、、、、、ゴブフッ!」
一呼吸おいて、ミアの胸と口からおびただしい量の血が流れ出て、彼女は糸が切れたマリオネットのようにその場に崩れ落ちた。
「おやおや、、、意外な展開になったな、、、」
「ミア!ミア!」
グレッグはすぐ近くにジョナサンがいることなどお構いなしで、倒れるミアにかけよって彼女を抱き抱える。
「だ、大丈夫大丈夫、、、ヒ、ヒール!」
グレッグは自分が唯一使える魔法である、回復魔法の「ヒール」を彼女の胸にかける。しかし、
「ヒュー 、、、ヒュー、、、」
彼女の呼吸はどんどんと浅くなっていき、目から光が消えていく。
「クソッ!ヒール ヒール ヒールッ!」
何度も何度も彼女に回復魔法をかけるが、彼女の怪我はよくならない。
そもそも「ヒール」は、聖職者が得意とする「聖魔法」の1つであるが、これはその中でも初級中の初級魔法である。本来「ヒール」には、ちょっとした切り傷や打撲の痛みを和らげたり、傷口の再生の活性化をさせるくらいしか効果がない。完全に致命傷を負ったミアにかけても意味がなかった。
そのことは当然グレッグも理解していたが、彼は魔法をかけることをやめることはできなかった。
「ヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒール!!!!」
既に魔力が空になってしまっているのにも関わらず、彼は狂ったように彼女の胸に手を当てて「ヒール」を連呼し続ける。
「ハハハハッ!!相変わらず無駄なことばかりするヤツだな。お前じゃ何にもできないってことがまだ分からないのか?お前のその無駄だらけの人生を終わらせてやる。」
ジョナサンは必死な様子のグレッグを見て嘲り笑うと、彼に向けて剣を振り下ろした。迫り来る光の剣を前に、グレッグは自身の人生を思い返した。
幼馴染みと一緒に冒険者になりたかった。
でもなれなかった。
カッコいい英雄になりたかった。
でも悪い神父になった。
悪人になってでも街を守りたかった。
でも守れなかった。
怪我をした幼馴染みを救いたかった。
でも救えなかった。
(私は、、、俺は望んだことを何一つ実現することができなかった、、、こいつが言ったように俺のやってきたことは全部無駄だった、、、今も俺は、傷ついた友達1人助けられない、、、情けねぇ、、、)
「ちく、、、しょう、、、っ」
剣が彼の頭に振り下ろされる直前、自分の情けなさと無念から、彼の目から一粒の涙がこぼれ落ちた。
ゴッッッッ!!
突然1人の男が現れて、ジョナサンの顔面に蹴りを入れて、彼をそのまま蹴り飛ばした。
「グァッ!!」
蹴り飛ばされたジョナサンは、地面を転がって倒れたが、すぐさま起き上がり、顔をおさえながら、自分の顔を蹴った男を睨み付けた。
「き、貴様は、、、!」
男の顔を見たジョナサンは、怒り以上に驚いたといった表情をした。
だが、この場で一番驚いたのはグレッグであった。彼は男に見覚えがあった。赤色と白色で分けられた彼の特徴的な髪を見間違えるはずがなかった。
しかし、彼は間違いなくグレッグが知っている人物であったが、同時にまるで別人のようでもあった。彼の両腕には赤色のガントレットが装着されており、全身から凄まじいオーラを放っていた。彼が放つオーラは人間とは異なった、神々しさすら感じさせた。
「レイ、、、ス、、、」
グレッグは、その男の名前を呟いた。
「無駄、、、なんかじゃないさ。あんたがこれまでしてきたことはな、グレッグ。」
レイスはグレッグたちを守るように、彼の前に移動してジョナサンと向き合うと、グレッグに背を向けたまま彼に語りかけた。
「遅れてゴメン。でも、もう大丈夫だ。今度こそ。」
読んでくださりありがとうございます。
少し遅れてしまい申し訳ありません。




