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第24話 走る

「、、、今頃、広場では市民の処刑が始まってるのかなぁ。」


ミケーアの城の門番の1人がボソリと呟いた。


「ん?ああ。そうだろうな。」


近くで立っていた門番が相づちをうった。


「ジョナサン様も思いきったことをするよな。シルフィ様の機嫌をとるために反乱組織をでっち上げて、証拠として市民の首を反乱者の首として送るなんてさ。」

「仕方ないさ。転移者様の側近を怒らせたらどんなに恐ろしいことが起こるか分かったもんじゃない。そうだろ?」

「あぁ、、、確かにそうだ。」


転移者コウガの側近であり妻の1人、シルフィの恐ろしさを彼らは知っている。と言っても、彼らはシルフィが戦っているのを直接見たわけではない。それどころか、会ったことすらない。彼らがシルフィについて知っているのは、せいぜい顔くらいである。

だが、彼らはこれまで見てきた。シルフィという存在に怯えきっているミケーアの支配者ジョナサンの姿を。圧倒的な力でミケーアに君臨するジョナサンの態度以上に、シルフィの恐ろしさを彼らに鮮明に伝えるものはなかった。


「実際、いるのかなぁ。転移者様に逆らおうとするヤツなんてさ。」

「昨日のヤツがそうじゃないか?」

「ああ。そういえばいたな。けど運良くトム様に勝って調子に乗って、結局ジョナサン様にあっさり負けて捕まったって聞くぜ。あんなのはただのマヌケって言うのさ。」

「違いないな。だがそもそも転移者様達に逆らおうとするヤツなんて本当にいるんだとしたら、そいつらは全員、とんでもない大間抜けやろうさ。」

「言えてるな。そもそも「チートスキル」を持った人間に逆らおうって考えること自体が間違いなんだ。ご機嫌さえとっとけばオイシイ思いができるってのによ。」

「「アハハハハッ!」」


彼らが談笑していたその時、突然地面が激しく揺れ始めた。


「な、なんだ!?地震か!?」


直後、彼らの目の前の地面を突き破って何かが飛び出してきた。


ドシャッ


その何かはそこからさらに数十メートル上空に飛ぶと、地面に落ちた。


「今のは一体、、、?」

「何事だ!」


巨大な音を聞いて、城壁の周りにいた兵士も何人かやってきた。彼らは円を描いて恐る恐るたった今落ちてきた物体に近づいていく。


「う、うわぁぁぁっっ!!」


物体から5mのところまで近づいたところで、その物体が何なのかはっきりと認識した。


「ア、アンドリュー様っ!!」


それは、アンドリューの死体であった。彼の体は折れてない骨がないほどグチャグチャになっていた。


「何てこった!アンドリュー様がやられた!」

「バカな!彼はチートスキルを持っているんだぞ!?」


チートスキルを持った超越者アンドリューが負けた。そのあり得ない光景を見て、彼らは呆然とする。

その時、


ビュンッ!


アンドリューが飛び出してきたことでできた穴から、再び何かが飛び出てきて、地面に着地した。


「結局エレベーターに乗る必要が無くなりましたね。」

「あ、あなた無茶苦茶ね、、、」

「見覚えがあるなと思いましたが、どうやら城の前に出たみたいですね。」


穴から出てきたのは、レイスと彼の首に掴まるフレイヤであった。チートスキルを持っていない兵士達には、神であるフレイヤは見えないため、彼らの目にはレイス1人が颯爽と現れたように見えた。


「き、貴様は!確か昨日捕まったはずの、、、!」

「コ、コイツがアンドリュー様を倒したと言うのか!?」

「怯むな!隊列を組み武器を構えろ!」


兵士達は恐怖を押し殺して、レイスの逃走を防ぐために彼を囲い、槍を向ける。


「か、囲まれたわよ!?」

「、、、まぁ、そんな簡単に逃げられるわけはないと思っていましたが、まいりましたね。」


レイスが打開策を考えている時だった。


ドゴォォォォン!


遠くから轟音が響いてきた。ここからかなり離れている場所らしいのに、ここまではっきりと聞こえてくる。


「は、始まったのか、、、?」


兵士の1人がポツリと呟いたのを、レイスは聞き逃さなかった。


(始まった?何が?)

「い、一体どうしたのかしら?」

「よく分かりませんが、どうやらただならぬことが起こっているようですね。こうなったら仕方ありません!」


レイスはガントレットを腕に纏い、拳を天に向けて突き上げると、勢いよく地面に叩きつけた。


ボパンッッ!!


レイスの拳を中心に地面に巨大なクレーターができる。その時に発生した衝撃によって、レイスを囲っていた兵士のほとんどが吹き飛ばされ、戦闘不能になった。


「ヒ、ヒィィッ!」


衝撃波を逃れた数人の兵士達も、恐怖のあまり武器を落としてしまい、戦意を完全に失った。


「雇われているだけの兵士を痛めつけるのは気が引けますが、緊急事態のためやむを得ません。強行突破します!振り落とされないようしっかり捕まっててください!」

「わ、分かったわ!!」


フレイヤはレイスの首に回した腕に力を込める。それを確認したレイスは、猛スピードで走り始め、あっという間に城から離れた。


「さ、させるか、、、」


レイスの衝撃波で吹き飛ばされた兵士のうちの1人が、力を振り絞って懐からトランシーバーを取り出した。


「し、囚人が脱走、、、アンドリュー様は戦死、、、囚人の名はレイス・ビネガー、、、発信器をたよりに各員、対象を捕獲せよ、、、せ、生死は問わない、、、」


都市の守備兵士全員に指示を出す。レイスは知らなかったが、囚人の体には小さな発信器がつけられていた。

指示を出し終えた兵士は、そのまま力尽きて意識を失ってしまった。


「うおおおおおおっ!!」

ドドドドドドドドッッ!!


そうとも知らないレイスは、猪のように一心不乱に音のした方向に向かって走る。


(嫌な予感がする、、、絶対によくないことがあっちで起こっている!)


「待て!止まれ!」


前方では兵士達が隊列を組んでバリケードのように立ち塞がるが、


「どけどけ!邪魔だ!」

パコーンッ!

「「「ぐわぁぁっ!!」」」


レイスの突進によって兵士達はボウリングのピンのように吹き飛ばされてしまう。


「やれやれ。まるで野生動物だな。品がない。」


今度は前方に、他の兵士とは明らかに違う、黒いマントを羽織って巨大な鎌を持った長髪の美青年が現れた。

レイスには彼の顔に見覚えがあった。レイスが昨日乗り込んだ玉座の間にいた、ジョナサンの側近の騎士の1人であった。


「あの馬鹿力のアンドリューを倒したのは褒めてあげよう。褒美に僕の全力の一撃であの世に送ってあげる。見るがいい!これが僕のチートスキ」

「邪魔ぁっっ!!」

ボゴォッッ!!

「フベッ!?」


レイスの右ストレートをモロに顔に食らい、彼は地面と平行に飛んでやがて建物に激突し意識を失った。尚、彼を殴った際、拳が彼の顔に直撃した時の音とは別に、バリンッというガラスが割れたような音がしたが、急いでいたレイスにはその事を気にする余裕はなかった。


「間に合え!間に合え!間に合え!」


このままでは何か取り返しのつかないことが起こってしまう。そういった嫌な予感がどんどんと強くなっていった。

レイスは走った。

ただただ走った。

そして、事態は思いもよらぬ方向に進む。

読んでくださりありがとうございます。

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