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第23話 牢獄の主(後編)

レイスはガントレットを腕に出現させて、アンドリューと向かい合う。


「しっかし まぁ、驚いたぜ。まさか俺様のラリアットを食らって生きてるだけじゃなく、後遺症もなく動けるなんてな。」


アンドリューは、レイスの体をまじまじと見ながら、レイスの頑丈さを褒めた。


「お前が自分で思ってるほど強くないだけじゃないのか?」

「くくく。言ってくれるねぇ。本当に俺が弱いか、その身で確かめやがれ!」


アンドリューは再び振りかぶって、巨大な斧で攻撃を仕掛けてくる。レイスは次々と迫り来る斬撃を、軽快なステップで躱していく。


「あ、あの巨体で、なんてスピード、、、!」


約2メートルの体格とはとても思えないようなアンドリューの動きに、廊下の端で縮こまるフレイヤが驚愕する。


「オラッ!!」

ドカッ!

「グッ!!」


ついに、アンドリューが隙をついて放った蹴りが、レイスに直撃した。レイスは腕をクロスさせることで蹴りを防いだが、衝撃によって大きく後ろに下がり、廊下の奥にあった扉にそのまま突っ込んだ。


その場所は、たくさんの椅子やテーブルが並べられた、食堂とも休憩所ともとれるような部屋であった。おそらくは、看守達のための部屋なのだろうとレイスは思った。


「レイス!大丈夫!?」


フレイヤが部屋に入ってきて、レイスに駆け寄った。


「はい。平気です。」


レイスがそう彼女に伝えたのと同時に、アンドリューも部屋に入ってきた。


「運がいいな。ここはお前ら囚人はまず来ることができない看守の休息所だ。死ぬまでの数分間、しっかり堪能しろよ。」

「確かに、数分でこの部屋は出なくちゃならなくなるだろうよ。それまでにお前をぶっ飛ばすんだからな。」

「口が減らないヤツだな。そんな生意気なお前には、コイツを、、、食らわせてやる!」


アンドリューは手に持っていた壁の破片をレイスに投げつけた。


(、、、!?一体どういうつもりだ?)


こんな攻撃が当たるとは到底思えない。なぜアンドリューがこのような悪ふざけとしか思えないようなことをしてきたのか、レイスには理解できなかった。


(こんなもの、、、よけるまでもない。)


レイスは高速で飛んでくる破片を右手の甲で弾いた。すると、


バキッ ゾリッ


レイスの右手から奇妙な音がして、鈍い痛みが走った。レイスが右手を確認すると、ガントレットの一部が砕け、一部がむき出しになった彼の手からは血がボタボタと流れていた。


「キャアッ!レイス!血が!大変!」

「落ち着いてください、なんてことありませんよ。」


フレイヤをなだめるレイスであったが、彼も内心この現象を不思議に思っていた。


(肉が抉れてる。あんな程度で?)


アンドリューが投げた破片は確かに高速であったが、だからといってレイスの腕を破壊するほどの威力があるようには思えなかった。


「ほぉらっ!いくぜぇっ!!」


レイスに考える隙を与えず、アンドリューは両手に持った大量の破片を投げつける。


(食らったらヤバイッ!)


察したレイスは右側に飛んで迫り来る破片を回避した。しかし、


「そう来ると思ったぜ。」


レイスの回避を見越していたアンドリューは彼に既に接近しており、斧を振りかぶっていた。


「フゥンッ!!!」

ドゴォォッッ!!


巨大な斧の側面がレイスの体を直撃し、彼は食堂の端まで吹き飛ばされて壁に全身を打ちつけた。


「ククク。手応えあった。あれじゃ全身の骨がぐちゃぐちゃだな。」


アンドリューは勝利を確信した。そして、レイスの無惨な死体を確認しようと、彼を吹き飛ばした方向に目を向ける。すると、


「フ~。驚いた。」


そこにいたのは、服をパンパンと叩く無傷のレイスであった。


「な、何だとっ!?」

(バカな、、、昨日ヤツを倒したときと同じ「10倍」の力でぶっ飛ばしたってのに、、、!)


「レ、レイス!大丈夫なの!?」

「はい。」


レイスは、涼しげな顔で答える。アンドリューは、そのようなレイスの状態に驚きながらも、隙を見せず斧を構える。


「、、、なぜかは知らねぇが昨日よりも頑丈になってるみたいだな、、、。」

(俺の本能が告げている、、、コイツは危険だと、、、だから全力で一気に潰す!)


アンドリューは手を床につける。そして、部屋全体を「強化」した。


(俺が与えられた「チートスキル」は「パワーアップ」。俺自身、そして触れたものの「強さ」を最大で「100倍」にする。俺が触れば木材はダイヤ以上の硬度となり、鉛筆は鉄板を貫く。)


アンドリューの体にビキビキと血管が浮き上がってくる。彼の異変にレイスも気付き、警戒した表情で拳を握りしめた。


「ククク。俺と俺の斧。そして、この部屋全体の「強さ」を100倍にした!今の俺様はさっきまでとはわけが違うぞ!」


アンドリューは地面を蹴って一瞬でレイスに接近すると手で彼の頭部を掴み、そのまま壁に叩きつけた。


「まだまだぁっ!!!」

ゴンゴンゴンゴンッ!!


アンドリューの攻撃はそれだけで終わらず、何度も何度もレイスの頭を100倍の固さにした壁に打ち付ける。


「こんなもんで終わると思うなよ。潰れちまえよ!オラオラオラァ!!!」


アンドリューは斧を置くと両手でレイスにパンチを繰り出した。


(前から来るパンチと後ろの壁でダメージは実質2倍!さらに俺と壁は100倍に強化されている!いくらお前が多少頑丈でもひとたまりもないわ!)


ドドドドドドドドッッ!!


アンドリューはひたすらレイスの顔面を殴り続ける。既に一発一発がドラゴンを粉砕する威力のパンチを何百と浴びせているが、アンドリューの攻撃は止まらない。彼はここで一気にケリをつける気であった。


「レイスから離れなさい!この怪物!」


フレイヤが椅子でアンドリューの背中を叩いた。しかし、椅子は容易く彼の屈強な背中に弾かれてしまう。


「あ?」


アンドリューがラッシュを続けながら後ろのフレイヤを確認する。フレイヤが力を失っていることは既に彼も認識しており、そのため、彼にとってフレイヤ対処の優先順位は低かった。むしろ、攻撃を受けるまで、彼はフレイヤの存在自体を忘れていた。


「この!さっさと離れて!」


フレイヤはなおもアンドリューに攻撃を続けるが、彼は全くのノーダメージである。しかし、レイスに集中したい状況で攻撃をされたことで、アンドリューは不機嫌になった。


「チッ!鬱陶しい!このアマ!!」


アンドリューは裏拳でフレイヤを殴り飛ばそうとした。彼女は恐怖で思わず目を瞑るが、フレイヤに攻撃が当たることはなかった。


「な、何だと、、、」


アンドリューの困惑した声が聞こえてくる。フレイヤが目を開けると、彼女の目には、今にもフレイヤの顔に当たりそうなアンドリューの拳と、その拳を掴んで止めるレイスが写った。


ボッ!


間髪入れず、レイスは余った手を握りしめ、それを前に突き出した。レイスの拳はアンドリューの腹に深々と突き刺さった。


「は?、、、ゴバァッ!!」


アンドリューは一瞬理解できない様子だったが、直後に口から大量の血を吐いて、膝から崩れ落ちた。うずくまるアンドリューを冷めた目で見るレイスが鼻血を拭う。アンドリューの攻撃でレイスに与えることができたダメージは、彼に鼻血を出させる、たったそれだけであった。


「バ、、、ゲボッ!バカ、、、な、、、お、俺の、、、体は、、、100倍の、、、」

「、、、、、、」


レイスは冷めた目で未だに起き上がれないアンドリューを見下ろし続ける。


「な、なんだ、、、その目は、、、お前が、、、俺より、、、「上」だってのか、、、?俺様を、、、見下してるってのか!? ふ、ふざけるなぁっ!!」


アンドリューは立ち上がると斧を持ち上げ、そのままレイスに振り下ろした。


「ぶっ潰れろぉぉぉっっ!!!」

バギンッ!!


振り下ろした斧に向けてレイスが拳を放つと、斧は真っ二つに折れてしまった。


「ハ、ハハ、、、冗談キツイ、、、ぜ、、、」

(ふざけんなよ、、、確かにこれまでさんざんオイシイ思いをしてきたけどよ、、、なんで最後の最後でこんなバケモノと戦わなきゃならねぇんだ、、、)


アンドリューの口から乾いた笑い声がこぼれる。彼はレイスに勝てないということをこの瞬間心の底から理解した。しかし、


「ちくしょうめぇぇぇぅっ!!!」


アンドリューの冒険者としてのプライドが、命乞いをしたり、諦めたりすることを許さなかった。彼は最後の力を振り絞ってレイスに殴りかかった。だが、その拳がレイスに届くことはなかった。


「フンッ!」

グシュッ!

「グヘェッ!?」


レイスはアンドリューの拳を避けると彼の顔面を殴り付けた。一撃で顔中の骨が粉砕され、至るところから出血する。


「うおおおらああああっっ!!」

ドドドドドドドドッッッ!!!


それを皮切りに、レイスはアンドリューに猛烈なラッシュを浴びせる。パンチを一発当てる度に、アンドリューの骨が砕けて体が変形していく。


「ぬおおおおおっっっ!!」

ドゴォォォォン!!


上に突き出したレイスの拳がアンドリューの潰れた顔面をとらえると、彼の体は天井に激突し、それどころか勢い余って天井とその上の地面を破壊しながらどんどんと上っていき、ついには地上まで貫通した。


「ハァ、、、ハァ、、、フゥッ。」


レイスは息を整えると、穴がぽっかりと開いた天井に向けて拳を突き上げ、高らかに宣言した。


「俺の勝ちだ!!!」


ミケーア城地下監獄の戦い

レイスVSアンドリュー


勝者 レイス

読んでくださりありがとうございます。

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