第22話 牢獄の主(前編)
「ハァ、、、退屈だな。」
監視カメラの映像が流れるモニタールームの中で、地下牢獄の看守長であるアンドリューが映像を眺めながらため息をついた。彼が愚痴をこぼしていたのは、ジョナサンに城の留守番を命じられ今日町で行われる「祭り」に参加できなかったからである。
アンドリューは元々ミケーアの冒険者で、街で随一の実力者と名高いSランク冒険者のジョナサンが率いるパーティーの一員であった。彼は三度の飯よりも血と暴力が好きな男で、討伐任務の際には、盗賊や魔物を必要以上にいたぶって絶命させることで有名であった。ギルド内での暴行事件も絶えず、彼個人の評判は最悪という以外になかったが、Sランクパーティーの一員であったために、彼はその冒険者人生の中で、特段重い罰を受けることはなかった。
そして、転移者の台頭に伴って、冒険者からチートスキルを与えられた騎士に職を変えると、彼の傲慢さと凶暴性はますます悪化していった。
そのため、今回、「合法的」に多くの人間を殺すことができる、広場で行われる住民の一斉処刑に参加できないことが、アンドリューには不満だった。彼が今回城に残されたのは、先日捕えたレイスという男を見張るためである。万が一、レイスが脱走したら、力ずくで取り押さえるよう、ジョナサンに命令されていた。
「全く、、、あいつも心配性なもんだぜ。俺様の攻撃を食らってロクに動けるはずがないってのによ。あ~あ。マジで退屈だぜ。ったく。仕方がねぇ、、、」
アンドリューはモニターに背を向けて立ち上がると、舌なめずりをした。
「また、囚人で遊ぶか。」
アンドリューはモニター室のすぐ隣にある、彼の私室、「看守長室」に入っていった。中は、モニター室や牢獄のものものしさからは想像もつかないような豪華な造りとなっていて、この刑務所におけるアンドリューの権力がうかがえる。そして、その奥には、部屋の雰囲気に似合わない巨大なタンスがおいてあった。アンドリューがタンスを開くとその中には、おびただしいほどの数の拷問器具がズラリと並んであった。
城の地下刑務所には、300を超える牢屋があるが、牢屋はスカスカで、囚人が入っている房はほとんどない。街の至るところに刑務所が併設された兵士の詰所があって、そもそも城の刑務所に入る囚人の数が少ないというのもあるが、一番の理由は、囚人が入ってきても数日後には、アンドリューの拷問によって死に至らしめられるからである。
そのため、現在のこの刑務所には、囚人はレイスを含めても10人ほどしかいない。ここは、刑務所という名の、アンドリューの趣味の「処刑場」である。彼は抑えがたい破壊衝動を、囚人を使って発散しているのだ。
「ヒヒヒ。レイスのヤツは完全にのびちまってるから拷問のしようがねぇし、他の囚人どもを切り刻むか。それか気絶している間に手足を切り落として、目が覚めたときの反応を楽しむってのもアリかもなぁ。」
アンドリューは恍惚の表情で、拷問用の刃物や鈍器に頬ずりしながら、囚人達の苦しむ姿を想像する。看守長に就任して以来、何百人もの囚人を潰してきたが、全く飽きることはない。拷問は、まるで麻薬のように、アンドリューを快楽で支配していた。
その時だった、
ドゴォォォンッ!
凄まじい轟音と共に、アンドリューの部屋がグラグラと揺れた。
「な、何だっ!?地震かっ!?」
アンドリューは一瞬地震が起こったのかと思ったが、冒険者だった頃に鍛えられた勘が、安易な考えから導かれた結論を許さなかった。彼は冷静に音が揺れに関係していると考え、轟音がした方向を思い返した。
「もしや、、、っ!」
彼は部屋を飛び出して監視モニターの確認に向かった。写っていたのは、檻がなくなった牢屋から出てくるレイスと、驚愕の表情を浮かべながら彼に続いて牢屋から出てくるフレイヤであった。
「あいつら、、、どうやって、、、っ!」
やがて、レイス達の前に数人の兵士が立ちふさがって武器を構えた。
しかし、瞬きをする間もなくレイスによって意識を刈り取られ、気絶した兵士達は空の牢屋に押し込められた。レイスは淡々と歩いていき、やがて、モニターから姿を消した。
「、、、どうやら、退屈しのぎはできそうだな。」
アンドリューは手に持っていた拷問道具を投げ捨てると、看守長室に戻り、そこの壁にかけてあった巨大な斧を手に取った。
「ヘヘヘ、、、コイツを使うのは久しぶりだな、、、」
この斧は、彼が冒険者だったときにドラゴンと戦った時に使用したものである。魔王軍によって放たれたそのドラゴンは体長30メートルを超え、口から吐く炎は街1つを容易く焼きつくし、「天災」と呼ばれていた。
当時若きAランク冒険者だったアンドリューは単身ドラゴンに挑み、斧でドラゴンの首を切り落として勝利をおさめた。以降、彼は「竜殺しの英雄」と呼ばれるようになり、功績によりSランク冒険者に昇格、ついには、「最強の冒険者」と呼ばれていたジョナサンとパーティーを組めることとなった。
アンドリューにとって、まさに自身の栄光の証とも言える斧であった。
「待ってろよぉ、、、コイツで首をはね飛ばしてやるからなぁ、、、っ!」
アンドリューは獰猛な笑みを浮かべながら、斧を持って部屋を出た。
一方その頃、、、
「と、止めろっ!止めろぉっ!!」
「ウラララララァッッッ!!」
ドドドドドドドドッッッ!!
「ぐわああっ!!」
レイス達は、立ち塞がる看守をなぎ倒しながら、首にしがみつくフレイヤを引っ張って刑務所内を縦横無尽に走り回っていた。
「ちょっとレイスッ!?あなた自分が今いる場所とか分かってるのっ!?」
「分からないから走ってるんですよ!走ってたらそのうち出口が見つかるはずです!」
「さっきから3回くらい同じ場所を通ってる気がするわよっ!?いいからちょっと止まって!」
キキィッ!
レイスは言われて、自転車の急ブレーキのような音を出しながら止まった。
「ハァハァ、、、いい?これじゃあ一生出口は見つけられないわ。」
「どうしてですか!?」
「分からないのっ!?ここは地下なのよ!窓がまったくないでしょう?いくら刑務所だからって、牢屋付近はまだしも施設全体に窓がまったくないなんて地下に設置されてるでもない限りありえないわ!」
「じゃあ、、、階段か何かがあるってことですか?」
「転送魔法で直接ここに来るってこともできなくはないけど、そんな面倒なことをするとは思いにくいから、多分エレベーターがあるんでしょうね。着いてきて。」
2人は1つの牢屋の前に立った。
「ここがどうかしたのですか?」
「よく見て。この牢屋、他の部屋とは離れてポツンとあるでしょ?なんでだと思う?」
「さぁ、、、重罪人を入れるとか?」
「不正解。あなたの首に掴まってる時に何度かここの近くを通ったけど、その時にこの牢屋から僅かに魔力を感じたわ。つまり、」
フレイヤは牢屋に手をかざした。そして、フレイヤの手がボウッと光ったかと思うと、檻とその中の空間が蜃気楼のように揺れる。
「これが答えよ!」
「ッッ!!」
目の前の牢屋が跡形もなく消え去り、エレベーターの扉が現れた。
「魔法で隠していたのか、、、」
「その通り!今の私でもこんな魔法くらいは見破れるのよ!さぁ!早く乗りましょう!」
2人はエレベーターに乗り込むと、地上を示したスイッチを押した。すると、エレベーターはぐんぐんと上っていく。
「いや~。それにしてもフレイヤさんのおかげで助かりました。よくあんなのを見破れましたね。」
「あなたが考えなしすぎるだけでしょ。なんだかあなたといると不安になってくるわ、、、」
「腕力でカバーしますから安心してください。もう昨日みたいなヘマはしませんよ。」
「、、、本当かしら」
ポーン
突然音が鳴って、エレベーターが止まった。モニターを見るが、まだ地上には到達していない。
「? 一体なんで、、、」
2人が不思議に思っていると、開閉を知らせる機械アナウンスと共に扉が開いた。すると、
ガッ
「うわっ!?」
突如入ってきた手がレイスの胸ぐらを鷲掴みにし、彼はそのままエレベーターから引きずりおろされた。
「レイスッ!! キャアッ!」
レイスと連動してフレイヤの体も引っ張られ、2人は廊下に叩きつけられた。
「イテテ、、、」
「もう、、、なんなのよ、、、」
レイスは廊下に放り出された直後、背後から鋭い殺気を感じた。
「ッッ!!フレイヤさんっ!危ないっ!」
隣にいたフレイヤを即座に抱えて反射的に右転がると、つい先程自分達がいた場所に斧が振り下ろされた。
ズンッ!バキバキバキッ!
斧は容易く地面にめり込み、それだけでなく、衝撃によって斧が振り下ろされた場所を中心に廊下の至るところに巨大なヒビが入る。
「ヒ、ヒェェ、、、ッ」
レイスの腕の中で怯えるフレイヤとは対称的に、レイスは敵を冷静に見据えていた。
「なるほど、、、お前が来たわけか。」
「ガハハッ!女神の方から仕留めてやろうと思ったが、この一撃をよく避けたな!」
斧を振り下ろした2メートルはあろうかという巨体のスキンヘッドの男、アンドリューは豪快に笑う。
「フレイヤさん。立てますか?」
「え、、、?ッッ!!あ、当たり前よ!」
レイスに抱えられていることに気づいたフレイヤは顔を真っ赤にして、彼の腕を振りほどいて立ち上がった。
レイスも膝をはたいて立ち上がり、彼にとって因縁の相手と向かい合う。
「なんてラッキーなんだ、、、いきなりお前をぶっとばすチャンスがめぐってくるとはな。」
「ガハハッ!ラッキーなのはこちらも同じことよ!退屈してたら丁度いい暇潰しができたのだからな!呆気なく死なないでくれよぉ!?」
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