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第19話 視察

翌日の朝、傷の痛みに加え、レイスのことが気になってほとんど眠れなかったグレッグは、あくびをしながら朝食を作っていた。


(結局、彼らはあの後どうしたのだろうか?)


レイスが去る前の口ぶりでは、これから城に突撃するかのようであったが、まさか考えなしにジョナサンや複数の騎士がいる城に突っ込むほど愚かではないだろうと思っていた。


(おとなしくどこかに隠れてくれているといいんだが、、、)


そのように考えながら朝食のワッフルを作っていると、携帯電話から着信音がなった。


(、、、城から?)

「もしもし」

「よぉ。グレッグ。」


電話の主は昨夜グレッグに傷を負わせた張本人であるジョナサンであった。


「ジョナサン、、、さま。」

「クックックッ、元気がないな。怪我がまだ痛むのか?」

「いえ、大丈夫です、、、どのようなご用件でしょう?」

「そんなに緊張すんなよ。俺は今気分がいいんだ。お前に面白いものを見せてやるよ。すぐに城に来な。」


グレッグは嫌な予感がした。用事があってグレッグ自身が城に行くことはあっても、グレッグが城から呼び出しをくらうことなど滅多にない。あるとすれば、先日、騎士の1人であるトムが倒されたときのような、非常事態が起こった場合のみだ。


「、、、かしこまりました。すぐに向かいます。」


行きたくないとは思っても、グレッグにはジョナサンに逆らうという選択肢はない。ジョナサンの機嫌をこれ以上損ねれば、自分が処刑されるどころか、街の人々にも危害が及ぶ。それだけは避けなければならないからだ。

だから、グレッグはこれまで、どれだけ屈辱的でも、仲間と決別してでも、自分が愛した街を守るために、騎士達に媚びへつらってきた。

この時も、グレッグは出来上がったばかりのワッフルに手をつけることなく、いつもの神父の服に着替えると協会を出て一目散に城へと向かっていった。


城の中に入り、玉座の間の扉の前で、グレッグは深呼吸をした。この扉を入る前はいつも緊張する。この扉をくぐったが最後、グレッグはジョナサンの機嫌を損ねないように細心の注意を払い続けなければならない。意を決してグレッグが扉を開けて中に入ると、そこには信じられない光景が広がっていた。

なんと、見慣れた荘厳な玉座の間は、今は見る影もなく、床は激しくひび割れ、壁には至るところに切り裂かれたような傷がある。まるで巨大な魔物に荒らされたように、破壊されていたのだ。そのような状態にも関わらず、ジョナサンは上機嫌で玉座に腰掛け、周りの騎士達も気にしている様子はない。


「な、何があったのですか!」


グレッグは思わず叫んだ。この部屋がこのような状態になったことなど今までなかった。もしや、ジョナサンが癇癪でも起こしたのではないかと思った。


「ん?ああ、部屋は少し汚れてしまっているが、まぁ気にするな。それよりも、昨日はいいことがあったんだ。」

「い、いいことですか?」


グレッグは、ジョナサンがなぜこんなにも機嫌がいいのか、さっぱり分からず、不気味な気分であった。


「実は昨日な、なんと、この城に侵入者があったのだ。」

「し、侵入者!?」

(ま、まさか!)


グレッグは猛烈に嫌な予感がして、嫌な汗が顔をつたった。


「クックックッ。なんとなく察しがついたようだな。その通り!トムをぶっ飛ばした、あのレイスのクソ野郎だよ!」


それを聞いたグレッグは一瞬頭が真っ白になった。


(え、、、マジで、、、?マジであのまま城に突っ込んでいったの、、、?何なの、、、?おバカなの、、、?)


グレッグもさすがに、レイスがそこまで思慮が浅い男だとは思わなかった。


「そ、それで!どうなったのですか!?」


グレッグは大声で、ジョナサンに問いかける。普段ならば、ジョナサンの機嫌を損ねないように、質問する際にも細心の注意を払っているのだが、この時ばかりは、それを気にしている余裕は彼の心にはなかった。


「捕らえたよ。半殺しにしてやって、城の地下の牢屋に放り込んでおいた。ヤツが目を覚ましたら、アンドリューに尋問をさせるつもりだ。」

「と、捕らえた、、、?」

「ああ。何か問題があるか?」

「いえ、、、お見事でございます。」

「ふん。なぁに、トムを倒したからどんなやつかと少し期待していたんだが、正直言って拍子抜けもいいところだったよ。」


グレッグは、口ではジョナサンを祝福したが、気分は底の底まで沈んでしまった。


(そうか、、、やはり無理なものは無理だったのか、、、)


分かっていたはずであった。多少強いくらいではジョナサンという「怪物」に勝てるはずがないと。レイスはグレッグに手も足もでず倒されてしまうことなど、頭の中では理解しているつもりであった。

しかし、昨夜のレイスの自信に満ち溢れた態度を見て、グレッグはほんのわずかに期待してしまった。彼ならばひょっとすると、この街をジョナサンから解放してくれるのではないかと。しかし、その希望が単なる夢物語にすぎないということが、この瞬間はっきりと分かってしまった。


「ともかく、我らに逆らうクズを1匹始末できて、俺は非常に気分がいい。そこでだ、街の視察の件だが、1週間後を予定していたのを繰り上げて、今日の午後行うことにした。すぐに準備に取りかかるように。」

「き、今日ですか!?」

「そうだ。もしかしたら、いいことが立て続けに起こるかもしれないからな。」

「か、かしこまりました、、、。」

(マズイぞ、、、レイスの話ではミア達の暗殺計画は1週間後の視察の時、、、視察が今日になったら計画は完全にぶっ壊れるじゃないか。)


グレッグは内心、レイスがダメでもミア達の暗殺計画がもしかしたら成功するかもしれないと思ったが、それすらもこの段階で破綻してしまった。


(そうか、、、そういうことか、、、結局、、、我々は逃れることなどできないのだな、、、諦めるしかないということか、、、)


グレッグは、この時点で全てを運命だと諦めてしまった。そして、午後までただ黙々と視察の準備を進めていった。



それから時間が過ぎて午後2時、派手な衣装を身にまとったジョナサンと兵士達、そして、グレッグによるミケーアの視察が始まった。視察と言っても、これは特に仕事というわけではない。実際のところは、ジョナサンの自己顕示欲を満たすための巡行に過ぎなかった。しかし、グレッグにとってはある意味、最も注意して行わなければならない仕事であった。なぜなら、この視察で何かジョナサンの気に入らないことが起こってしまうと、たちまち激怒して、その区画を丸ごと破壊してしまう可能性があるからである。幸い、グレッグの管轄の地区では問題は今まで起こらなかったが、別の地区では、ジョナサンが歩いていた道に汚れがあったために、ジョナサンの怒りを買って、その結果地区が消滅してしまうということが起こっていた。

そのため、グレッグは常に、急な視察に備えて、自身の管轄の地区は常に清潔な状態を保つように兵士達に命令していた。


(大丈夫だ、、、落ち着け、、、いつも通りやれば問題ない、、、)


グレッグは自分に言い聞かせる。ほんのわずかなミスで自身も含めて大勢の人が殺されてしまうこの視察の前は、いつも責任感で押し潰されそうになるため、グレッグは何度も何度も自分に言い聞かせることで、心を強く保っているのである。

グレッグは深呼吸をすると、視察に同行する兵士達の集合場所である、城の前の広場に向かっていった。しばらくすると、見るからに上機嫌なジョナサンが、国王を思わせるような豪華な衣装を着て現れた。そして、ジョナサンを運ぶ巨大な神輿に登って叫んだ。


「それでは、行くぞ!皆の衆!」


ジョナサンの号令と共に、視察の列が街に向かって歩きだした。グレッグも、神輿に並んで歩いていく。


この時のグレッグは当然知らなかったが、この視察が、彼の人生の大きな転換点となるのである。

読んでくださりありがとうございます。

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