第2話 偉大なる神の軍団
「神界」とは、この世もあの世も含めたありとあらゆるものの中心地。アルフガンドなどの、人が住む宇宙を数百億個合わせても到底足りないほど、広大かつ高次元な世界。
人間など、この神界に足を踏み入れるどころか、見ることすらも許されない。神界とはそういう世界である。
その神界に、外の世界から侵入者があった。次元の壁を破り神界にやって来たのは、かつて神によってアルフガンドをはじめ、13の世界に転移した転移者たちである。
転移者たちが神界にやって来たことを知った神々は、驚くどころかほくそ笑んだ。神々は、それぞれの世界の中で、不敬にも神のように振る舞う転移者たちに、ずっと目にものを見せてやりたいと思っていたのである。
本来、神にとっては人間など相手にならないどころの話ではない。神が消えろと「思った」だけで、人間など跡形もなく消えてしまう。それほどまでに、神と人間との間にある力の差は大きいのである。
そのため、いくら人界では魔王を倒した英雄ともてはやされていた転移者といえども、ひとたび神が戦えば、生意気な転移者など一瞬にして消し炭にできるはずであった。
それでも、今まで神が手を下さなかったのは、神は原則として、人界に直接的な干渉をしないというルールがあったためである。
このようなルールができた理由は、神が下手に人界に干渉すると、神が持つ強大すぎる力が世界のバランスを崩すか、あるいは、世界そのものを完全に崩壊させてしまうという危険があるためであった。
そのため、これまで神は、転移者たちと対立する抵抗軍に対しては、神の武器を与えたり、神の加護を与えたりするなどの、間接的な支援は行ったものの、遂に直接加勢に行くということをしなかった。
そのせいで、抵抗軍は転移者たちに敗北してしまった。しかし、転移者がわざわざ神界にまで攻めてきてくれたとなると話は別である。神々のホームグラウンドである神界であれば、神は制限されることなく思う存分力を発揮することができる。そうなると、矮小な人間たちごときに神が負けるはずがない。
神界では、既に自分たち神々が戦いに勝利した後であるかのようなムードが流れており、ノコノコとやって来た生意気な転移者どもをどのような恐ろしい手段で粛清してやろうかという話で持ちきりであった。
そして、神々は転移者たちの位置情報を掴むと、すぐさま転移者討伐隊を編成し、意気揚々と出陣した。
「来たな、、、思い上がった人間共め、、、」
討伐隊の指揮官に任命された軍神アレウスは、野獣のごとき獰猛な笑みを浮かべながら、目の前の山の頂上に並んで立つ13人の転移者たちに嘲り笑うような視線を向けた。
「我ら神に逆らうとはなんとも愚かな、、、だがまぁ、、、」
アレウスは振り返って自身が引き連れている討伐隊を見る。
「この軍勢を目の前にして逃げ出さない勇気は素直に褒めてやるとしよう。」
アレウスが率いてきた討伐隊は、豪華な鎧で身を包み、神の加護を与えられた弓や槍を天使が100億人以上。彼らは当然雑兵などではない。一人一人が、アルフガンドの冒険者で例えると、伝説的な「Sランク冒険者」にも匹敵する、アレウスが誇る本物の精鋭たちである。それに加えて、彼らは全員が神の武具で武装しており、さらに強化されている。
そして何より、アレウス自身も凄まじい実力者である。神界において、神の階級は上から「最上位神」、「上位神」、「中位神」、「下位神」の4つに分けられる。そして、下位神ですらも、人間の世界の国1つ容易に滅ぼすことができるほどの力を持っている。さらに、神は階級が1つ違えば、文字通り次元が違うほどの力の差がある。
アレウスは階級としてはで上位神に位置している。上位神ともなれば、宇宙の1つや2つ容易く破壊できるほどの力を持っており、人界に降り立つだけで宇宙を崩壊させかねない。しかも、アレウスの実力は上位神の中でも抜きんでており、「最上位神に最も近い上位神」と、巷では言われていた。
それだけではなく、アレウスの他にも多数の中位神や下位神が、各部隊を指揮していた。
人間13人と戦うにしては、あまりにも過剰な戦力と言わざるを得ない。神々がこれほどの戦力の討伐隊を作ったのは、神々の偉大さをこれでもかと転移者に見せつけて、神に逆らったことを心の底から後悔させてやろうとしたからであった。
「身の程をわきまえるがいい、人間共、、、あらゆる世界を生み出し、支配してきた我らを倒そうなどと、、、」
そう言うと、アレウスはスゥッと息を吸った。
「突撃ィッ!!」
ビリビリとした衝撃波を纏ったアレウスの号令が、軍の端にまで響き渡った。それとほとんど同時に、前衛にいた神や天使たちが雄叫びを上げ、空を飛び、山の上に陣取る転移者たちに一斉に向かっていった。転移者たちからしてみれば、目の前を覆いつくすほどの大軍が自分たちに高速で迫ってくるというのに、彼らは一向に動く気配がない。
(フンッ 恐怖で動くこともできんか、、、)
アレウスは、転移者たちが迫り来る軍勢に圧倒されて完全に萎縮してしまい、動くことすらできなくなってしまったのであろうと推測した。
アレウスはこの時点で勝利を確信した。数秒後には転移者たちは前衛の兵たちによって細切れにされ、戦いは一方的な蹂躙という結果で終わるだろうと。
アレウスは内心酷く落ち込んだ。彼は「軍神」らしいことを全くできない退屈な神界での生活にウンザリしていた。そのため、転移者が神界に攻めてきたと聞いたときは、退屈から解放される、「軍神」としての使命を全うできると心踊ったものだった。しかし、いざ戦場に出向いてみればこのザマである。
(少しは楽しめるかと思ったのにとんだ肩透かしだな、、、所詮は人間か、なんとも儚いものだ。「創造神」様が作ったものの使い道がなくてもて余していたという特殊な恩恵、たしか人間どもは「チートスキル」とか呼んでいるのだったかな?その「チートスキル」とやらがどれ程の強さなのかも少し見てみたかったがな。)
アレウスがそのように思っていると、ようやく転移者側に動きがあった。13人の中で、端に立っていた男が、素早い動きで腰に下げていた剣を鞘から引き抜いた。
(ようやく動き始めたか、、、だが、、、今さら剣を抜いたところでどうすることもできまい、、、)
アレウスが転移者の行動の遅さに呆れていると、剣を抜いた転移者は、剣を横に振る構えをとった。
アレウスの意識はそこで途絶えた。
読んでくださりありがとうございます。
近いうちに、第3話を更新したいと思っています。
誤字脱字がありましたら、コメント欄などで指摘してくださると嬉しいです。
最後に、改めて2話目も読んでくださって本当にありがとうございます。