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第17話 鬼神父の本意

時は数時間前に遡る。

グレッグは、ミケーアの中心にそびえ立つ城の中にいた。かつてはミケーアを治める王族がいたこの城は、王族が全て処刑された今では騎士達の拠点となっている。

そして、玉座に座る人物は当然王ではない。転移者以外の王など存在してはならないからだ。

玉座に座る男、ジョナサンは、目の前で跪くグレッグ神父を、厳しい口調で問い詰めていた。


「さて、グレッグ。我らの同志トムは現在病院で唸っている。それが貴様のせいであると言うことはもはや言うまでもないな?貴様が入門を許可したレイスとかいう小僧によってトムは倒されたのだからな。」

「はい。言い訳のしようもありません。」


グレッグは表面上冷静に答えるが、実際のところは、ジョナサンから放たれるプレッシャーによって今にも押し潰されそうになっていた。ジョナサンも当然それに気づいており、少しずつプレッシャーを強めて、楽しげにグレッグの反応を見ていた。また、グレッグの周りに立つ、ジョナサンの部下の騎士達も、そんなグレッグをニヤニヤしながら見ている。ジョナサンは玉座から立ち上がると、グレッグの前に移動する。


「俺が貴様を呼んだのは、責任追及だけのためではない。実は妙なことが起こったのだ。」

「妙なことですか、、、?」

「意識を取り戻したトムに聞いたのだが、どうやらトムはレイスに倒されて以来「チートスキル」が使えなくなっているらしい。」

「ッッッ!!?」

「分かるか?つまりだ、レイスは「チートスキルを封じる」能力を持っている可能性がある。貴様はしばらくレイスと共に行動していたんだろ?奴から何か聞いていないか?」

「いいえ。私は何も聞いておりません。」


レイスにチートスキルを封じる力があるかもしれないということなど、グレッグにとっては本当に初耳だった。

この世界において、チートスキルを封じる力など、存在そのものが宇宙の支配者である転移者への反逆であると言っても良い。そのような力を持っていたとして、自分だったら絶対に他人には明かしたりしないであろうとグレッグは思った。


「そうか、、、その様子では本当に知らないようだな。」


その時、ヒュンとジョナサンの側から何かが飛び出し、それがグレッグの肩を切り裂いた。


「グアッ!! クゥゥッ、、、!」


激痛に襲われ、肩から大量に出血する。グレッグは痛みを噛み殺して、倒れてのたうち回りたくなるのを我慢して、血をボタボタと床に垂らしながらも、跪く姿勢を崩さない。


「本来なら死刑にしてやるところだが、転移者様への忠誠心を考慮して、これくらいで済ませてやる。下がって良し。」

「は、はい、、、お、お慈悲に、、、感謝、、、いたします、、、」


グレッグは立ち上がると、騎士達の嘲笑の視線を浴びながら、血だらけになった体を引きずって、玉座の間を後にした。



城を出たグレッグは、真っ直ぐ自分の家でもある教会に向かっていった。肩の傷を治すために病院に行ったりはしない。なぜなら、彼は自分が街の人達に蛇蝎の如く嫌われていることを当然知っているからである。病院で治療を受けようなどとすれば、その隙をついて誰かが自分を殺しに来るだろうと予測していた。


(大丈夫だ、、、応急処置くらいなら、、、俺の回復魔法でなんとかなる、、、その後で包帯を巻いて安静にしていれば問題ない。)


グレッグは自分に言い聞かせながら歩みを進める。そして、普段の倍以上の時間をかけて、教会にたどり着いた。


「ハァ、、、ハァ、、、」

「し、神父様!大丈夫ですか!?」


教会に入ると、グレッグの怪我に気づいたシスターが慌てて駆け寄る。


「だ、大丈夫です、、、心配しないでください、、、」

「す、すぐに治療を、、、」

「問題ありません!治療程度なら私だけでできます、、、ハァ、、、ハァ、、、わ、私は自室で休みます、、、入ってこないように、、、」

「は、はい、、、」


明らかに大丈夫ではなかったが、グレッグの頑なな様子を見て、説得は無駄だと思い、シスターはおとなしく引き下がった。


2階の自室にたどり着いたグレッグは、そのままベッドに倒れてしまいたくなるのを堪えて、服を脱ぎ、肩に回復魔法をかけて、包帯を巻いた。

応急処置を終えたグレッグはベッドに座って、今日起こったことを頭の中で振り返る。グレッグの脳裏に深く刻み込まれた、レイスという旅人。彼は、自身に真っ向から反抗し、自身の顔面に強烈なパンチを食らわしてきた。グレッグは彼を見ていると、かつて親友だった2人を思い出す。特に、正義感が強く、無鉄砲なところは、ミアによく似ていた。


「それにしても、、、彼には本当にそんな力が、、、?」


ジョナサンの推測によると、レイスはチートスキルを無力化する力を持っているということであった。しかし、グレッグにはにわかに信じられなかった。


「もしも、そんな力が実在しているとしたら、、、これはとんでもないことだ、、、明日からは騎士達が死に物狂いで彼を探すだろう、、、そして待っているのは拷問と処刑、、、彼は存在を抹消されて終わりだ、、、だが、、、ひょっとすると彼なら、、、」


グレッグが考え込んでいると、、、


「お邪魔しますよー。」


突然自室の窓が開いたかと思うと、レイスが部屋に入ってきた。


「ーーーーッッッ!!!???」


グレッグは声にならない叫び声をあげる。怪我の痛さのせいで幻覚を見たのかと思ったが、残念ながらそれは幻ではなく、現実であった。


「数時間ぶりだな。グレッグ。」

「ちょっ!?あなた何を!?」


「神父様!大丈夫ですか!?すごい音が聞こえてきましたよ!?」


異変を感じたシスターがグレッグの部屋の扉をドンドンと叩く。


「えっ!?あ、ああ!はい!大丈夫です!タンスのかどに小指をぶつけただけです。」

「本当に大丈夫ですか!?」

「問題ありません!ご心配なく!おやすみなさい!」

「入りますよ!!」


シスターはグレッグの制止を聞かず、扉を開けて部屋に入る。部屋は何の変哲もない。


「ほ、ほら、、、何もないでしょう?」

「、、、そのようですね。申し訳ありませんでした神父様。おやすみなさい。」

「はい。おやすみなさい」


シスターは頭を下げると、グレッグの部屋から出ていった。シスターの足音が遠ざかっていくのを確認すると、タンスからレイスが出てきた。


「あ、焦った~。」

「、、、何をしに来たんですか。」

「いや、ちょっとな。あんたと話がしたかったんだ。」

「私はあなたに話などありません。」

「そう言うなよ。あんたは騎士に連絡する気もないようだしな。」

「、、、、、、」


レイスはそのままグレッグの隣に座ってきた。


「話ってのはなんなんですか?」


グレッグはイライラを隠そうともせず、レイスに問いかける。


「実は、ついさっきミアさんとアバンさんに会ったんだ。」

「あの2人に?」

「ああ。2人はあんたが紹介してくれたカフェの地下に秘密基地を作ってて、ジョナサンってやつを倒す計画を練っていた。」

「ま、まさか!?そんなことが、、、」

「その様子じゃ知らなかったのか。」


グレッグは息を飲む。レイスの口から語られたのはあまりに荒唐無稽な話だ。しかし、ミケーアに来て間もないレイスが、ミア、アバン、そして、街の支配者ジョナサンの名前を知っている事実から、その話がまるっきりデタラメだとは思えなかった。


「そ、それが事実だとして、、、あなたはなぜそれを私に教えたのですか、、、あなたのやっていることは裏切り行為ではないですか!」


グレッグは言葉にわずかな怒りをにじませながら問い詰める。幼馴染みが今まさに裏切られていることに対して、思うところがあるのだろう。


「裏切るつもりはないさ。利害は一致しているからな。ただ、彼らの計画で、承諾しかねることがあったから、そのことをあんたに話しに来たんだ。」

「それは一体、、、」

「来週、ジョナサンが兵を連れて視察をするんだろ?そこでミアさんとアバンさん、そして2人の仲間達が一斉に襲いかかってジョナサンを討ち取る計画をたてている。それで、、、ここからが問題なんだが。」


レイスは真剣な表情でグレッグの顔を見る。


「ジョナサンと一緒にあんたも殺すつもりらしい。」


そのことを聞いたグレッグは、わずかに表情が変わったが、思ったよりも驚きはなかった。


「そう、、、ですか、、、まぁ、、、フフッ、あれだけ人々に恐れられているのだから当然ですね。」


グレッグは自虐気味に乾いた笑い声をあげる。


「、、、トムの監視用の虫はもうあんたには取り付いてないよ。だから、少なくとも今はあんたは本心を話せる。」

「、、、?」


レイスはそう前置きすると、言葉を続ける。


「なぁ、、、教えてくれないか?あんた本当は転移者の信者じゃないんじゃないのか?」

「な、何を!」


レイスの口から予想外の言葉が出てきて、グレッグは分かりやすく狼狽えた。


「カフェの時に、なんか違和感があったんだよ。あんたが子供を叩こうとした時、あんたからは他の狂信者みたいな狂気や悪意を感じなかった。」


レイスは「病院」での胸くその悪い日々を思い返す。


「俺、昔は色々あってさ。「そういうの」には結構敏感なんだ。」

「、、、、、、」


グレッグは驚愕しつつも、反論するでもなく、レイスの話を黙って聞いている。


「ここからは完全に俺の予想なんだけど、あんたが転移者の熱心な信者を演じたり、権力を得たりしてたのは、この街を騎士達から守りたかったからなんじゃないか?

つまり、あんたは転移者への忠誠を認められて街の区画の統治権を得る。そうすると、騎士達は少なくとも積極的にはあんたが支配する区画には口を出さなくなる。つまり、「転移者の手下の手が及ばない場所」ができる。」

「、、、、、、」

「しかし、当然あんたも街も監視はされるだろう。そして、転移者の意にそぐわないことがあったら、騎士達は容赦なく粛清に来る。かつてジョナサンが引き起こしたような大虐殺だ。あんたはそれを防ぐために、人々を暴力で支配する「転移者に絶対の忠誠を誓う恐怖の支配者」を演じた。そうすれば、騎士達もわざわざあんたの区画を滅ぼそうとは思わないはずだからな。違うか?」

「、、、、、、」


グレッグは何も喋らなかったが、しばらくするとその重い口を開いた。


「私には、、、ああするしかなかったんです、、、っ!」


グレッグは両手で顔をおさえて大粒の涙を流す。


「、、、辛かっただろうな。たった1人で、皆に恨まれながら、街を守ってたんだから。」

「私は、、、ジョナサン達が街に来たばかりの頃、奴が街の区画を殲滅したのを見たんです。その時気づいてしまったんです。「力で彼らに勝つことはできない」と。ミアやアバンは現実が見えていない。アレは人がどうこうできるものじゃないんですよ。」


ジョナサンの圧倒的な力を思いだし、グレッグの体が無意識に震える。


「無力な私にできることはただ1つ。街の権力者になることでした。そうすれば、少なくとも私の手が届く範囲は守ることができます。そのためならば、私はどれだけ恨まれてもよかった、、、」

「、、、、、、」

「言い訳にしかなりませんが、私は人々を傷つけるとき、何度も何度も心の中で懺悔をしました。罪悪感でおかしくなりそうでした。でも!耐えるしかなかったんです!この街を奴らから守るためには!」


レイスは、グレッグを心底立派だと思った。彼は、彼ができる限界の方法で、ずっと孤独にこの街を守ろうとしてきたのだ。たとえ、幼馴染みに見捨てられても。

レイスはグレッグの肩にポンと手を置いた。


「少しだけ待ってなグレッグ。あんたの苦しみは、俺が今日で終わらせる。」

「な、何をするつもりなのですか!?」

「俺が城に乗り込んでジョナサンを倒す!」

「む、無茶です!さっきも言ったでしょう!ジョナサンは人間がどうこうできる存在じゃない!あなたはたまたまトムを撃退できたそうですが、ジョナサンは次元が違います!殺されてしまいますよ!」


止めるグレッグにレイスははっきりと言い放つ。


「転移者を全員倒す。そのために今日まで生きてきたんだ。ジョナサンごときにビビってちゃいられないよ。」


グレッグは、レイスの言葉を理解できなかった。夢と言うには、あまりにも実現不可能なものだったからだ。


(転移者を全員倒す、、、?あの神を超えた存在を、、、?バカな、、、)


しかし、レイスが単にホラを吹いているだけではないということは、彼の目から感じとれた。さらに、グレッグはジョナサンが予想していた「チートスキルを封じる力」のことを思い出す。


(もしかしたら、、、彼なら、、、)

「し、しかし!やはり危険です!」


一瞬彼の心に期待の感情が芽生えそうになるが、すぐさま振り払い、レイスを制止する。


「今なんとかしないと、1週間後には幼馴染み2人が死んでしまうんだぞ!?」

「ッッ!」


レイスの言葉により、グレッグは何も言い返せなくなった。


「大丈夫だよグレッグ。俺は死なないさ。「チートスキル」とは違うけど、俺にも頼りになる人から与えられた力があるんだ。」


レイスは窓から出ていこうとする。その時、


「、、、気休めにしか聞こえないかもしれないけど言わせてくれ。あんたは間違いなくこの街の「ヒーロー」だよ。」


それだけ言い残すと、レイスは窓から飛び降りた。


「あっ!ちょっと!」


グレッグは窓から身を乗り出すが、レイスは高速で走っていき、あっという間に見えなくなった。


「な、なんて速さ、、、」


グレッグはレイスの足の速さに圧倒された。


(それにしても、、、彼が言っていた「頼りになる人」ってのは誰だ、、、?)

「まさか、、、ずっと彼に取り憑いている「幽霊のような女の人」のことか、、、?」

読んでくださりありがとうございます。

「街のため、人々の命のためなら非常になる」という信念を持ったグレッグ神父は私が特に力を入れて作ったキャラクターの1人です。

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