第16話 反逆者の集い
「フゥッ、、、」
「や、やったわね!レイス!」
トムを倒し、一息ついたレイスに、フレイヤが話しかける。
「えぇ、何とかなりました。フレイヤさんのおかげです。」
実際、勝利の決定打となったのはフレイヤの攻撃であった。レイスがフレイヤに礼を述べると、
「フフンッ!そうでしょっ!感謝しなさい!」
フレイヤは鼻を長くして胸を張った。
「そ、そうだ!早くアイツにトドメをささないと!」
「トドメですか?でももう倒しましたし、、、」
「チートスキルを持った者は一人も生かしておいてはだめよ!生きている限り何をしでかすか、、、」
フレイヤは倒れているトムの方を見た。すると、ある違和感を感じた。
(え?ちょ、ちょっと待って、、、)
神であるフレイヤは、相手がチートスキルを持っているのかが分かる。トムを初めて見たときも、彼がチートスキルを持っているということは分かった。しかし、今の地面に倒れている彼からは、それが全く感じられなかった。
(チートスキルが、、、無くなってる?)
チートスキルが本人から消滅するなど本来はありえない。しかし、そのありえないことが現に目の前で起きていた。
(まさか、、、この子、、、)
フレイヤが驚愕の目でレイスを見る。
「どうしましたか?フレイヤさん。」
「えっとね、、、レイス、、、私の推測だけど、、、」
「そこの者、少し話せるか?」
フレイヤが話をしようとした時、突然彼らの背後から声がした。レイスは慌てて振り返り、構える。
「待ってくれ!驚かせて悪かった!私は敵じゃない!」
レイス達に声をかけたのは、二十歳くらいの女性だった。彼女は、青く長い髪をなびかせ、美しい鎧に身を包み、腰には細長い剣を差している。そして何より、彼女はおとぎ話のお姫様のような整った顔立ちをしていて、長い間人とあまり接してこなかったレイスでも一目で絶世の美女と分かるほどであった。
「敵じゃ、、、ないだって、、、?」
レイスは警戒を解くことなく問いかける。
「ああそうだ。私はミア。この街のSランク冒険者をしている。折り入って貴方に頼みがあるんだ。怪しいと思うかもしれないが、どうか着いてきてほしい。チートスキル持ちの騎士を倒すほどの力を持った貴方の力が必要なんだ。」
ミアの目からは悪意を感じなかった。レイスが一応フレイヤの方を見ると、彼女もコクリと頷いた。
「分かりました。案内してください。」
「ありがとう!急ごう!ここにいたら兵士の増援が来るかもしれない。」
こうして、2人は足早にその場を後にした。しばらくすると、一軒のカフェの前にたどり着いた。
「ここは、、、」
レイスはそのカフェに見覚えがあった。そこは、1時間ほど前に、グレッグとレイスが仲違いしたカフェであった。
「入ってくれ。」
ミアは扉を開けると、レイスを招き入れた。
厨房に入ると、ミアが棚の1つを動かした。すると、棚の後ろから、地下へと続く階段が現れた。
「カフェにこんなものが、、、」
「まさに「盲点」というヤツだ。毎日大勢の人が来るこの場所に秘密基地があるなんで誰も思わんだろう。」
ミアは、階段を下りながら、困惑した顔で着いてくるレイスに説明をする。
「この階段はいつからあるんですか?」
「3年前だ。店主の許可をもらって、私と私のパーティーの仲間、そして、町の人達で協力して騎士達にばれないように少しずつ、2年かけて作っていったんだ。」
しばらく歩くと、階段が終わって扉の前に着いた。
「ようこそ。ここが、ミケーアの最後の砦だ。」
ミアが扉を開けると、そこには広い部屋があった。壁には巨大なモニターが設置され、部屋の真ん中には長方形の机が置かれた、会議室とでも言うべき場所。机に並べられた椅子には、議長席と思われる一番端の椅子を除いて、全ての席に人が座っていた。
(服装的に冒険者か?それにしても、全員かなり強いな。)
レイスは、彼らが皆かなりの実力者であるということを察した。
「みんな、待たせたな。」
「ミア、彼は誰だ?」
椅子に座っている人達のうちの1人がミアに聞く。
「彼はレイス。彼にはこれから、私達の仲間になってもらいたいと思っている。」
「え?そうだったんですか?」
レイスにとっては完全に初耳である。しかし、ミアは混乱するレイスをほったらかしにして、仲間に説明を続ける。
「彼の強さは私が保証する。彼はきっと我々の大きな助けとなってくれるはずだ。」
「そんなどこぞの馬の骨ともしれないヤツを仲間に入れるのか?」
戦士と思われる、重厚な鎧を着た屈強な男が、ミアに聞いた。
「大丈夫だアバン。彼はついさっき「チートスキル」を持った騎士の1人を倒した。」
その言葉を聞いた人々が一斉にレイスを見てざわつき始めた。皆の視線を受けて、レイスの隣で浮いているフレイヤは胸を張って鼻を高くしている。
「私はこの目で見たんだ。彼は「たった1人」であのトムを撃破した。」
「あの、、、すみません。話を遮って申し訳ないですが、ここが何の集まりなのかを詳しく教えてほしいです。」
レイスは手を上げて、ずっと疑問に思っていたことをミアに聞いた。
「ん?ああ!すまない!まだきちんと説明してなかったな!私達は、このミケーアを支配する「転移者の手下ども」を倒し、この街を解放するために立ち上がった戦士だ!」
ミアはモニターの前に移動すると、バッと両手を広げる。
「つまりレジスタンス?」
「そう!知っての通り、この街は転移者の手下の騎士達に支配されている。その首魁が、この男だ。」
ミアの言葉と同時に、モニターに、顔に大きな傷がある、短い金髪の獰猛そうな男の顔が写し出される。
「奴の名はジョナサン。奴は元々この街のSランク冒険者だった。しかし、奴は転移者に忠誠を誓い、チートスキルを与えられた。転移者によって王家が廃された今、このジョナサンが総督として騎士達を指揮し、この街を支配しているのだ。
奴は冷酷な男で、自身に少しでも逆らう者には決して容赦はしない。今まで奴に何人も殺された。ここからかなり離れた場所だが、奴を誹謗するポスターが作られた地区は、その地区ごと奴の手によって滅ぼされ、住人は奴隷にされるか殺されたらしい。」
ミアの言葉に続けて、先ほどミアに意見した男が、レイスに語り出す。
「我々の目的は、この男を倒すこと。しかし、チートスキルとかいう訳の分からない強力な力を持ったこの男と、考えなしに戦うのはあまりにも危険だ。だから我々は、この基地を拠点として、少しずつ同志を増やしてきたのだ。来るべき決戦に備えて。」
「その通り!私達には1人でも多くの仲間が必要なんだ!レイス。どうか私達に協力してほしい。」
ミアは再びレイスの近くに移動すると、彼に頭を下げた。
「、、、」
レイスは考え込む。利害は一致している。レイスの目的の1つはこの街の支配者を倒すことである。しかし、
(確かに彼らは強そうだが、チートスキル持ちと戦えるかと言われると、、、)
このまま彼らがチートスキル持ちの騎士と戦うと、死んでしまうような気がしてならなかった。
「すっすまないっ!いきなりこんなことを言ってしまって。今すぐじゃなくてもいいんだ。だが、できれば1週間以内に決めてほしい。」
「1週間後にもしかして何かあるんですか?」
「そこからは俺が説明しよう。同志にも情報をしっかりと共有したいしな。」
そう言うとアバンは立ち上がり、モニターの前に移動した。
「諸君。知っての通りだが、全てが始まったのは10年以上前に転移者がこのアルフガンドに召喚された時だ。奴らは神から与えられた力を振るい、魔王軍を打ち倒した。それはいい。だが増長した奴らは世界を我が物にせんと攻撃を仕掛けてきた。奴らのせいで知人や家族が被害を被った者もいるだろう。」
その言葉を聞いて、何人かの冒険者が悔しそうにうつむいた。
「そして、さらに許しがたいのは、転移者に忠誠を誓った愚か者達だ。奴らは圧倒的な力を持った転移者達の庇護下に入り、力を与えられたことで思い上がり、増長し、長きに渡って人々を苦しめてきた。奴らを断じて許すことはできない!」
周りからそうだそうだという声が上がる。
「1週間後!ジョナサンは騎士を引き連れて、街を視察する。この期を逃す理由はない!決戦はこの広場だ。ここで我らは一斉に攻撃を仕掛け、憎きジョナサンの首をとる!そして!」
モニターのスライドが襲撃場所を示した地図からさらに切り替わり、ある男の写真が写し出される。レイスには、その男に見覚えがあった。
「転移者の犬!下僕!堕落して悪魔に魂を売り渡した聖職者、グレッグ神父を処刑する!」
その言葉と共に、ウォーッという完成形が部屋に響き渡る。
(グ、グレッグ神父!?)
レイスは面食らった。嫌われているとは思っていたが、まさか処刑対象とは思わなかったからである。
「知っているだろうが、グレッグは俺とミアの幼馴染み。かつては共に最強の冒険者になろうと誓った仲であった。」
レイスの知らない情報が入ってきた。
(へぇ、、、この人達が幼馴染みか、、、)
レイスがミアの顔を見ると、彼女はうつむいて複雑そうな顔をしている。
「だが!それも昔の話!転移者の犬に成り下がり民衆を苦しめる奴はもはや友にあらず!はっきり言う!奴は忌むべき敵だ!1週間後!ジョナサンとグレッグを打ち倒し、我らは街を取り戻すのだ!!」
アバンが拳を天井にあげると、拍手喝采が巻き起こった。しかし、レイスは賛同しきれなかった。
「、、、」
(グレッグを処刑する、、、か)
アバンの演説が終わってしばらくすると、解散する流れとなり、部屋にいるのはアバンとミア、そしてレイスの3人だけとなった。
「どうだレイス?協力してくれるか?」
「まぁ、、、少し考えさせてください。」
レイスはすぐに協力するか否か決めることはできなかった。
「あの、、、2人に聞きたいのですが、グレッグ神父とは幼馴染みなんですか?」
そう聞くと、ミアは暗い表情になり、ゆっくりと語り始めた。
「そうだ。アイツは私達と同い年なんだが頼りになるヤツで、兄のようだった。子供の頃のアイツは今と違って情熱に溢れていて、世界を救う勇者になりたいという夢をよく聞かされていたよ。」
「、、、」
アバンはミアの言葉を神妙な顔をして聞いている。
「私とアバンも、グレッグの話を聞いているうちに世界を救う冒険者になりたいと思うようになって、大きくなったらグレッグをリーダーにしたパーティーを結成して魔王軍に立ち向かおうと約束した。けど、、、」
「アイツには無かったんだ。戦いの才能が。」
ミアに続いてアバンが語り始めた。
「アイツはどれだけ修行しても肉弾戦は苦手で、剣の腕もからっきし、おまけに魔法も、初級の回復魔法しか使えなかった。
結局アイツは冒険者の夢を諦めて、父親の職であった聖職者になるための学校に入り、幸運にも戦闘に活かせる魔法を身に付けることができた俺とミアは冒険者養成学校に入った。こうして、俺達の道は分かれたんだ。丁度その頃だったかな。転移者のニュースが聞こえるようになったのは。、、、それから3年ほど経って、俺達が15歳になったとき、奴等が、転移者の手下達が来たんだ。」
アバンの声に怒りが滲む。
「奴等は、街を支配下に置き、転移者を崇めることを強制し始めた。それに逆らった者達は問答無用で処刑されたよ。奴らは「自分達に都合のいいものしか存在しない世界」を本気で作ろうとしているんだ。
、、、だが、俺達にとって最も許せなかったのは、騎士達が来て以来、グレッグが豹変してしまったことだった。」
今度はミアが震える声でそれに続く。
「アイツはいつの頃からか、転移者の狂信者になってしまっていたんだ。少しでも転移者に反抗的な者を、アイツは決して許しはしない。カフェでのアイツを見ただろう?」
レイスは、カフェで、グレッグが子供に鞭を振り下ろそうとしていたときのことを思い出す。
「私達は耐えられないんだ。おかしくなってしまったグレッグを見るのが。あんなに優しかったグレッグが人々に平気で暴力を振るうようになってしまったことが。
最初は私達も止めようとしたんだ。だがグレッグは聞きはしない。おまけにアイツは転移者への忠誠が認められて、権力を得て下手にアイツを攻撃すれば、私達だけでなく人々にも危害が及ぶような存在になってしまった。」
「1週間後にヤツを処刑するのも、俺達からのグレッグへのせめてもの慈悲だ。ジョナサンだけを倒したとしても、民衆はグレッグを決して許しはしない。死よりも恐ろしい目にあわされるだろう。ならばいっそ、一思いに殺してやるのが、グレッグのためになるはずだ。」
「、、、、、、」
重苦しい空気の中、レイスは2人の話を神妙な表情で聞いていた。きっと、この2人は今も、グレッグのことを本気で大切な友人だと思っているのだろう。変貌した彼をこれまで何とかしようとしてきたが、どうにもならず、友人として殺すことに決めたのであろうということが、彼らの表情から読み取れた。
しばらくして、レイスは秘密基地を出た。そして、夜の街を歩く。
「レイス、、、これからどうするの?」
「はい、、、ちょっと行ってみようと思っています。」
「どこに?」
フレイヤが聞いたとき丁度深夜を知らせる鐘が鳴り響いた。レイスは鐘が鳴った方向を指差して、フレイヤの疑問に答える。
「教会です。」
読んでくださりありがとうございます。




