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第15話 虫使いの騎士(後編)

「ホラホラホラァッ!!」

「うおおおおっ!!」


レイスはトムの命令で迫り来る虫達に次々とパンチを当てていく。小さな虫が高速で、しかも1度に何百匹も迫ってくるとなると、普通ならばその攻撃を防ぐなど不可能に近い。

しかし、神と融合したレイスは、その超常的な身体能力や反射神経を駆使して、紙一重で虫達の攻撃を躱しながら、攻撃を当てていった。


「クソッ。討伐指定されてるような害虫ばかりとはいえ、操られてるだけの虫を殺しまくるのは気分が良くないな。」


レイスは苦々しい顔をして吐き捨てた。それとは対称的に、トムはレイスの戦いぶりを楽しそうに眺めている。


「おもしれぇ。確かに少しはできるようだな。兵士どもが相手にならねぇはずだぜ、、、そうか!そういうことか!」


トムは何かに納得した。


「お前だな?森でイーバーンを殺したのは。」

「っ!?なぜそれを!?」


イーバーンとレイスが戦ったのは森のど真ん中。周りに人がいた気配もなかった。にも関わらず、イーバーンが倒されていたことをトムが知っていたことにレイスは驚いた。そのレイスに、トムは説明を始める。


「テイマーは従えた動物を操ることができるのは知ってるな?熟練のテイマーはそこから1つ発展して、操った動物の視界を共有することができるんだ。虫の視界を共有して森を監視してたらよォ、ブッ殺されてるイーバーンを見つけてよォ、あの時はさすがに驚いたぜ。」


それを聞いたレイスは、ある可能性を思いついた。


「もしかして、俺達が全く兵士達を撒くことができなかったのは、、、」

「その通りだ。俺が虫の視界から常にお前らの動きを見てたからだよ。」

「一体いつから?」

「お前がグレッグのやつを殴ったときだよ。グレッグには常に俺の虫を張り付けてあってな。お前が店から逃げたのと同時にグレッグから離れてお前をずっと追ってたんだ。」

「なるほど、あの時からずっとか。逃げても逃げても見つかるわけだ。」


レイスは謎が解けて納得する。


「さて。おしゃべりはおしまいだ。お前の処刑を続けさせてもらうぜっ!!」


トムの言葉と共に、再び大量の虫がレイスに迫り来る。しかし、レイスはまたしても拳で虫を的確に叩き落としていく。打ち漏らした何匹かが、レイスの体に当たるものの、いずれも軽傷であり、レイスに決定的なダメージは与えられない。


「クソッ!想像以上だな、、、」


虫達の数がやや心許なくなってきたトムは、虫の突撃を停止した。


「なんだ?もう終わりなのか?」

「ヒヒヒ。んなわけねぇだろ。さっきから見てたが、どうやらテメェは素手で戦うことしかできねぇみたいだな。」

「、、、だったらなんだ。」

「簡単だ。それなら殴ることができないようにすればいいんだよ。」


そう言うと、トムの周りに、数百匹の赤黒い蜂が集まってきた。


「コイツらは「パンク・ビー」。コイツらは「女王」への忠誠がめちゃくちゃ高いんだよ。いざって時は女王と巣を守るために敵に特攻して、自爆するんだ。」


トムはパチンと指を鳴らした。その瞬間、蜂達のうち1匹が彼から離れた場所まで飛んでいき、そこで轟音を立てて爆発した。小さな蜂とは思えないほど大きな爆発で、地面がえぐれてしまっている。


「この通り、1匹でも威力はなかなかのもんだ。さっきも言ったように、これは「いざって時」のやつだが、テイマーの俺には関係ない。俺はコイツらを好きに爆発させることができる。テメェの拳がコイツらに触れた瞬間、連鎖してとてつもない大爆発を引き起こすぜ!!」


トムは後ろに移動して、レイスから距離をとった。


「さぁ、派手に死んでくれよ。突撃!!」


トムの号令と共に、蜂達が一斉にレイスに向かう。


「、、、、、、」


レイスはしばらく考えていたが、何かを思いついたようで、ずっと背負っていたリュックサックを漁り始めた。


(、、、?何をするつもりなんだ?)


レイスがリュックサックから取り出したもの、それは、


「ハァッ!?ゴミ袋!?」


レイスが手に持っていたのは、45リットルのゴミ袋であった。レイスはゴミ袋の口を広げた状態で構えると、


「フンッ!」


袋に空気を入れる要領で思い切り振った。すると、ブンッという、空気を切り裂いたような音と共に、蜂の隊列の1部が消滅した。レイスの一振で、数十匹のパンク・ビーがゴミ袋に吸い込まれたのだ。


「な、何っ!?」

「フンフンフンッ!!」


呆気にとられるトムをよそに、レイスは超高速でゴミ袋を振っていき、蜂達を次々と飲み込んでいく。あまりのスピードで、袋の中の蜂達は袋から脱出することができない。

そうして、わずか数十秒で、レイスは全ての蜂をゴミ袋の中に入れ、入り口を結んで完全に無力化した。袋の中では、数百匹の蜂達が困ったようにブンブンと狭い袋の中を飛んでいる。


「バ、バカな、、、そんな無茶苦茶な、、、」


トムは驚愕に目を見開くが、レイスはまだ止まらない。彼は、結んだ袋の入り口を掴むと、ハンマー投げの選手のようにグルグルと回り始めた。


「ッッ!!ま、まずい!!」


何かを察したトムは、残った虫を全て自身の目の前に集めて、巨大な虫の壁を作る。


「フゥンッッ!!」


それとほとんど同時に、レイスはトムに向かって思い切り袋を投げた。数百匹の蜂を取り込んだことで多少重くなった袋は、レイスのパワーによって勢い良くトムに向かっていき、虫の壁に当たる。その瞬間、


ドォォンッッ!!


袋は凄まじい大爆発を巻き起こし、虫の壁は呆気なく壊れ、爆風によってトムは吹き飛ばされた。


「ゲホッ、、、ハァ、、、ハァ、、、」


仰向けで倒れるトムを、レイスはただ見ている。彼は、追撃をすることなく、トムが立ち上がるのを待っていた。


「ク、、、クソッ、、、」


やがて、トムは痛みに耐え、なんとか立ち上がった。


「どうする。降参するか?」


レイスは淡々とトムに問う。


「へっ、、、降参、、、?バカめ。俺にはまだ、、、切り札があるんだよ!!」


トムの叫びと同時に、天から超巨大な何かが降ってきた。レイスが確認するとそれは、体高数十メートルにもなるカマキリであった。


「コレ、、、「昆虫」にカテゴライズしてもいいヤツなのか、、、?」


カマキリの姿を見たレイスは思わず疑問を口にした。


「どうだ!コイツは「エンペラーマンティス」!俺が使役する最強の昆虫!コイツの刃は山をも容易く切り裂き!体はダイヤよりも固い!チートスキル「魔力増幅」によって魔力が元の百倍になった俺だから使役できる「化物」だ!」


勝ち誇ったトムは怒涛の説明を始める。


「グオオオオッ!」


エンペラーマンティスが虫とは思えない叫びをあげて、レイスに迫り、巨大な手の刃を振り下ろす。

レイスは間一髪で躱すが、刃が当たった地面には長さ数十メートルに及ぶ斬撃の跡ができていた。


「危ない、、、っ」


エンペラーマンティスの攻撃はそれだけでは終わらず、すぐさま手を持ち上げると、レイスはめがけて次々と斬撃を繰り出す。


「クッ、、、でっかいのに速い!」

「無駄無駄ァッ。お前はコイツには絶対に勝てねぇ。コイツは俺の「インセクトテイマー」としての誇りそのものだ!」


レイスとエンペラーマンティスの攻防を見て、トムは昔のことを思い出していた。


トムはかつて冒険者であり、街でも有名なAランクパーティーに所属していた。しかし、その冒険者生活は華々しいものではなかった。自惚れるわけではないが、自分は弱くはないと思っていた。複数の虫を操って、偵察や撹乱などを行い、パーティーに貢献してきた確かな自負があった。


しかし、現実は非常であった。称賛を受けるパーティーメンバーとは対称的に、「虫を使役する」という彼の特性は、常日頃から周りから気味悪がられていた。しまいには、お情けで入れてもらっていたパーティーから、「虫なんかを操るヤツがパーティーにいたら評判が悪くなる」という理由で、パーティーを追放されてしまった。

それだけならばまだしも、最もトムが許せなかったのは、メンバーがトムの働きを理解せず、「虫を操ることしかできないのだから弱い」と彼に同時に告げたことであった。


パーティーを追放された後、トムは「インセクトテイマー」であるというだけでどこにも組んでくれる冒険者はおらず、ソロで細々と冒険者を続けていた。彼の心は憎しみで満たされていた。自身の誇りである「インセクトテイマー」を馬鹿にする全てが憎かった。

転移者が各地に現れて、頭角を表すのはちょうどそんな時であった。


転移者には、他者に力を与える能力があるという噂があった。なぜなら、転移者のみならず、その仲間達も、凄まじい力を持っていたからである。この話を覚えていたため、転移者達がアルフガンドの征服に乗り出した時、トムはすぐさま転移者の支配下に入った。それにより、トムはチートスキル「魔力増幅」を与えられた。


かつてないほどの力がみなぎるのを感じたトムは、復讐を決意した。そして、自身が活動していた街の近辺で最強の魔物と呼ばれていたSランクモンスターのエンペラーマンティスを使役すると、それを使い、自身を馬鹿にしてきた街と、元パーティーメンバー達を襲った。Aランクのパーティーに過ぎなかった彼らでは、エンペラーマンティスに太刀打ちできず、なす術もなく蹂躙された。彼らの恐怖に歪んだ顔は、今でも、トムの脳裏に焼き付いている。自身に追放を言い渡したリーダー以外のメンバーはそのまま虫達の餌にし、リーダーだけは半殺しにとどめ、奴隷として扱い、その後は自身が赴任したミケーアの警備隊長としてこき使ってきたが、つい先程ムカデに殺させ、彼の元パーティーメンバーは全滅した。


「そうだ、、、もう誰にも、「インセクトテイマー」を馬鹿にさせはしねぇ!馬鹿にする奴らは全員ブッ殺す!!俺はエンペラーマンティスを使って最強を証明してみせる!!俺の誇りにかけて!!」


トムの叫びと共にエンペラーマンティスの攻撃はさらに激しくなるが、レイスは冷静にそれを避ける。


「誇り?チートスキルに頼ってる時点で、誇りも何もあったもんじゃないだろ。」

「黙れ!お前に何が分かる!!」

「お前にどんな過去があるのかとかは確かに俺は知らない。だが、今のお前が間違っているのは分かる。」


レイスはエンペラーマンティスに向き合うと構えた。


「お前の歪んだ考えを叩き壊す!」

「ほざけ!!」


エンペラーマンティスがレイスに向かって突進する。今度はレイスは避けない。彼はエンペラーマンティスを前にして、右手の拳を強く握りしめる。そして、振り下ろされる刃に合わせるように、思い切り拳を振り上げた。


バキィンッ


エンペラーマンティスの刃とレイスの拳が触れあった瞬間、刃は木っ端微塵になり、レイスはエンペラーマンティスの顔の目の前まで跳んだ。そして、


「ドリャアッ!」


エンペラーマンティスの顔に渾身の一撃を叩き込んだ。それにより、エンペラーマンティスの頭部は跡形もなく吹き飛び、ズゥンという音を立てて倒れた。


「そ、そんな、、、俺の、、、切り札が、、、」


トムはその様子を呆然と見つめていた。

自身の周りにはもう1匹も虫はいない。勝負は完全についた。


ザッ

「ヒイッ!」


レイスが近づくと、トムは怯えた声を出して後ずさる。そして、


「ご、ごめんなさい!!許してください!!」


トムは地面に頭を擦り付けて謝り始めた。


「あなた様に逆らった僕が馬鹿でした!本当にすみませんでした!何でもします!靴でも足の裏でも何でも舐めます!奴隷になります!だからっ、命だけは助けてください!」


顔中を涙と鼻水でグジュグジュにしながら土下座を続けるトム。彼は必死に謝りながら、これまでずっとレイスを尾行していた監視用の昆虫の視界を共有し、ジッと「レイスの背中」を見ていた。


(落ち着けトム、、、そのままだ、、、そのままサイコーに無様で情けない男を演じ続けろ、、、っ)


この期に及んでも、トムには降参する気など全くなかった。彼はら虫の目を通して、レイスの警戒心が少しずつ薄まっていくのを感じ取っていた。


(エンペラーマンティスを倒したコイツは、俺にはもう手札がなくなったと勝ち誇っているはずだ、、、だが、まだだ、、、まだ早い、、、もっとヤツが警戒心を解くまで、、、)


「奇襲」とは、小さな虫を操る「インセクトテイマー」の最大の攻撃手段である。相手を油断させて倒すという基本戦術を、最もうまく使えるのがインセクトテイマーであった。「騙し討ちなどみっともない」と、パーティーにいた頃は散々なじられていたが、トムの方こそ、戦いの美学等を語る彼らを心の中では馬鹿馬鹿しいと断じていた。


「何がなんでも、どんな手を使っても勝つ」


それが、トムのモットーであった。


(真の切り札ってのは最後まで隠しておくもんだ、、、警戒心を解いた瞬間、コイツの首を貫いてやる。)


トムは、土下座を続けながら頭の中で冷静に攻撃するタイミングをうかがう。そしてついに、レイスは構えを解いて、腕をダランと下げた。


(今だっ!!)


トムはその隙を見逃さなかった。虫は高速でレイスの首に迫る。


(勝った!)


トムは勝利を確信した。その時だった。


「ファイヤボール!!」


レイスの背中から現れたフレイヤが、火の初級魔法を放った。黒こげになった虫は、ポトンと地面に落ちる。


「ば、馬鹿な!!」

「監視用の虫の存在をばらしたのは失敗だったな。それに何より、お前がすんなり降参するヤツとは思えなかった。」

「ク、、、ク、、、クソォォォッッ!」


トムは腰の短剣を取り出すと、レイスに飛びかかった。テイマーにとっては本人の直接攻撃は本当に最後の手段である。


「フンッ!」


当然そのような攻撃が通るはずもなく、レイスは拳で短剣を粉砕すると、


「ウオリャァァッッッ!!」


トムの体に壮絶なラッシュを加えた。


「グゲェェッッ!!?」


全身をボコボコに殴られたレイスは、吹き飛ばされて地面に倒れ、戦闘不能になった。


「グ、、、ガ、、、」

「お前の考えややり方に賛同はできないが、その勝利への執念は、大したものだと思うぜ。」


レイスVSトム

勝者:レイス

読んでくださりありがとうございます。

近いうちに続きを投稿します。

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