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第14話 虫使いの騎士(前編)

レイスは街の中を走っていた。


(道に人が1人もいない、、、!)


レイスは走っている時に、1人も街の住人を見かけなかった。どうやら、全員警報が鳴った瞬間、建物の中に引きこもってしまったようだった。


「レイス!後ろからたくさんの人が追いかけてくるわ!」


フレイヤに言われて、レイスは背後から大勢の人が走っている音が聞こえてくることに気づいた。


(路地裏に!)


レイスは追手を撒くために、路地裏に入って右へ左へと走っていく。




そんな彼らの行動をずっと見ている存在があった。


「フッフッフッ、、、無駄なことだ、、、お前達は俺の「目」からは決して逃れられない。」


レイスもフレイヤも、自分達を監視する謎の存在に、この時はまだ気づいていなかった。





「ハァッ ハァッ ハァッ」


レイスは懸命に路地裏を走っているが、


「いたぞ!あそこだ!」


撒いたと思った次の瞬間には発見されてしまう。単純な足の速さはレイスのほうが圧倒的に上なのにも関わらず、彼らはだんだんと追い詰められていく。


「クソッ!!いくら相手の数が多いからって、何でこんなすぐに見つかるんだ!!」

「確かに、これはちょっと変ね。」


「見つけたぞ!止まれ!」


そうこうしているうちに、またしても警備兵に見つかり、逃げなければならなくなるので、落ち着いて考える暇もない。


「レイス。どうするの?」

「、、、」


フレイヤの問いに、レイスはしばらく考えた後に答える。


「この調子では永遠に撒くことはできない!こうなったら戦うしかありません!」


レイスはそう言うと、路地裏から飛び出し、真ん中に噴水が設置されている街の広場まで走ると、そこで止まった。


「ハァ、、、ハァ、、、」


レイスが息を整えている間に、数十人の警備兵が彼らを取り囲んだ。


「追い詰めたぞ!大人しく降伏しろ!」


警備兵の隊長と思われる男が叫んだと同時に、兵士達が一斉に剣を抜く。


「、、、申し訳ないけど、簡単に降伏することはできないな。」


レイスがそう言うと、彼の両腕を赤いガントレットが覆い、彼からオーラが放たれる。彼のプレッシャーに、隊長と兵士達は思わず後退りする。


「え、ええい!第一小隊、かかれ!」


自身に渇を入れた隊長が号令をかけると、10人ほどの兵士達が一斉にレイスに襲いかかる。


「食らえ!」


兵士の1人がレイスに剣を振り下ろした、しかし、


「ドラァッ!!」


レイスはその剣に拳を当てた。すると、バギンッという音と共に剣の刀身が折れ、クルクルと円を描きながら宙を舞い、やがて刀身が落ちて地面に刺さった。


「なっ!?グエッ!?」


兵士が驚愕に目を見開いた時には、レイスの拳が彼の腹部に直撃し、彼はそのまま吹き飛んで意識を失った。


「な、なんだと!?」


兵士達ににわかに動揺が走る。しかし、驚いていたのは兵士達だけではなかった。


「、、、思ったよりも固い。」

「そうね。やっぱり彼らの装備は、転移者とその手下が作った特別製ね。」


レイス達は、兵士の剣や鎧が想像以上の固さだったことに驚いていた。


「ひ、怯むな!囲って一斉にかかれ!」


隊長の声と共に、残りの9人の兵士が息を合わせて一斉にレイスに切りかかる。そして、9本の剣がレイスに当たる直前、


「ドララララァッッ!!」


レイスは残像が残るほどのスピードで全方向にラッシュを放ち、9本の剣が宙を舞う。それだけに止まらず、レイスの拳は兵士にも当たり、彼らは吹き飛ばされて動かなくなった。


「なっ、、、なっ、、、」


その光景を見て、隊長は完全に動揺してしまい、部下に指示を出すこともできなくなってしまった。

レイスはその隙を見逃さなかった。レイスは高速で走り出すと、動揺している兵士達を次々と殴り飛ばしていき、ついにはその場に立っているのは隊長とレイスだけになった。


「くっ、、、こんな、、、バカな、、、」


隊長の足は目に見えて震えている。自分ではこの男に勝つことはできないということを思い知ってしまったのだ。


「俺はあんたを殺すつもりはないし、他の兵士達も死んではいない。どうかこの場は見逃してはくれないか?」

「、、、」


レイスの言葉に、隊長は少し悩む顔をしたが、やがて彼は剣を抜いて構えた。


「私も武人だ。敵前逃亡などできん。」

「、、、そうか。」


隊長の言葉を聞いたレイスも、拳を握りしめて構えた。


「行くぞ。」


覚悟を決めた隊長はレイスに向かって走り出した。その瞬間、


ズボッ!

「グフッ!?」


隊長の腹を突き破って、巨大なムカデが現れた。そして、ズルズルと彼の腹から抜け出てきて、やがて地面に降り立つと、カサカサと動いて暗闇に消えていった。


「な、なにっ!?」


レイス達は突然のことに混乱する。


「ゴ、ゴホッ、、、」


ムカデに背中から貫かれた隊長は、口から大量の血を吐きながら、地面に崩れ落ちた。


「お、おい!大丈夫か!?」


レイスはすぐさま隊長に駆け寄って彼の体をさするが、反応はない。手首をさわっても、脈はうっていなかった。


「そ、そんな、、、」


目の前で突然人が死んでしまい、レイスが呆気にとられていると、


「なんだよ、全く役に立たなかったじゃねぇかぁ。傷1つつけることすらできねぇなんてよぉ。」


その言葉と共に、ムカデが去った暗闇から、多数の虫を従えた1人の男が歩いてきた。彼は痩せ形で背の高い30代半ばの男で、整った顔には、顔全体の半分ほどの大きさのムカデのタトゥーが入っている。

彼の周りにいる虫は、種類も大きさも様々、あまりにも数が多く、凄まじい音量の羽音と合わさって、見ているだけで身体中が痒くなる。


(こいつ、明らかにさっきまでの兵士達とは違うな。)


先程まで戦っていた兵士達とは別次元のプレッシャーを放つ男を前にして、レイスは警戒を強める。警戒しているのはレイスだけではなかった。


「レイス、、、この感じ、、、多分チートスキル持ちよ。」

「その通りだぜ。お嬢ちゃん。」


男がフレイヤの言葉に反応した。彼にはフレイヤの姿が見えているようだった。


「まずは自己紹介からかな?俺の名前はトム。転移者サマに力を与えられた騎士だ。」

「お前、「テイマー」か?」

「ヒヒヒ。当たりだ。俺は「インセクトテイマー」さ。」



テイマーとは、「テイム」という魔法を扱う者の総称である。テイムとは、動物を洗脳して戦わせる魔法で、斥候や敵の撹乱などに有用である。テイムできる動物の強さや数は、本人の魔力量に依存し、大量の魔力を持った者ならば、大型動物を数十匹率いることも可能となる。汎用性の高い一方で、テイマーは自身の魔力の大半を動物を操ることに使うため、本体の戦闘能力は低くなりがちという欠点があった。


また、テイマーにも種類があり、四足歩行の動物全般や鳥類を操れるのが「ビーストテイマー」あるいは単に「テイマー」と呼ばれる存在であり、もう一方は昆虫を操ることを得意とする、「インセクトテイマー」である。



多数の虫を従えたトムは紛れもなくインセクトテイマーである。しかし、その虫の数は、インセクトテイマーの常識からは大きく逸脱していた。


「確かテイムできる生き物の上限はどれだけ多くても百に満たないくらいのはずだ。」

「ヒヒヒ。俺をその辺の雑魚テイマーと一緒にするんじゃあねーよ。」


トムは自身の力を見せつけるように、周りに大量の虫達を集める。


「ヒヒヒ。見ろよ。これが「俺の力」だ。お前らなんぞ一瞬で骨すら残らず食いつくしてやる。行けっ!」


トムの命令で数百もの虫がレイス達の周りを飛び回る。それはさながら虫の竜巻のようであり、その竜巻に触れようものならば一瞬で骨にされてしまうであろう。


「レ、レイス、、、ッ!どうするのっ!?」


フレイヤは怯えた声でレイスに問いかける。

それに対して、レイスは冷静であった。


「大丈夫です。問題ありません。」


レイスはそう言うと全身に力を込め、


「ドリャアッ!!」


全身を纏う赤いオーラを一気に放出した。それにより虫の竜巻は呆気なく消滅し、レイスの周りに虫の死骸がボトボトと落ちる。


「ホゥ、、、」


トムはそれを見て驚いたような、感心したような声を出す。


「「俺の力」、、、だと?転移者にすがって手に入れただけじゃないか。まぁ、俺も対して変わらんが。」


レイスはトムを指差して宣言する。


「お前の方こそ、簡単に俺を倒せるなんて思わないことだな。虫ケラ野郎。」

読んでくださりありがとうございます。

近いうちに後編も投稿します。

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