第1話 救世主降臨
「アルフガンド」
それは、1つの広大な世界。そこには、人間、獣人、エルフ、ドワーフ、オーガなど多様な種族の人達が暮らしていた。広大すぎるために場所によって種族も文化も全く異なるが、1つだけ共通していることがあった。それは、人に害をなす存在、「魔族」たちが住む、アルフガンドの端にある「魔界」、そして、世界の各地に突然現れる「魔物」によって脅かされていたという点である。
人々は魔物や魔族に対抗するために、長い時間をかけて戦力の拡大を行ってきた。
ある場所では「剣と魔法」の技術が発展し、魔物を倒し人々を守る戦士たちが所属する組織「冒険者ギルド」や、冒険者を育成する「冒険者養成学校」が作られた。
ある場所では神に仕える聖職者のみが扱える「聖魔法」が発展し、「教皇」を頂点とした教会が絶大な権力を握った。
また、ある場所では「機械技術」が発展し、強力な銃火器を発明、さらに、武器の技術が発達していく過程で、移動手段である「自動車」や、遠くの人と連絡する手段である「電話」など、人々が日常的に使用する便利な発明品も生み出された。
このように、各国は独自のやり方で発展していき、やがて、長い時間をかけて各国の文化は少しずつ融合していき、「剣と魔法と科学」の世界となった。
そんなアルフガンドは、今まさに滅亡の危機に瀕していた。
ある時、魔界に1体の協力な魔族が現れた。彼は自らを「魔王」と称し、圧倒的な力とカリスマ性で各地を支配していた数千にものぼる有力な魔族たちをねじ伏せ、分裂状態にあった魔界をたった10年で完全に統一し、巨大な帝国を築き上げた。
魔王の野望はそれにとどまること無く、多数の魔族や魔物で構成された魔王軍を率いて人界に大規模な攻撃を仕掛けた。
人界と魔界は長らく敵対状態にあり、その勢力は拮抗していた。しかし、侵攻してきた魔王軍に対して人界はなす術もなかった。そもそも魔族は基本的に人よりも強い種族である。にも関わらず勢力が拮抗していたのは、これまでの魔界が分裂状態にあったからであった。
魔王軍は魔王という圧倒的な存在によって厳しく統制されており、おまけに魔王軍の大幹部となった、かつて魔界の各地を支配していた魔族の力は凄まじく、人類は連戦連敗の状態で戦争が進んだ。
人界側もただ黙って見ていたわけではない。ありとあらゆる魔法を習得した「大魔導士」、1度の攻撃で数百の敵を射殺した伝説を持つエルフ族最強の弓使い「弓聖」、過去に竜を単独で殺したオーガ族最強の剣士「剣神」、そして、冒険者ギルドが誇る「Sランク冒険者」など、「国家戦力クラス」の力を持った者達が、魔王軍に果敢に挑んだ。しかし、彼らでも魔王軍を退けることはできず次々と戦死していった。
人界は日に日にその領土を減らしていった。そして、魔王軍の侵攻が始まってから15年が経った頃には、元々大小合わせて3000以上あった国は半分ほどにまで減少していた。
人々は絶望した。このまま自分達は魔王軍に蹂躙されるのを待つだけなのかと。彼らにできたのは、神に祈ることのみであった。彼らは求めた。自分達を魔王軍から解放してくれる救世主を。
その祈りは神に通じた。神々はこの世界を魔王軍から救うために、別世界から1人の人間を転移させ、アルフガンドに解き放った。彼の名はコウガ。彼は神々から、魔王軍と戦うための、魔法とは異なった特殊な力、「チートスキル」を授かっていた。
強力な「チートスキル」を手にしたコウガは、瞬く間に、アルフガンド各地で実力をつけていき、強大な力を身につけた彼は人々の羨望の対象となる。そして、力を増した彼は、魔王軍との戦いに身を投じる。
彼の力は圧倒的であった。彼は迫り来る魔族の大軍を一瞬にして殲滅し、人界の英雄を多数戦死させた魔王軍の幹部たちも圧倒した。そして、魔王軍との戦いが始まってからわずか半年ほどで、魔王は討ち取られ、魔界を完全に屈服せしめたのである。
「勇者さま万歳!勇者さま万歳!」
魔界から帰ってきた英雄を、民衆は拍手喝采で迎え入れた。
人々は彼の力と功績に熱狂した。そして、人々は彼に対してこれ以上ないほどの名誉と地位を与えた。
果たして、この喝采がいけなかったのか、それとも、彼が元から持っていた性質だったのか、今となっては知りようがない。もてはやされて増長に増長を重ねたコウガは、やがて「世界が自分に統治されるのは当然だ」と感じるようになった。また、コウガ本人だけならまだしも、彼の仲間たちや、彼の力に熱狂した民衆の多くも、それと似たような考えを持ってしまった。
彼は、自分たちが世界の支配者になるという野心を隠そうともしなくなり、世界中の人々に対して、自分たちに服従することを迫った。
コウガの力に魅入られていた民衆は転移者の支配を歓迎したが、増長する転移者を苦々しく思い、真っ向から反抗した者も大勢いた。そのような人達に対しては、コウガは力を用いて対応した。魔王軍を粉砕したコウガに勝てるはずもなく、反抗勢力は次々と葬られていった。
転移者が送られたのは、アルフガンドだけではなかった。アルフガンドにコウガが送られたのとほぼ同時に、そことは異なる次元、アルフガンドを除く12の世界に、12人の転移者が送られて、彼らはそれぞれの世界を救うべく、各々戦いに身を投じた。そして、そのすべての世界で、転移者は絶対的な権力者となっていたのだった。
そのような転移者たちの振る舞いを苦々しく見ている存在があった。彼らをアルフガンドに転移させた神々である。
アルフガンドをはじめとした13もの世界を救ったはいいものの、あたかも自分たちが神であるかのように振る舞う転移者たちを、神々は放置しておかなかった、神々は各世界の、転移者の支配を認めない抵抗軍に対し、神の加護や神の武器を与えるなどの支援を行い、転移者たちと戦わせた。
しかし、神々の加護を受けてもなお、抵抗軍は転移者たちに勝つことができなかった。それどころか、神々によって強化された抵抗軍は転移者にとって良い「経験値」となり、転移者をさらに強化してしまうという結果に終わった。
抵抗軍は倒され、世界のほぼ全てを転移者が掌握したが、転移者の野心はそれで留まることはなかった。彼らが次に目を付けたのは、、、
神々が住まう世界、「神界」であった。
読んでくださってありがとうございます。こちらは先日投稿した異世界逆襲物語の連載版となります。
連載するにあたって世界観などを少し変えました。近いうちに、神々と転移者の戦いの様子を書いた第2話を投稿するので、そちらも読んでいただくと嬉しいです。
また、誤字脱字などもあるかと思いますので、その際はコメント等で指摘してくださると嬉しいです。
最後に、この作品を読んでくださって本当にありがとうございます。