危険の香り
魔力操作訓練が始まってから数ヶ月が経った。
ガロが言っていたようにこの世界のほとんどの人間が幼少期に感覚で習得したものを理屈で習得するのは難しく、魔力出力は数ヶ月前とほとんど変わらない。
(この世界に来てから初めてのどん詰まりだ。)
思えばこの世界に来てからはあまり変わりのない生活を送っていたせいで、挫折らしい挫折をしていない。そのせいでたかだか数ヶ月間停滞しているだけで随分焦るようになってしまった。
(まあ、これもいい経験だ)
俺はそう思い今日もガロと一緒に魔力操作の訓練に励む。
俺がここ最近している訓練は、薄い木の板を魔力を纏った拳で軽く小突くだけだ。
ただ一枚割ったら次はもう一枚重ねたものを小突く。毎日やることで少しづつ割る量を増やすというものだ。ちなみに一般的にこの訓練をしている3歳児くらいならどんなに遅くても1ヶ月で5枚重ねたものを割るらしい。ちなみに俺は今3枚しか割れていない。最終的に10枚重ねた物を割ることができたら、次は魔力の制御訓練をするらしい。恐らくだいぶ先の話になりそうだ。
しかし、最近一つ別のことで進歩がみられた。それは魔物との実戦だ。
毎日毎日森に通いつめ、実戦を続けた結果ついにゴブリンの右腕を切断することに成功した。
それだけかよと思われてしまうかもしれないが、ガロのアドバイスを忠実に守った結果なのだ。
「殺すのが怖いのならば腕や足など命に関わらないところなら切れるのではないかい?」
とガロに言われてやってみたところ成功したのだ。
ベクトのように一撃で首を落として楽にしてやれない分どちらかといえば俺のほうが問題があるかもしれないが、とにかく進歩は進歩だ。ちなみに俺がゴブリンをちょっと切ったぐらいで喜んでいる間に、ベクトはさらに強くなっていた。先日俺が森で3匹のゴブリンに奇襲をかけられ、ガロの援護が間に合わず、俺の目の前にゴブリンがとびかかってきた時、ベクトが目にも止まらぬ勢いで抜刀し、3匹共の首を一太刀で落とした。
正直あれはかっこよかった。
なにせ俺なんてびっくりして腰を抜かしてしりもちまでついていたのだ。
その様にはさすがのガロも驚いていた。
そんなことを考えながら木の板を小突いていると
「レント訓練の調子はどうだ?」
いきなりギルに声をかけられた。
「相変わらず三枚重ねた物以上が割れませんよ父さん」
この時間はまだ仕事中じゃなかったか?と思いながら俺は返答する
「そうか、俺達もお前の魔力操作をしてやれずすまなかったな。俺も最近までてっきり自分で学習したんだと思ってたぜ」
申し訳なさそうな顔をしながらギルが続けた。
「そうだった。すまんガロはいるか?少し話したいことがあってな」
そういうと少し離れたところでベクトの訓練を見ていたガロが出てきた。
「どうしたんだギル、何かあったか?」
少し険しそうな顔をしながら木の根元に腰かけてガロが聞いた。
「ああ、実はな村の外の平原で魔物の群れを見たって言ってるやつが居てな、少し調査に行きたいんだが、一緒についてきてくれないか?」
「ああもちろんだよなら今から行ってしまおうか、調査なら早いほうがいい」
そういうとガロは立ち上がった。そしてガロが振り返ってこういう。
「レント今日はここで自主訓練だ。危険だから森には二人だけで行ってはダメだよ。ベクトにも伝えておいてくれ。」
そう言い残すと二人は歩き始めた。
俺は少し離れたベクトのところに行き、彼女の話しかけた。
「ベクト今日は午後の魔物との戦闘はなしだ。一日自主訓練だってさ」
「なんで?お父さんさっきまで居たじゃん」
「ガロさんがうちの父さんと平原に調査に出かけたんだ。魔物が出たらしい」
俺がそう伝えると彼女は剣をおいて少し考え始めた。そしてニヤッと笑いこういった。なんだか嫌な予感がする
「なら二人だけで森まで行って魔物と戦おうよ」
嫌な予感が的中し、ベクトはそう言った。
「いや、危ないから二人だけで森には行くなってガロさんに言われてるから駄目だよ」
「えーいいじゃん!この前だって私がレントのこと助けてあげられたしちょっとだけなら大丈夫だよ!!」
前から思っていたがベクトは少し我儘な子に育ってしまっている。
先日のゴブリンとの戦闘で自信がついたのか最近ではそこに天狗な部分も乗っかっている。
そんなベクトの言うことを最近はそれなりに聞いてしまっていたせいかよくない方向に彼女が向かってしまっている。しかし、これだけは聞くわけにはいかない。前世でよくわからない儚い死に方をしたので今世では十分に人生を楽しみたいのだ。死の危険が強い場所にはあまり行きたくない。
「ガロさんがダメって言ってたんだからダメだよベクト。もし行くとしても俺は行かないよ」
俺はそう言い放った。そうすれば彼女も諦めが付くだろう。
さすがの彼女といえども一人であの森まで行くのは無理だろう。
しかし
「わかったわ!私だけで行くもん。一人で強くなってレントともっと差をつけてあげる!」
ベクトはそう叫ぶと剣を掴んで走り始めた。
さすがにヤバいと思い俺が声をかける。
「わかったよベクトただ森の入り口までだけだ」
そう言うとベクトが振り返り笑顔になりこういった。
「レントならそういうと思ってた~」
俺はこうやって彼女の我儘を少しづつ聞かされてしまうんだろうな。
だが本当に次はない。森の入り口までだけだ。そう決意して俺も剣を掴んで森まで走り始めた。
リアルが忙しく、また投稿頻度が開いてしまいました。
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