三題噺「パセリ 燭台 掃除夫」
いつも通り屋敷の業務をしていた時、一人の掃除夫から相談を受けた。
「燭台にパセリが隠されていたのですか」
「はい。食堂近くの燭台を掃除していたらその一つから」
そう言って手のひらの上の物体を見る。たしかにそれは紛れもなくパセリだった。
恐らく夕食のときについてきたものだろう、それが燭台に隠されていたと。
マジマジと手のひらの上に乗ったパセリを見ながら考え込んでいたら黙っているのが不安になったのか掃除夫が聞いてきた。
「どなたが隠したか心当たりはございますか?」
「はい、犯人の目星はついています」
「そ、そうなんですか。では一体どなたが……」
使用人は別の食堂を使用しているためパセリが見つかった燭台にわざわざ持っていく意味はない。
そして今日、旦那様と奥方様は御用のため未だお帰りになられていない。なら犯人は一人に絞られる。それは――
「坊っちゃまです」
◆
「坊っちゃま」
部屋の扉をノックして中にいるであろう人物へ呼びかける。少し間があいたあとに動揺したような声色で返事が返ってきた。
「な、なんだじいや。私は今少し忙しいんだ」
「はい、坊っちゃまがいつも頑張っていることはよくわかっております。ですから、ほんの少しだけでいいのでお時間をいただけないでしょうか」
しばらくした後、ゆっくりと扉が開いて部屋の主が顔を出した。
「……入っていいぞ」
「失礼します」
部屋の中に入ると坊ちゃまはベッドの上に座って俯いている。
「そ、それで話っていうのは……」
「坊っちゃま、ご存知でしょうか。実は旦那様は昔人参がお嫌いだったことを」
急に話し始めたことと話の内容、一体どちらに対してかはわからないがとても驚いた様子でこちらを見ている。その様子を確認してからまた話し始めた。
「どうしても食べることができなかった幼い頃の旦那様は夕食に出てきた人参を燭台に隠していたのです」
話を聞いていた坊っちゃまは段々と俯いていった。
「最初の数回はバレずに済んでいたのですが、そう何度も行っているとやはりボロが出てきましていつの日か隠していたことが大旦那様に知られてしまったのです」
それを聞いた坊っちゃまは俯いたまま口を数回閉じては開くを繰り返したあと意を決したように疑問を口にした。
「そ、それで……お祖父様はなんと……」
「それはもう、大変お怒りでございました」
そう言うと坊っちゃまは俯いていた顔を更に俯かせてしまった。
「大旦那様は旦那様を自室にお呼びになったあと幼い頃の旦那様に対してこう仰ったのです」
「次期領主の身でありながら民の作った食べ物を粗末にするとは何事か!」
「その言葉に大変ショックを受けたのでしょうか、それ以来旦那様は食べ物を残すことは御座いませんでした。……貴重なお時間を老いぼれの昔話に付き合わせてしまい申し訳ございません。それでは私はこれで」
そう言って立ち去る私の目には、もう俯いて怒られることに怯える子供はいませんでした。