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ブックマーク二桁! 皆さん本音にありがとうございますm(_ _)m
明日は十三時or十四時頃と零時の二話更新する予定です。
「本当にありがとうございました! でも私、天然じゃないですからね」
満面の笑みで礼を言ったかと思えば直後にジト目。少し前にコンビニで右往左往しながら慌てた顔だった事を考えれば実に表情豊かである。
「ジュースの事は気にしないで下さい、昨日のお礼ですから。それと本物の天然は全員そう言います」
「もうっ、違うって言ってるのに……」
男の人は皆、話を聞いてくれないのかな? お父さん以外よく知らないけど。と、ぶつぶつ言いながらコンビニで買ったオレンジジュースを、ちびちび飲む彼女。
その姿は愛らしく、とても不特定多数の人間に自分の血液を売り捌くイカれた輩には見えない。
「コンビニで帰れないって言ってましたけど何かあったんですか? ジュースではポーション代にとても届か無いでしょうし話くらい聞きますよ」
本音は、ここで多少なりとも仲良くなっておけば俺の生存率も上がるだろうという、打算に塗れた考えである。すると彼女は。
「うっ。私、口に出てました?」
と、言った。まさかの無意識、さすが天然である。
「いま絶っ対に、こいつ天然だって思いましたよね?」
「……ハッハッハ。そんな訳ないでしょう」
そう言いながら内心かなりドキドキしていた。何故バレたんだ? 再びジト目になった彼女を見て、慌てて話を逸らす。
「そ、そんな事より悩みあるなら聞きますよ」
「そんな事って…… まぁ、いいです。私、男性の友人いませんし。今回の事は男性の意見の方が参考になりそつなので聞いて下さい」
そう言ってペコリと頭を下げる彼女。チョロいな。
そう言えばゲームでも一番、攻略が簡単だった気がする。
「また失礼なこと考えてませんか?」
またバレた。おかしい、ゲームでは勘が鋭いなんて事は無かった。これはゲームが現実になった事で生まれたズレなのか? いや、いま考える事ではない。
「そんな事ありませんって。さっ、あっちの公園にあるベンチで座って話しましょう」
そんなこんなで俺は、彼女を公園のベンチへと誘導した。
◆
「それでね、お父さんがね〜」
話を聞き始めてから小一時間、不平不満が出るわ出るわ。家に帰れなかった理由は彼女の父らしいが、それ以外にも彼女の仕事や同級生の愚痴もあり、それらを聞き続けた。
ざっくり説明すると彼女の悩みは三つだ。
一.友達が出来ない。(特に女子からの当たりが辛い)
ニ.自作ポーションの売れ行きがよくない。
三.彼女の父が学園に行くことに反対している。
そして、彼女の話を小一時間も聞くことになったのは、一番目の悩みを解決してしまったからだ。
俺はボッチだ。それも前世から続く筋金入りの。今世は転生したばかりだが、凶悪顔であることを考えるとボッチが続くことは想像に難くない。
だから俺は社交辞令が半分、願望半分で言ってしまったのだ。「俺と友達になりませんか?」と。
彼女はこれを快諾。いまではお互いに敬語をやめて名前で呼び合っている。
まぁ正直、早まった判断をしたと思っている。
元々、俺は原作キャラとは最低限仲良くなるつもりはあったが、友達にまではなるつもりは無かったし、なれるとも思って無かった。さすがチョロインである。
この事で俺の死亡率が上がらなければいいのだが……
「ちょっと! 薊くん聞いてるの?」
しまった。永遠と続く話のループに耐えきれず、違う事を考えていることがバレてしまったようだ。さっき時計を見たら話が始まってから三時間だ。長すぎる。
まぁ、知人は多くても友人のいない彼女には溜め込んだ不満を吐き出せる貴重な機会だったのだろうから、仕方ないか。
「ちゃんと聞いてるぞ。ポーションが売れなくて、親父さんが学園に行くのに反対なんだろ?来紅も大変だな」
「うん。聞いてるならよし」
彼女は思わず見惚れるような満面の笑みで言う。
何が「よし」だ。勿論、話は聞いて無かった。ただ彼女の話はループしてるので、ざっくりとした答えなら言えただけに過ぎない。
とは言え俺もいい加減、このループ地獄から開放されたいので一つ提案してみることにした。せっかく出来た友達を失いたくないので角が立たないように言葉を選んでだが。
「なあ、来紅。もう一度親父さんと話してみたらどうだ?」
「ちょっと、私の話きいてた? お父さん、私どころかお母さんの話も聞いてくれないんだよ!? もう、どうしようないから家出したのに何を話したらいいの!」
来紅が「裏切られた!」と言わんばかりに絶望の表情を向けてくる。安心しろよ来紅。まだ続きがあるから。
「落ち着け、俺も何の勝算も無く言ってる訳じゃない」
そう言って俺は話を続ける。
「来紅も言ってたが親父さんも来紅に危険な目にあって欲しくないだけなんだと俺も思う。なら元冒険者の親父さんに特訓を付けてもらって強くなってから学園に行けばいいんじゃないか?」
「むぅ、それは良いかも。でも大丈夫かなぁ」
よし、もう少しだな。
「大丈夫だって。来紅の話だけでも親父さんが来紅の事を大好きだって分かるし、今回の家出で親父さんも来紅の本気度が伝わっただろ。問題ないさ」
「そうかな?」
「そうだろ。それにポーションだって同じ値段の他の物より効果が高い事を俺は知ってる。いずれ大人気さ」
飲んでないけどな。まぁ、ゲーム知識で知ってるからセーフって事で。(ちなみにポーションが売れにくい理由は本来、緑色のポーションが赤いことと、消費期限が短いせいらしい。)
「うん、そうだよね。ありがとう薊くん」
「いいさ。友達だろ」
俺は友達が出来たら言ってみたかったことを言ってみる。正直、恥ずかしい。照れて赤くなり俯いてしまう。
「薊くん……」
来紅が感激したように目を輝かせてこちらを見る。
良かった、キモいとかは思われなかったようだ。もし、そんな反応をされたら死にたくなってたので助かった。
「その、薊くん」
俺は思わず、身構えてしまう。何だ!? やっぱりキモいって思われてたのか!?
「私達、友達なったでしょ。だからさ、連絡先交換しない?」
その言葉に俺は安心すると同時に感動を覚えた。正直、俺が友達と連絡先の交換なんて一生出来ないと思っていた。これは本当に嬉しい。
「ありがとう。こちらこそお願いするよ」
「ふふっ、よかった。私、友達と連絡先交換なんて初めてだから緊張しちゃったよ」
「俺だってそうだよ」
流石に前世では仕事関係でした事はあったが今世では初めてだ。薊のスマホには祖父母の連絡先しか入って無かったしな。
「私が初めて。何か嬉しいな」
「俺も嬉しいよ」
連絡先の交換を終え、お互いに微笑む。幸せだ、これが友達というものなのか。
「ねえ、薊くん」
「なんだ?来紅」
頼み事だろうか?今の気分なら何でも許せるきがする。
「私、以外に増やしちゃ嫌だよ」
「え?」
はっ? いまなんて? 急に目の光が消えた来紅のセリフに戸惑い思考が停止する。
「バイバイ」
フリーズしている俺を置いて、先程の表情が嘘のように笑顔になった来紅が手を振って去っていった。
「……ちょ、ちょっと待って」
我に戻った俺が声を掛けるも、来紅は行ってしまった。おそらく家に帰ったのだろう。
友達と連絡先、どちらを増やしてはいけないのか。そもそも何で増やしてはいけないのか。俺が来紅の言葉の意味を考えていると俺は気づいてしまう。あのセリフに聞き覚えがあることに。
「確か、来紅ルートに入った直後に聞いたような……」
いや、気の所為だろう。そうに違いない。あいつが恋愛するのは主人公だし、俺の事は友達だと思ってるはずだ。それにセリフは同じでも状況が違う。ゲームがデート後たったのに対し、今回は連絡先を交換しただけ。会話の流れも
「だから大丈夫。大丈夫のはずだ」
都合の悪い事など考えない。自分に大丈夫だと言い聞かせながら俺は家に帰った。
主人公が考えを読まれる理由は主人公の表情が分かりやすいからです。(つまり主人公もチョロい)
ゲームが現実になった事で生まれたズレなどは無関係です。
読んで下さってありがとうございました!