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読んで下さってありがとうございます!
「聞いてた以上に、色々スゴかったね」
「そうだな、一番見たかったダンジョンは解禁までの楽しみに取っとくか」
「一緒にパーティ組もうね」
「おう、約束したもんな」
少し予定を変更して、来紅と時間ギリギリまで学園内の施設を見て回っていた。
ギリギリになったのは時間配分を間違えた訳ではない。俺がそうしようと頼んだのだ。
来紅には言ってないのだが、こんなことを提案したのは割と深刻な理由がある。
「……」
後から突き刺さる視線の主に話し掛ける猶予を与えないためだ。故に俺は、ほぼ来紅と話し続け、歩き続けている。
全ては面倒事と俺の鬱展開を避けるためだ。本当はこんなギリギリまで粘るつもりはなく、視線を感じなくなったら引き上げるつもりだったのだ。
その結果が遅刻スレスレの初登校になってしまったのだが。
まったく、ゲーム通りなら同じクラスなので待っていてくれれば、適当にあしらう方法などいくらでもあったのに。
悪役令嬢と主人公も同じクラスだから気まずかったのだろうか。
「おっ、着いたな」
そうこうしてる間に、教室へ到着する。軽く顔ぶれを見渡せば僅かに違和感を感じるものの、ゲーム通りのメンバーであった。
違和感の正体は、ゲーム時代には描かれてなかったモブキャラの顔があるからだと思われるので、深く気にする必要はないだろう。
「……」
俺達から少し間を空けて入って来たのは『水雲 菫』だ。教室に入った途端、もう一つの人格特有の刺々しい雰囲気が消えたので入れ替わったのだろう。
彼女等は表向き二重人格を隠しており、普段は菫の人格で通している、菫の方は戦闘時やトラブルを除けば出てこないつもりなのだろう。ここはゲーム通りのようだ。
「おーし、欠席者はいないな。感心感心」
ゲーム時代との差異を考えている間に、担任が来たようだ。
このクラスの担任は男のような口調をしているが、エロゲらしく女教師である。入学式の教師がスーツではなく、要所要所に金属を使ったバトルドレスを着ているのは、この学園ならではだろう。
「アタシは、あんたらの担任の鬼塚 冴子だ。これから最低でも一年間よろしく頼む」
この担任は口調に見合った豪快さで座右の銘は『自己責任』指導方針も『自己責任』という、おおよそ教師とは思えない思想を持っている。
生徒への対応としては、一昔前のWeb小説の冒険者学校によくいた実力主義教師のような対応で、生徒間の揉め事も余程のことがない限り動かない。
そのことで、他の教師(特に上司)とぶつかることが多いが、彼女は決して引かず相手が権力か暴力で押し通すしかない。
なお、そんな問題教師である彼女がクラス担任をやってられるのは、彼女が元最高位の冒険者であるからだ。でなければ、さっさとクビになっている。
「恐そうな先生だね」
「確かに、怒らせないようにしよう」
「そうだね」
鬼塚先生が自己紹介後に黒板へ入学式の注意事項を書き始めたので隣の席の来紅と内緒話をする。
来紅の名字は雁野で、俺の名字は綺堂なので男女別の名前の順に振り分けられた現在の席順だと、丁度隣同士なのだ。
まあ、隣と言っても席がくっついてる訳ではなく、それぞれ距離がある程度離れているが。
ゲーム時代に綺堂 薊と来紅が隣の席という描写は特になかったので席を知った時には少し驚いたが、こんな感じで席同士に絶妙な距離間があり、元最高位冒険者が目を光らせているとなれば、いくら悪役と言っても小物の綺堂 薊では手出し出来ず、イベントも発生せず描写の必要がなかったのだと思われる。
「よし、ではこれから体育館に向かう。廊下に名前の順で並べ」
鬼塚先生の指示の直後にチャイムが鳴った。どうやら時間が来たようだ。
入学式そのものは特にイベントはなかった筈なので、気楽に行こう。
読んで下さって、ありがとうございました!
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