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◆綺堂 薊 サイド
イレギュラーな出会いのせいで、|四肢切断監禁ハッピーエンド《過去のトラウマ》を思い出し、ナイーブになるという想定外があったものの、俺達は無事に『国立 ダンジョン学園』へ到着することが出来た。
そして、そんな俺と来紅は今、同じ新入生達の人混みに流されていた。
別に抗えないような勢いではない。その気になれば来紅を背負って流れを逆走できるだけの力の差が、俺と一般生徒の間にはある。
ではなぜ、お互い以外に友達がいないほどコミュ障で、何となく他人に苦手意識のある俺達が人混みに流されているかと言えば、単純にクラス分けの紙が何処に掲示されているか分かりにくかったので周りに案内してもらおうと思ったのだ。
いかに俺がゲーム知識を持ってると言っても、学園の設備配置の詳細を全て記憶している訳ではないので、苦渋の決断でこんな作戦に出たのだ。
なお念の為、来紅にも分かるか聞いたところ「?」といった感じに、キョトンとされた。
こうなると予想はしていたが、やはり来紅にこの質問をするのは間違っていたようだ。
「なんで合格発表はスマホでも見れるのに、クラス発表は見れないんだよ」
前世から思っていたが、ここだけアナログに頼る理由が理解出来なかった。
まあ、決めた相手に聞けば、どうせ個人情報がどうたらとか言うのだろうが、それならクラス発表も合格発表と同じく受験番号で書けばいいものを。
「様式美なんじゃないの?」
来紅が、俺の耳に顔を近づけ普段よりも大きめの声で言う。
浮かれた様子の周囲がつくる喧騒に紛れて、誰にも聞こえないと思っていた独り言に返答があり、少し驚いた。
しかし、言われてみれば確かにそうだなと納得する。特に『病みラビ』はエロゲ世界なので、様式美は大事なのだろう。
「それもそうだな」
そうこうしてる内にクラス分け表を張り出された掲示板にたどり着く。普通の生徒ならば、隣の来紅のように背伸びでもして自分の名前を探すだけで済むのだが、俺はそうもいかない。
我ながら少し忘れそうにもなっていたが、俺は『病みラビ』の悪役なのだ。そして、この状況こそまさに、ゲームのオープニング直後の場面であり、主人公と綺堂薊の間にイベントができるタイミングでもある。
「大丈夫、何もしなければいいだけなんだから」
イベント内容としては、綺堂薊が偶然、肩のぶつかったヒロイン(ランダム)へ罵詈雑言を浴びせた後、「慰謝料として、一晩好きにさせろ」と無茶苦茶な要求をするのだ。
頭がイカれてるとしか言えない流れだが、それは俺が起こさなければいいだけの話だ。ゲームで見たところ、大した衝撃でもなかったはずなので俺に怒る理由はない。
このイベントは、ストーリー上の鬱展開には関わりが薄いが、綺堂薊が周囲から嫌われる第一歩となるイベントでもある。つまりは、俺にとっての鬱展開に関わりが深い。
故に、このイベントの回避は俺にとって絶対に必要なのだ。
さあイベントよ、いつでも来るがいい。
「この無礼者! 私を誰だと心得ますの? そこに直りなさい!」
「この娘とは肩がぶつかっただけですよね。そんなに怒ることないじゃないですか」
あれ、俺のイベント盗られてね?
悪役令嬢やっと登場です!
読んで下さって、ありがとうございました!
下記に別の連載作品のリンクがあるので、読んで下さるとありがたいです!