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読んで下さってありがとうございます!
「ありがとうございましたー」
そんな声に見送られて露店を後にする。結果的に露店巡りは大成功だった。
俺が回った店は『呪われた刀剣専門店』から始まり、『呪われた防具専門店』『呪いのアクセサリー専門店』『呪われた日記専門店』である。
だが呪われた装備は普通の道具が呪われるまでの過程が特殊であり、そんなに量産できる物でもない。
さすがに不審に思い、最後に行った『呪われた日記専門店』で話を聞いてみると、俺が周った場所はダンジョンで発見された遺品が多く売られている区画だったらしい。
ダンジョンで死んだ生物は一定時間経過後ダンジョンに吸収される。見つかる遺品の多くは吸収された彼等の吸収できなかった部分をダンジョンが吐き出すことにより宝箱という形で排出されているのだ。
だが、この宝箱は冒険者の間では評判が悪いらしい。ゲームでは稀にだがレアアイテムが入っていたり、ハズレと言われる部類だとしても持ってて損はない消耗品だったりしたからだ。
それなのに何故かと思い質問すれば、何となく原因を理解した。恐らく、ゲームが現実になった弊害なのだろう。
呪われた道具とは非常に強い負の感情を持って死んだ人間が、極稀に思い入れのある道具へ抱えていた負の感情を送り込むことで完成する。
ゲームでは滅多に起こらなかったソレがキャラクター全員が自我を持った為、呪われた道具の完成条件である『強い負の感情を持った人間の死』を満たしやすくなったのだろう。
極稀にしか起こらない現象でも確率が0でないなら数打てば当たる。冒険者など掃いて捨てるほど存在しているが、そんな彼等の多くは『掃いて捨てるほど存在している』現状から脱却せんとする者だ。
無念だっただろう、悲しかっただろう、悔しかっただろう。むしろ満足のいく死に様となった者など、殆どいないと想像することは容易い。
そんな彼等の一握りが、こうして意志を道具へ託して逝ったのだ。発見者は自分で使わないにしても無碍にはし難い。
だが、呪われた道具はデメリットが大きく使い手を選ぶ存在であるし、無碍にはしないと言っても縁起が悪いというのもある。
故に呪われた道具など買う人間は殆どおらず、どの店もいつの間にか専門店を開けるほど溜まってしまったそうだ。
ちなみに、『呪われた日記専門店』で売っていたのは、殆ど呪われているだけの普通の黒歴史ノートやエロ本だった。そりゃ処分できずに死んだら後悔残るよな。
ほぼゴミみたいな商品ばかりだったが質問に答えてもらった手前、何も買わないというのはし難く比較的有用そうな『呪術師の実験記録』を買った。呪われてて開けないけどな。
「さて、気も済んだし行くか」
他にも少し買ったがここでは試せない上に寄り道のつもりで寄った露店に、あまり時間を掛けるわけにはいかない。
残りの買い物は初心者ショップで終わる、さっさとダンジョンへ行き、道具の検証はその時することにした。
◆
初心者ショップで買い物を終えた俺は、街外れにある廃教会にいた。
理由はゲーム知識通りなら、ここには隠しダンジョンがあるからだ。
このダンジョンは前世で初心者救済措置として追加された場所なのでレベル一の俺でも安心して行けるダンジョンであり、おまけにここでしか手に入らないレアアイテムもあり、俺の強化に必須のアイテムなので必ず入手するつもりである。
「確か女神像を回転させればいいんだよな」
隠しダンジョンというからには普通では見つからないようになっており、ゲームでは主人公達しか知らなかった場所だ。また、主人公達が見つけるイベントだが学園入学後なので問題ない。
「おっ、あったあった」
目的の女神像を見つけた。廃教会らしく像もボロボロだ。まあ、いくらボロボロでも仕掛けが無事ならなんでもいいんだがな。
俺は早速、女神像を掴んで回し始める。我ながら罰当たりな事この上ないと思うが、ここの協会は元々、俺の目的地である隠しダンジョンを隠すために造られたという設定があるので気にしない。
「か、固い……」
女神像がビクともしなかった。
そんな筈はないと回す方向を間違えたかと思い、反対に回すも結果は変わらない。嘘だろ。ゲームじゃ、かなり簡単に回ってたぞ。どんな怪力してたんだよ主人公。
こんなところで計画を台無しにされてなるものかと、像を蹴りを入れたり、落ちてた角材をぶつけてみたりしたが無駄だった。
「これは流石に予想外すぎるだろ」
俺の自身を強化する計画に、このダンジョンの存在は欠かせなかった。時間さえあれば代案もあった、しかし学園入学まで圧倒的に時間が足りない。俺の未来はバッドエンドだ。
そうして膝を抱えて蹲っていると、あることに気付く。
「こいつ、嘲笑ってね?」
女神像の微笑みが、だんだん嘲笑に見えてきたのだ。無論、確実にそんなことは無い。女神像は表情はおろか、何一つ微動だにしてないのだろう。
だが、一度見えてしまえば印象を払拭するのは難しい。車を正面から見たとき、人の顔を連想するようなものだ。
そして今の俺は女神像の微笑みを嘲笑だと思ってしまった。故に俺は怒り狂う、無機物相手に大人気なく。
ふざけるなよ? この神にすら報復を誓った俺を嘲笑するだと?
「絶対に動かしてやる」
理性的に手段を選ぶのは終わりだ。後先なんて考えない、こいつが俺の乗り越えるべき最初のイベントだ。
目を血走らせ、口から泡を吐き、足からミシミシッと不穏な音を立てるほど力を込めて蹴り続ければ、やっと女神像は回転功する。
「か、勝った」
終わってみれば微かな達成感と大きすぎる後悔。一体自分は何をムキになっていたのだろうか、さっきまでの自分の姿が映像に残っていたら恥ずかしくて死ぬ自信がある。
「誰にも言わないようにしよ」
俺は女神像の仕掛けが起動したことにより現れた階段へと、そそくさ向かった。
◆
階段を降りきった後、俺が見たのは薄暗い洞窟だった。だが問題はない。
「『ナイト・ビジョン』」
これは暗闇を見通すための魔法だ。『病みラビ』はRPGなので魔法がある。魔法には様々な属性があり、基本一人につき一つの属性だ。俺の属性は悪役らしい『闇属性』と、ついでに『無属性』である。
「ピギィ」
洞窟の奥から赤黒いスライムが現れた。俺はショップて買った道具を持って近づく。
「うわぁ。ゲームで知ってはいたけどリアルになると、さらにキモいな」
そのスライムには内臓があった。あると言っても胃から腸までで、肺や心臓は無い。顔は目と口だけだ。スライムの体の大半は静脈から出た血のような赤黒い色をしているが若干透ける。そのため内側の内臓がどんな動きをしてるのかが分かってしまうのだ。
「くらえっ! 初心者ショップ特製の『清めの塩・下』!!」
勢いよく投げられた塩はスライムを溶かし、絶命させた。「ピギュ……」ゲームで聞いた死亡時の声を確認した俺は、中途半端に溶け残ったスライムから目を背け違う事を考え始めた。
「やっぱ『ブラッド・スライム』には『清めの塩』だな」
『清めの塩』とは粘液系、死霊系に特攻を持つアイテムで、俺が使った『清めの塩・下』とは下から二番目に強い効果がある。アイテムの効果は低→下→中→上→特の順で強くなる。
そして『ブラッド・スライム』とは、このダンジョン特有のモンスターで粘液と死霊の特性をもつ。(ガッツリ肉体を持っているコイツが何故、死霊特性を持っているかは謎だ)故に『清めの塩』が最適だったのだ。
「よし、ゲームと同じで問題なさそうだし進むか」
それから俺は塩を投げ続けるだけの機械と化した。
もはや作業である、恐れるものは何も無い。フッハハハ。
前にスライムがいれば前に投げ、横にスライムがいれば横に投げ、上にスライムがいれば上に投げ……
あっ。
その後、当たり前に塩とスライムが落ちてくる。無論、俺の顔面に。
「目が、目が、目がぁぁあああっ!!」
痛い、めちゃくちゃ痛い。誰だよ恐れるものは何も無いとかいったやつバカだろ。
それから暫くして回復した俺はスライム狩りを続けた。……上に注意しながらな!
前話であった『国立 ダンジョン学園』とは、その名の通り国が運営する、ダンジョン探索を教育する学園です。
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