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◆綺堂 薊 サイド
全裸にローブという変態的な格好をしているため、無駄にキョロキョロして不審者レベルを上げながら家を目指していると、やっとの思いで到着する。
人生で一番、人目を気にしたかもしれない。
「ここが、あんたの家かい?」
そう、魔女から声が掛かる。
魔女が家まで着いてきているのはダンジョンになった館以外に家を持っていなかったため、館を取り戻すまで俺の家に泊めることになったからだ。
勿論、俺も気楽な一人暮らしを守るために抵抗したが、ダンジョンでの誤解して攻撃を返せと言われれば頷くしかなかった。
「変な実験とかしないで下さいよ」
「あたしの研究に変なのは無いから問題ないね」
「部屋で大人しくしてろって言ってんですよ」
そんな下らない会話をしながら家の扉を開ける。
転生してから、あまり時間が経っていないため我が家という意識は薄いが、それでも何となく懐かしさを覚え心が落ち着いた。
帰らなかったのは数時間程度なのに懐かしさを覚えるのは、ダンジョンにいた時の内容が濃すぎるためだろう。
「あっ、約束は守ってもらいますよ」
「分かってるよ。魔女は契約にうるさいんだ、心配いらないよ」
「では、お願いします」
「でも、あたしは吸血鬼の魔法なんて使えないから、あんまり期待するんじゃないよ?」
そう念押しされる。
約束とは家での俺と魔女の棲み分けと魔法の修行をつけてもらうことである。対価は定期的に俺の血液を渡すことで成立した。
俺は攻撃魔法が苦手であり、前から覚えたいと思っていたし来紅も弟子になったようなので、来紅のついでに魔女に魔法を教えて貰おうと思って頼んだのだ。
魔女には後継者候補の来紅とは扱い差をつけると言われているが、そんなのは問題ない。半分ダメもとで頼んでいたので、ありがたいくらいだ。
そうして、魔女と家に入った。
「ふうん、あそこが薊くんの家か」
俺達を尾行している存在に気づかないまま。
◆雁野 来紅 サイド
露店市場からの帰り道、薊たちと方向が違ったため途中で別れた来紅は帰った振りをして密かに後をつけていた。
元々、薊を露店デートに誘った時から家を調べるつもりだったのだ。
理想としては彼に招かれて家に上がるのがベストだったのだが、途中でダンジョン攻略になったので、そんな話にならず二人を尾行するはめになった。
一応、自分から家を教えてと言おうかとも思ったが「はしたない」と内心で却下した。
そんなことよりも──
「──薊くん、年上好きとかじゃないよね?」
目的を達成し、今度こそ家に向かい始めた来紅はダンジョンでの出来事と、思ったよりもすぐにメリッサとの同居を了承したことを思い不安になった。
仮に今は違うとしても、いずれなってしまうかもしれない。薊が聞けば「そんなわけあるか!」と怒りそうな考えであるが、来紅にとっては大真面目だった。
なんとかして彼の気持ちを自分に向けなければ。
それに、懸念は他にもある。学園への入学が近いことだ。
薊が年上好きでなかった場合、周囲に同年代の魅力的な女の子が現れて好きになるかもしれない。戦闘では彼は前衛で自分は後衛だ、話の合う前衛の女の子と意気投合して、自分に見向きもしなくなってしまうかもしれない。自分が一番の友達なのだから。
これからは、もっと積極的に薊と一緒にいよう。大丈夫、優しい彼のことだ許してくれるはず。それに、メリッサの修行でも一緒にいられるはずなので、一緒にいる理由には不自由しないだろう。
「あっ」
修行のことを考えて、自分の失敗を悟る。
メリッサに会うために、薊に家を教えて欲しいと言えば、尾行をする必要はなかったということだ。
「どうしていつも、失敗ばかりなんだろ」
来紅は自分のドジっぷりに悲しさを覚えた。
これにて、一章完結です。よんで下さった皆様、本当ありがとうございましたヽ(=´▽`=)ノ
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