32
読んで下さってありがとうございます!
◆綺堂 薊 サイド
隠密に、されど迅速に『お菓子な魔女』を抜け出した俺達は、全員似たようなローブを来て実質的なダンジョンの入口である古ぼけた小屋の外へ出ていた。
ダンジョンの化物はダンジョンの外へ出られないため、魔女が出られるか不安に思っていたが杞憂だったようだ。ゲームでは魔女が外に出ることなんて無かったからな。
「おーい君達、いままで何処にいたんだ。早く出なきゃダメじゃないか」
「あっ、すいません」
ダンジョンから出た俺達を最初に見つけたのは警備員さんだった。
スマホで確認した現在の時刻は二十二時。露店商達は引き上げ、落ちてる硬貨を狙った乙食が集まる時間帯である。
俺達が、その一員だと思われた訳ではないだろうが露店市場のルールを守ることが彼の職務であり、この行動は当然のことである。
もしかしたら子供と老人しかいない俺達が乙食から何かされないように声を掛けてくれた可能性すらある。どの道、俺が警備員を恨む理由などない。
ないのだが、今の自分の状況を考えれば不安で落ち着かない。なにせ、下手をすれば俺は警備員どころではなく、警察のお世話になるのだから。
ああ、なんでこんなことに。
そして俺は脱出する少し前の事を思い返す。
◆工房を出た直後の薊 サイド
ブラブラ
何故だか、生き返ってから体が軽い。それに、軽いだけでなく尋常ではない開放感がある。
「「……」」
ブラブラブラ
しかし、一つ解せないのは女性陣が妙な雰囲気になっている。何かあったのだろうか?
「「……」」
ブラブラブラブ──「なあ、小僧」
「な、なんですか?」
魔女が低くドスの利いた声で俺を呼ぶ。恐ろしさのあまり、少し噛んでしまった。というか俺の呼び方は小僧かよ。
しかし、この緊急事態に呼び止めるなんて彼女は何を考えているのだろうか。正気の沙汰とは思えない。いくら、すぐに追手が来る気配がなかったとは言えだ。
そういえば双子の父出現のせいで忘れていたが、再開してから来紅が俺の目を見てくれない。今も隣にいるのに目線が下を向いていた。なぜなのか。
「あんた、それはワザと言ってんのかい?」
「?」
「……あの、師匠。多分、薊くんは気づいてないと思います。戦闘中もずっとソウでしたし」
来紅が言いにくそうに、魔女へ申し出る。てか師匠って何だよ。
モンペがいつ追って来るか分からず、ダンジョンの継続ダメージで生じる痛みも地味に辛い。さっさと、こんなところから出たかった。
そしたら、何やら観念したような魔女が口を開いた。
「……そういや、指の一本をお嬢ちゃん本人と思い込むような阿呆だったね。なら、仕方ないのか?」
そして、「はぁ」と重い溜息を吐いた魔女が俺に衝撃の事実を告げる。
「あんたね、いま全裸だよ」
「は?」
そんなバカなと笑い飛ばそうとするも、やたらスースーするなと思い自分の体を見た。
するとどうだろうか。生まれたばかりの俺の体があり、今のところ使用予定のない相棒がぶら下がっていた。
そこで俺は先程まであった体の軽さや開放感、女性陣の不自然な雰囲気、それら全てに納得がいった。
今日はタンクトップを着てたから気付きにくかったとはいえ、我ながらコレはないだろう。
だから来紅は、ずっと恥ずかしそうにしてたのか。
「まあ、あたしと弟子も着替が必要だったところだ。ローブくらい貸してやるから、ついてきな」
「……はい」
魔女から配慮の言葉を貰い、俺は素直に従った。
しかし、考えてみると確かにそうだった。来紅は逃亡中、化物に食い千切られたのかボロボロになっているし、魔女もヘンゼルやグレーテルを相手にした時に負ったであろう傷のせいでローブが破れていた。
戦闘の興奮が続いており、全くそんな気持ちにならなかったとはいえ、随分と無遠慮に彼女等を見たなと反省する。
そして、俺達は魔女の案内で衣装部屋へと向かった。
読んで下さって、ありがとうございました!
下記に別の連載作品のリンクがあるので、読んで下さるとありがたいです!