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これが本当のモンスターペアレント
◆??? サイド
僕は、また失敗した。
いつもそうだ。妻の言いなりになり、愛する子供達が苦しむのを見てみぬふりをして、挙句の果てには一度ならずニ度までも子供達を森に捨てた。
その結果、子供を喪うことになったのだ。
その後も続く理不尽に耐えかねて、諸悪の根源たる妻は殺した。これがもっとも、幸せな未来に繋がると信じて。
後は以前のように子供達が森から帰って来ると思い待っていたのだ。それなのに───
目の前で、床に呑まれるようにズブズブと沈んでいくグレーテル。娘は死んだと言うのに満足げな笑顔で、その顔が更に僕の後悔を誘う。
最後まで護れなかった情けない僕に、そんな顔を向けないでくれ……
そんな罪悪感から逃げるように僕は、唯一残った子供であるヘンゼルを探し始めた。あの子は護ってみせると思いながら。
◆綺堂 薊 サイド
「ちっ、ダメだね」
それが、双子の父へ数発の魔法を放ちダメージが無いことを確認した魔女の言葉だった。
魔女の敗北宣言とも取れる言葉に、俺と来紅は驚いていた。
ゲーム知識で魔女より強いことを知っていた俺より来紅の方が驚きが大きく、とても信じられないと言う表情をしていた。
元々、ゲームでヘンゼルとグレーテルが父親召喚を切った際は、ほぼ負けイベントだった。それこそ、最低でもストーリー中盤以降の主人公パーティーでなければ勝ち目が無いほど難易度が高くなる。
しかし、魔女の攻撃力が高いのも事実だ。『応報の剣』が腐り果てた今の俺は言うに及ばず、もしかしたら剣があっても俺より高かったかもしれない。
どこからか強力な杖を入手してきた来紅よりも、おそらくは魔女の方が強いのだろう、隣で酷く狼狽している来紅の様子から、そう思えた。
そもそも魔女の魔法攻撃には全て『瘴気』という状態異常を相手に確率で与えられるのだが、これは耐性がなければ百%に近い確率で付与される。
付与されればグレーテルのように体が紫色になるのだが双子の父には、そんな様子は見られない。数発与えてダメならば高い耐性を持っていることが伺えた。
ダメージはおろか、状態異常も通らなければ舌打ちの一つでもしたくなるだろう。
「しかし、あいつは何をしてるんだい?」
魔女が言った、あいつとは双子の父のことだろう。
彼は部屋の中をウロウロしたり、瓦礫をどかしたりと、何かを探している様子だった。
大してダメージにならないと言っても、攻撃されながら何もしてこないと言うのは不自然すぎる。ゲームでは瀕死の双子の盾となりプレイヤーを苦しめたものだが、今の彼には護るべき者はもういない。そんな彼を他の何が、そうまでさせるのか。
そう考えたとき、やっと分かった気がした。
「多分、ヘンゼルを探してるんだと思います」
半分は魔女の疑問に答えるつもりで、もう半分は自分の推理を口に出して頭を整理するためだ。
「ヘンゼル? でも、もう死んでるよね?」
「……あー、そういうことかい」
来紅は分かってないようだが、魔女には伝わったようだ。
恐らく双子の父はヘンゼルが死んだことに気づいていないのだろう。だから、部屋を探し回っているのだ。いつも双子は一緒にいたから、同じ部屋に居るはずだと信じて。
そう考えると不憫に思えるが、俺達は敵に同情してる暇があるなら逃げるのが賢明だろう。
この館に強い思い入れがある魔女には悪いが、諦めて逃走に手を貸してもらおう。ダンジョンのルールである『退場禁止』はボスである双子を倒したので解除されている筈だ。
そう二人に提案し、渋る魔女には後で強くなってから一緒に取り戻そうと言えば、なんとか納得してもらえた。
そして俺達は、念のため双子の父の注意を惹かないようにコッソリと『お菓子な魔女』を後にした。
読んで下さって、ありがとうございました!
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