30
読んで下さってありがとうございます!
◆綺堂 薊 サイド
いい加減、鬱陶しくなってきたな。
これは魔女の説教の感想ではない。意識を取り戻してから、ずっと視界の端で点滅しているステータスプレートだ。
こいつは呼んでもいないのに、勝手に出てきて赤い光を明滅させながら存在を主張していた。説教を聞き流しつつ、ステータスをチラリと見れば、ステータス全体ではなく固有スキル【始祖の血脈】だけが光っていた。
これについては、心当たりがあるので問題ない。むしろ、他の項目に変化がなく安心したくらいだ。
「……これに懲りたら二度と巫山戯たマネをするんじゃないよ」
「はい」
全く関係ないことを考えていたら魔女の説教が終わった。俺が悪いとは言え、そこその長い時間経過したので疲れた。
顔に出さないように内心で溜息を吐いた後、魔女が自身の影に隠れた来紅へ向き直ったので、ステータスを視界の中心に移動し細かい内容を確認する。
ステータス
︙
︙
固有スキル
名称:【不死の鼓動】
効果:『十秒毎に最大HPの三十%自然回復』『一日に一度HPが零になった際、HPを最大まで回復する』
二つ目の効果が本来の白文字から反転して黒く染まっていた。
元々、点滅の心当たりはあり俺の思っていた通りの内容だったので安心する。目を通した途端、点滅が収まった。
二つ目の効果俺の生き返ることが出来た秘密だ。
一つ目の効果は来紅に話したことはあったが、二つ目の方は誰にも話したことはない。周囲に露見した場合、ゲーム時代の来紅のように誰かに拉致され切り刻まれることが目に見えていたからだ。
そう、例えば魔女のような。
ゲームではマッドサイエンティストだった彼女は何故か俺を捕らえるつもりがないようで、それは嬉しいのだが理由が分からないのが怖い。
まあ、深く考えても分からないことを考えても仕方ない。
心を読むスキルなど持っていない俺が、他人の本心を断定するなど出来るわけないのだから。
そんな時だった。聞こえるはずのない声が聞こえたのは。
「たずケて……ぉトぅザン……」
◆グレーテル サイド
痛いよ。
彼女の視界は暗闇に閉ざされており、詳しい自身の状態は分からないが全身各所で感じる耐え難い苦痛と喪失感。
全てが夢ならどれほど良かっただろうかと思うも、理性が現実であると断定しているため狂気に身を委ね、妄想の世界へ逃げ込むことすらできない。
感じる喪失感は、何も肉体の欠損だけが理由ではない。自分にとって、もはや半身と言ってもいい存在である兄を喪ったことだ。
死んだと思っていた悍ましいバケモノに血を吸われ、最後は枯れ木のようになったヘンゼル。
その痛ましい姿を見た時、ただでさえ押されていた戦闘は一気に押し込まれ特大の魔法を直撃させられた。
幸か不幸か、死んだと思われたようで追撃されることはなかったが、致命傷を受けており指先を動かす力さえ残っていない自分には苦痛が長引いただけである。
『僕が、お母さんから守ってあげるよ』
ふと、光を映さなくなったはずの目に父の姿が見えた。この言葉と表情は見た覚えがある、おそらくは走馬灯というやつだろう。
それと同時に思い出す父の記憶。
家族の稼ぎ頭で頼り甲斐のあった父。いつも優しく怒りっぽい母から庇ってくれた父。「こんなに食べられないや」そう言って、少ない食事を私と兄に分けてくれた父。
痛いよ、お父さん。
森に捨てられた時、母が主導していたとしても戻ってこなかった時点で父も同意したことは分かっている。それでも兄が亡くなった今、縋れる相手が父しかいなかった。
だから───
お父さん、お父さん、お父さん、お父さんお父さんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさンおとうサンおとウサンおトウサンオトウサンオトウサンオトウサンオトウサンオトウサンオトウサンオトウサンオトウサン
「たずケて……ぉトぅザン……」
思わず爛れて虫のような、か細い息しか出なかった喉から声が漏れた。
その時だった。
「アアアァァァァッ!」
声に呼応するように現れた魔法陣。その中からはチェックの上着にジーパン姿の樵が這い出てきた。
彼は斧を肩に担いで哀しみに満ちた叫びを上げる。
来てくれたんだね、お父さん。
その思考を最後に、彼女は意識を失った。
読んで下さって、ありがとうございました!
下記に別の連載作品のリンクがあるので、読んで下さるとありがたいです!