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読んで下さってありがとうございます!
「あんたら、人が戦ってるのに良いご身分だね」
「「あっ」」
完全に忘れてた魔女様のご登場だ。いや、一応戦闘音は聞こえていたので流れ弾に当たらないよう警戒しており存在そのものは覚えていたのだが、なんと言うか話し掛けられる可能性を考えていなかったというか、考えたくなかったと言うか……
いや、そんなことを考えるより先にやることがあった。
「……その節は大変ご迷惑をおかけしました」
俺は出会い頭に攻撃したことを深々と謝罪する。
「ふんっ。許すかどうかは、あんたの話を聞いてからだね」
「はい、実は……」
そうして、俺は話を始めた。「あー」だの「えー」だのを挟み、時間を稼いで内容を厳選しながら。
来紅は役に立たない。というか、ジリジリと距離を取って話に巻き込まれないようにしているようだった。
友人のあんまりな対応に目から汗が滲むも、なんとか堪えて説明を終えた。
「それを信じろと?」
それが説明を終えた直後の魔女の言葉だった。どうしよう当たり前だけど、かなり怒ってる……
ガチ泣きしそうになる肉体とは裏腹に内心では「ですよねー」と納得していた。
しかし、それを口にだしてしまえば魔女の背後で瘴気に蝕まれ全身紫色になりながら、原型がわからないほどズタボロにされたグレーテルの二の舞となるだろう。(すでにヘンゼルはダンジョンに吸収されて死体も残っていない)
「……」
「……」
「ぷひゅーぷひゅー」
ヤバい。どう言葉を返せばいいのか分からず沈黙を続けていたら、どんどん口を開きにくくなった。
ちくしょう来紅め。いつの間にか魔女の影に隠れた上に冷や汗流しながら変な呼吸しやがって。あれか? 口笛のつもりなのか!?
来紅が、あまりにも必死に口笛(?)を吹き続けるので、少し笑ってしまう。それがよくなかった。
「なに笑ってんだい? あたしの顔が、そんなに面白いか? ええ?」
「ち、違います! 誤解です!」
その後、メリッサの誤解を解くのに多大な時間を要した。
◆メリッサ サイド
目の前で、弟子の友人(?)がフワフワした内容の弁明をしているが、メリッサには出会い頭の奇襲を咎めるつもりはなかったし、自分そっちのけで弟子とイチャイチャしていたのも気にしてない。
彼の奇襲は、十分対応可能な範囲内であったし、後半の出来事に関しては感謝してるほどだ。
イチャイチャから弟子の精神状態は目に見えて良くなっているし、なんなら怨敵の片割れであるヘンゼルを殺してくれたことで前半の事も水に流してもいいと思っている。まあ、自分で殺せなかったのは多少心残りだが。
しかし、今のメリッサは薊に対して怒りをぶつけているし、その怒りの原因は薊だ。
それが先に述べた2つからくる怒りではないとするなら、一体なにが原因なのか。それは───
なんで魔女のあたしが、こんな絶好の研究材料を相手に何も手出しができないんだい!
未熟な弟子は気づいていないようだが、話し込んで十分に観察したメリッサには分かった。
彼は吸血鬼であると。それも、おそらくは人間から一足飛びに知性をもつ【下級】以上のランクになった、非常に稀有なタイプだ。
かろうじて人間であり、常人より遥かに長いと言っても寿命のある魔女にとって、永遠の命を持つ吸血鬼の研究材料は喉から手が出るほど欲しかった。
しかし、後継者も重要である。
かつて、極少数ではあったが吸血鬼を捕らえて研究した魔女もいた。しかし、誰一人として永遠の命を得ることは出来ず、近頃に至っては真新しい成果すら無い状況だ。
そんな研究対象を無理に得たとしても何も成果が無いどころか、最悪は弟子と二人で自分に牙を剥くかもしれない。
さすがに二人同時に相手をするのは、かなり厳しいだろう。それこそ、ヘンゼルとグレーテルの双子以上に。
故にメリッサは渋々ではあるが諦める。恨めしげな視線程度は我慢してもらおう。魔女を怒らせたのだ、コレで済むなら安いものだろう。
ああ、それにしても
「口惜しい……」
「ひっ」
おっとイケない、口に出てしまったようだ。
薊の歪んだ顔を見ながら表情には一切出さず、彼を面白がるメリッサだった。
読んで下さって、ありがとうございました!
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