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◆雁野 来紅 サイド
どうしよう、薊くんの顔が見れない。
これが今の本音だった。こうなった原因は来紅が嫉妬心に負け薊を、かるーく小突いた(来紅主観)ことなのだ。
来紅は杖の力で薊が死ぬとは微塵も考えていなかった。理由は固有スキル由来の『HP自然回復』の特性である。
彼から、その特性の回復率の高さを聞いていた彼女は『奪骨の杖』による腐食攻撃など蚊に刺されたようなものだと考えたのだ。
ちなみに痛みに関しては一切考慮されていない。なぜなら来紅は以前から苦痛に対してめっぽう強く、この館に来てからさらに磨きがかかったので感覚が麻痺していたのだ。
さて、そんな来紅が薊を見れない理由は、もちろん罪悪感などではない。それは───
「裸になっちゃうなんて全然考えてなかったよ……」
『奪骨の杖』は強力な腐食攻撃を持つ。その力は有機物だけに留まらず、謎の原理で無機物にまで迄ぶ。
つまり薊は服諸共、杖の餌食になっせいで現在、全裸で暴れまわっているのだ。気づいてないのは本人だけである。
グレーテルとメリッサは全裸の薊に驚き、一瞬動きを止めていたが、ヘンゼルのピンチと見るやグレーテルが助けに入ろうとするもメリッサが妨害。ついでに来紅は薊をチラチラと覗き見ている。現状は、こんなところである。
「あっ、ずるい。薊くんに血を吸われてる」
次は勿論、私だよね?
そう信じて薊へ首筋を突き出すが一向に、こちらへ来る気配はない。むう、直接はダメでも後で絶対に自分の血飲んでもらうから。
それはそうと、我慢の限界が近くなっている。ちょっと見るくらいならバレないよね?
「なあ、来紅」
っ、来た!
半ば諦めていただけに、喜びが大きい。意を決して目をつぶる私に、彼は真剣な声音で告げた。
「来紅と魔女って、どんな関係なんだ?」
「? 化物モンスターから助けてくれた恩人だよ」
なんでいま、その質問なの? そう思いながらも質問には素直に答える。
「は? 恩人?」
「うん」
困惑する私を尻目に質問を終えた彼は、少し悩むような素振りを見せた後、何か納得したように頷いている。
それならば、と来紅は考える。
薊くんの悩みは解決したんだよね? なら次は私の番じゃない?
◆綺堂 薊 サイド
疑問が解消されてスッキリした後、俺は頭を悩ませていた。
理由は来紅に恨まれているか否かである。
俺はついさっき彼女から即死級の攻撃を受けた、悩むなと言う方が無理な話だろう。
良い笑顔をする来紅に緊張していると声が掛かる。
「ねえ、薊くん」
「な、なんだ?」
来紅の見てる先に何があるのかと彼女の視線を追おうとした直後、話しかけられ僅かに慌てながら目線を戻す。
「私に何か言うことない?」
「えっと、ごめん」
「えっ? 何が?」
どうやら本当に何も思っていないようだ。それか他にもっと優先して聞きたいことがあり忘れているのか。
しかし、他にか。わからない。
「簡単なことだよ」
そう言われてハッとする。俺は気が狂ってる間、厨房で指を見つけてから、ずっと一緒にいるつもりだったが彼女とっては違う。再開の言葉の一つくらいかけるのが礼儀だろう。
「久しぶり、無事でなによりだよ」
「違う」
「!?」
ジト目で食い気味に否定された。正直、かなり悲しい。
挨拶ではないのなら、彼女は何を求めているのだろうか。
「じー」
悩んでいると、とうとう口で視線の効果音を言い始めた。なにこれ、少し可愛いな。
「っ、もう! 薊くんったらっ!」
「……? あ、もしかして口に出てたか?」
こくり、と無言で首肯する彼女。気恥ずかしいな。
そのまま、お互いに沈黙して無言の時間が流れる中、俺達にふと声が掛かる。
「あんたら、人が戦ってるのに良いご身分だね」
「「あっ」」
声のする方向を見れば全身の各所に傷を負った魔女が、こちらを睨んでいた。どうやらグレーテルを倒してくれたみたいだ。
ヘンゼルとグレーテルは追い詰めたまま放置すると切り札を使うので、それを阻止できたことは喜ばしいが別の問題が生まれた。
さて、どうするか。
問答無用で襲いかかった身としては無下な扱いは出来ない。取り敢えず、色々な意味を込めた謝罪をするかと心を決めた。
読んで下さって、ありがとうございました!
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