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◆綺堂 薊 サイド
復活した時、最初に目に入ったのは今まさにヘンゼルに斬られそうになっている来紅の姿だった。
ふざけるな。
彼女が生きていたことへの安堵と、もう二度と失う悲しみを味わいたくないという執念でヘンゼルに突撃した。
「「なっ!?」」
魔女とグレーテルが酷く驚いていた。それはそうだろう、何せ俺はさっきまでちゃんと死んでたのだから。
しかし、構ってる暇はない。視界の端で何かが点滅してる気がするが、それも無視だ。
「えっ、ちょっ! 薊くん!?」
一方、来紅は顔を赤くして目を泳がせながら慌てている。何故、ヘンゼルではなく俺を見て、そんな反応をするのだろうか? もしかしたら、俺が起き上がったことに驚いているのだろうか。
彼女自身が今、死にそうになっているというのにな、と苦笑する。
頭の片隅でアホなことを考えつつ、体は二人を引き剥がすべく、ほぼ無意識にヘンゼルにアイアンクローをしながら進み、来紅は肩を掴んで俺の後ろへと押しやった。
そういえば、意識を失う前に来紅の幻を見たが触れられたということは、この来紅は本物なのだろう。行動した後なので、いまさらだが一安心だ。
「ぐっ。なんだよ、いきなりっ!」
こいつ、言うに事欠いて「なんだよ」だと? ふざけてるのか?
俺は苛立ちをぶつけるように、ヘンゼルの首筋に噛み砕かんばかりの勢いで歯を立てた。
グレーテルの横槍が心配だったが魔女に足止めをされており、こちらへ来れないようだった。おそらく魔女は俺が、この機会にヘンゼルを確実に始末してほしいのだろう。コイツの次は自分だとも知らずにご苦労なことだな。
まあ、いい。今だけは利害が一致しているのだ、存分に利用させてもらおう。
◆
さて、ヘンゼルを狩り終えた。
どうやら魔女とグレーテルは魔女が優勢で戦いが進んでいるようだが、決着はついていないようだった。
ちなみに来紅は、どちらの戦いにも手出しはせず何故か俺に向けて首筋にを差し出しながら、こちらをチラチラと見ていた。彼女は何がしたいのだろうか。
「いや、むしろ俺に何かをしろって合図なのか?」
駄目だ、考えてもわからん。今はそんな場合ではないのでスルーしよう。
そして俺は来紅のせい(おかげ?)でリラックスしすぎていた気を引き締めて、魔女とグレーテルへと視線を向ける。
大丈夫、彼女らは俺たちの決着がついたことに気づいていない。仮に気づいていたとしても、お互いに隙を見せる事を嫌い、俺へ対応するのは難しいだろう。
つまり、俺からすれば今こそが最大のチャンスだ。さっさと殺ってしまおう。
「って、あれ?」
来紅の謎の行動で一度気が抜けて思考が、ある程度リセットされたせいだろうか? 俺は自分の行動に疑問が出てきた。
俺が、ここに来たのは魔女を殺すため、そして魔女を殺す理由は来紅の仇を打つため。ならば、あそこで俺をチラチラ見つつ顔を赤くしている来紅はなんなのか。
この問題は適当に対応するとヤバい気がする。念のため来紅に直接聞いてみるのがいいだろう。
「なあ、来紅」
「な、なに?」
彼女はモジモジとしながら、こちらをあまり見ないようにしつつ俺の質問に反応する。
「来紅と魔女って、どんな関係なんだ?」
「? 化物から助けてくれた恩人だよ」
「は? 恩人?」
「うん」
ここで俺は自分の勘違いを正しく認識する。
そういえば、俺が魔女を敵だと認定したのは来紅が魔女の封印解除に失敗して、食い殺されたと思ったからだ。
しかし、封印解除の成功に必要なのは『一定時間内に石窯でダメージを負った魔女が完全に回復させること』だ。
ゲームなら、どんな編成をしていようと一定時間が過ぎれば封印解除は失敗となりパーティは全滅させられたが、現実となったいまなら結果は違うのではないか。例えば、時間切れとなって全回復させることが出来れば魔女は理性を取り戻し、成功扱いになるなど。
俺は今まで何をしていたんだ……
やっと冷静になって、さっきまでの自分がいかに冷静さを失っていたかを理解する。指を友達だと思うってヤバすぎるだろ。
ん? 待て、これはこれでおかしい。おそらく『魔女の工房』に入った時からいる来紅は幻などてはなく、ずっと実体のある本物なのだろう。
なのに俺は彼女に尋常ではない威力の攻撃を受けている。これが謎だ。
来紅は俺を殺したいほど恨んでいるのか?
至近距離で話していても何もしてこない現状では特に恨まれていないと思われるが、もしまだ恨まれていたら、と考えると恐ろしい。
聞きたいけど、聞くのが怖い。俺は頭を悩ませた。
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