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◆雁野 来紅サイド
「『スピード・アップ』を」
「はいっ! 『スピード・アップ』」
メリッサの声に素早く反応し、バフを掛ける。
立ち直ってから来紅は、メリッサの指示を受けながら戦闘の補佐をしていた。不慣れな来紅は、そうするのが最善だとメリッサが判断したのだ。
「クソッ! クソクソクソクソクソクソクソガッ!! 威勢のいいこと言っておいて、やることは小細工かよっ! この腰抜けがっ!!」
「死ねよ腐れ女っ! 腕の仇で絶対に殺してやるっ!」
いや、物理的に腐った女はあんたでしょ。と、内心でグレーテルにツッコミを入れる来紅。
来紅達は拙い連携ではあったが双子を相手に押していた。
元々メリッサ一人でも、ある程度拮抗していたのだ。そこに来紅のバフと援護が加わり怒りで冷静さを欠いているヘンゼルとグレーテルは、どんどん追い詰められていった。
「死ぬのはあんたらだよっ!」
「ぐっ」
そう言いながら接近してきたヘンゼルを防御に使った剣ごと、杖で殴り飛ばすメリッサ。
ここにきて初めて知ったがメリッサは近接戦闘も出来るらしい。本当にすごい。
「ヘンゼルに杖を」
「はいっ」
メリッサ指示に従って体制の崩れたヘンゼルへと杖の力を開放する。
杖から吐き出された黒い霧は床を腐食しながらヘンゼルを包み込まんとするがギリギリで、それを叶わなかった。
「『ウィンド・シールド』」
グレーテルだ。彼女がメリッサの牽制で放たれた魔法をやり過ごしヘンゼルへの防御魔法を発動した。風で散らされた杖の霧が薄まって館の霧と混じりわからなくなる。
「むぅ」
来紅が『奪骨の杖』の代償で失った骨を治しながら、当たらなかった事に不満を感じて少し膨れた。
見れば隣でメリッサも不機嫌そうに舌打ちをしていた。さっきのは当たると思ったんだけどなあ。
「大丈夫? ヘンゼル」
「ありがとう、大丈夫だよグレーテル。それでね少し相談なんだけど───」
ヘンゼルが、そう言うと二人は作戦会議を始めたようだった。こちらには聞こえないよう小声で話している。
「『ミアズマ・ストーム』」
しかし、来紅はともかくメリッサは甘くない。相談を始めたのを隙だと判断し、僅かに来紅へ意識が向いていた双子へと魔法を放った。
不意打ち気味に撃たれた魔法に多少慌てながらも、グレーテルからバフを受ていたヘンゼルがメリッサの魔法を斬り裂いた。
「ちょっと、お婆さん。『お約束』を知らないの!?」
「そーだそーだ」
「あんたらの事情も『お約束』とやらも知ったこっちゃないね」
双子の見た目相応に子供っぽい抗議をメリッサは容赦なく切り捨てた。
それから少しの間、攻撃の応酬をした後、決め手に欠けて膠着状態となる四人。僅かな物音一つで再び戦いが始まる緊張感につつまれる。
全員が敵を視線で牽制し合っていると───
ゴォォォン
「「「「!?」」」」
突然響いた音に驚き敵から意識を逸らさないようにしつつ、音の発生源を探る四人。
ゴッ、ゴォォォン
今度は二回響く、どうやら扉から鳴っているようだった。
でも何故? と皆が悩む中、来紅一人が「もしや?」と期待の眼差しを扉へ向け、それを見た三人も来紅と同じ人物に思い至る。
扉から響く轟音を牽制し合っているため誰も手が出せないでいると、とうとう扉が壊れる。
ゴガァァァンッ
盛大な破壊音と舞い上がった粉塵と共に現れたのは、やはり薊だった。
喜びのあまり薊へ声を掛けようとした来紅だが、薊の声に遮られる。
「薊く───」
「魔女はどこだぁぁぁっ!!」
「は?」
一度トラウマから立ち直り、メンタルが強くなっていた来紅は先程のように塞ぎ込まず、むしろ低い声を出して薊に怒りを向ける。
無表情となった彼女の瞳は光が消えていた。
◆綺堂 薊サイド
「くそっ、開かねえぞっ!」
敵を殲滅しながら、やっとの思いで最奥の扉にたどり着いた薊。彼は押しても引いてもビクともしない扉に苛立っていた。
本来なら開いている扉だが来紅とメリッサの逃亡を防止するため、グレーテルが魔法で鍵を掛けていたのだ。
しかし、そんなことは知らない薊。理由は分からないが分かったところで何も変わらないので、現状の打開策を考える。
「壊すか」
結論は秒で出た。見たところ鍵も鍵穴もないのだ、他に方法などあるはずがない。
「オラッ」
一度、蹴ってみた。音は大きかったが扉に変化はない。次に『応報の剣』を叩き付けた。先程よりも大きな音が鳴り響き扉が僅かに罅割れる。
「いけそうだな」
やはり、剣のバフがあると違うようだ。二度、三度と繰り返し、やっと壊れた扉。かすかな達成感が湧き上がるが中にいるであろう怨敵への怒りで、そんな感情などすぐに吹き飛ぶ。
「魔女はどこだぁぁぁっ!!」
彼は叫びながら中へと入って行った。
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