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◆綺堂 薊サイド
壁伝いに歩いて、これまでとは違う石造りの回廊を見つけた。
そこはパン屑と白石が並び松明で照らされている。
そこはゲームでも見た『魔女の工房』へと続く道だった。
「やっと見つけた」
奥からは、いままで以上に強烈な腐臭と尋常ではない量の敵意を感じる。
吸血鬼になってからは遠のくばかりだった化物の気配だが、ボス部屋付近のやつらは道中の腑抜け共とは一味違うようだ。
面倒臭さも多少あるが、魔女と戦う前に力を溜められるので、どちらかと言えばありがたい。
「おっと」
一歩踏み出した途端、すぐさま数匹のコウモリに襲われたので翼を斬り落とし血を啜る。
ははっ。コウモリなら大人しく吸血鬼に従えってんだ。
「味は少し美味くなってるな」
ヘンゼル程ではないにしろ、これまでの雑魚敵に比べて血の味が良くなっている。また、質も僅かに上がっているようで『吸血鬼:中級』に成るのは無理だとしても力が貯まりやすくなっている。
吸血鬼は摂取した血の量や質で強さが決まるので、都合がいい。強くなれば、それだけ魔女を殺しやすくなるのだから。
そして薊は、そのまま奥へと進んで行った。
◆雁野 来紅サイド
ヘンゼルは来紅を、この館へと連れて行った張本人である。
もし、自分の居場所を知りたいのなら問い詰めるのが普通だろう。
現に来紅は、そうしたのだから。
言葉を交わす暇がなかったと言うわけでも無さそうだ。なにせ、メリッサの居場所を聞く時間はあったのだから。
自身の恩人で師匠でもあるメリッサのことは、大切に思ってるし蔑ろにするつもりはない。
だが、それでも薊が会った事のないはずのメリッサを気にかけておきながら自分をいないかのように振る舞われたというのは、あんまりではないだろうか。
本当に自分は薊から、どうでもいい存在だと思われてるのではないか。
嫌な考えが脳裏を過ぎる。
そんなはずはないと、自分に言い聞かせるが一度考え出したら止まらない。どんどんネガティブな方向へと進んで行く。
「敵の言葉なんか信じるんじゃないっ! 友達を探したいんだろう? なら、こいつらを倒して吐かせるのが近道じないのかいっ!」
メリッサが何かを言っているような気がしたが、内容は頭に全く入ってこない。
見ればメリッサは必死の形相をしている。おそらくは自分のせいで、そんな顔になっているというのは察しがつく、そこは申し訳ないと思う。
しかし、今は全てのことに対して、やる気が出ない。どうか諦めてほしい。
酷く身勝手な事を考えてる自覚はあるが、どうにもならないのだ。
そして、また薊のことを考え始める。蹲って目から生気を消して永遠と。
「アハハハッ、お姉さん元気ないね。お兄さんに心配されなかったのが、よっぽど辛かったみたいだね」
「しょうがないよヘンゼル。だって私達みたいに信頼しあってないんだもん」
ピクリ、と来紅が少し反応する。それは『信頼』と言う言葉に対する怯えから出たものだが、それでも自分の世界に閉じ籠もっていた来紅が外の出来事に関心を表した動きだった。
伏し目がちにヘンゼルとグレーテルを観察してみる。
曰く、彼女達は信頼し合っているようだ。よく見ればメリッサの魔法に対抗するのはグレーテル、近づいて直接攻撃をするのはヘンゼルと役割分担をしていた。
二人の動きは互いをフォローし合っている。ヘンゼルへと魔法が飛べばグレーテルは防ぎ、ヘンゼルは攻撃など無いかのように突撃する。まるでグレーテルが防ぐと確信しているかのように。
そして、メリッサは押されていた。以前は不意打ちで敗れたと言っていたが、正面からでも連携した二人を相手にするのは厳しいらしい。
そして来紅は、現在ピンチのメリッサよりもヘンゼルとグレーテルを見ていた。二人に自分と薊を重ねて見ていた。自分達も、こうなりたかったと思いながら。
「っ!」
そして来紅は、ある可能性を思いつく。
それは薊が来紅を生きていると信頼していたからこそ、ヘンゼルに聞くまでも無かったのではないかという可能性だ。
そうだ、そうに決まっている。なぜなら自分達は最高の友達同士であり、お互いにとって唯一無二の存在なのだから。
そこからは早かった。落としていた杖を拾って、魔力を込めながら振るう。必要ないグレーテルへと向けて。
「ぎぃぃっ」
「グレーテル!?」
これまで浮かべていた余裕の表情が嘘のように歪むグレーテル。想定外からの攻撃であっただろうにギリギリで直撃を避けられた。それでも片手を奪うことには成功したが。
「やっと立ち直ったのかい」
「はいっ! すいません、遅くなりました」
「謝罪はいらないよ。働きで返しな」
来紅は舌を噛み切って、ソレをメリッサに渡しながら彼女の横に並ぶ。
舌は出血を飲み込んで、すぐに治した。
「お前たち、絶対に殺してやるぅぅっ!」
こちらへ呪詛を吐きながら睨みつけるグレーテル。彼女は腐食が全身へ広がらないようにヘンゼルに片手を斬り落とされたところだった。
断面を自分で癒やしながらだというのに、痛々しさよりも怒りと戦意を感じる叫びだ。
しかし、そんなもの怖くはない。なぜなら、薊が自分を信頼してくれているとわかったのだから。彼が自分を思ってくれているなら何でもできる。
「絶対に薊くんの居場所を教えてもらうから」
改めて自分の考えを口に出し、気持ちを整える来紅。
その姿には弱々しさなど微塵もなかった。
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