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◆雁野 来紅サイド
「よし、今から魔法の授業を始めるよ」
「はい、師匠っ!」
メリッサの言葉に元気よく返事をする来紅。
目の前にはメリッサが瀕死にした化物がいた。
「あんたに渡したような、見ただけで普通とは違う道具っては基本的に何かしらの能力を持っている」
「そうなんですか? じゃあ、この杖はどんな能力ですか?」
ワクワクが止まらないと言わんばかりに目をキラキラさせた来紅がメリッサに問う。
「焦るんじゃないよ、今から説明してやるさ」
「はい」
「その杖は『奪骨の杖』と言ってね、使用者の骨を消費して強力な魔法が撃てるのさ」
「強力な魔法……」
繰り返したフレーズに喜色が滲む。
骨を失う痛みは身を持って知ってるが、魔法攻撃の手段が手に入るのは大きな魅力を感じた。
自分と薊には、魔法攻撃の手段が不足している。以前に二人で互いの出来る事を話し合った際に判明していたので、かなり嬉しかった。
その時に学園に入学したら二人でパーティーを組む約束をしており、攻撃魔法が得意な人員をスカウトする予定だったのだが自分が出来れば必要なくなる。
「これで二人っきりのままでいられるかなぁ」
「……取り敢えず、あたしに言ってるんじゃないのは分かるよ」
未来を想像して顔を緩める来紅を見たメリッサは思わず遠い目になる。
好きな男がいることは杖をあげた後に聞いていたが想像以上に思いが強そうだ。ここから、どうやって魔法の優先度を好きな男より上に持っていくか。
考えるだけで頭が痛くなった。まあ、いますぐにやらねばならない事ではない。授業の続きをするかと思い直す。
「ほらっ、戻っておいで」
「はっ」
薊と二人っきりで学園生活を送り仲を深め、その先の展開まで妄想していた来紅は、やっと現実に意識を戻す。
幸せな妄想が終わり少し残念だったが、それは現実で叶えようとモチベーションを上げる燃料にした。むんっと気合いを入れてメリッサへと向く。
「魔法が使えるなら魔力の感覚は掴めてるだろう? とりあえず杖に魔力を流してみな」
言われた通りに杖へ魔力を流してみた。
すると杖に付いてる頭蓋骨の眼孔が赤く光り、まるで笑うように顎がカタカタと動き出す。これは喜んでいるのだろうか?
「あっ」
右足に唐突な痛みが走り体のバランスが崩れて倒れ込む。
思わず手を離した杖は支えも無く独りでに立って眼孔の光りを瀕死の化物へと向けている。そして口から黒い霧を吐き出した。
その霧は瞬く間に広がり化物を包み込んだ。
「ガァァァァッ」
瀕死の体で、どこからそんなに声を出したんだと思うほどの断末魔を上げ絶命した化物は腐食しドロドロに溶けていた。
まあ、館にも腐食臭が漂っているため、そこまで気にならないが。
「これ、すごいですね!」
自分を齧り骨を治しながら立ち上がって、来紅は感想を告げた。
「それは杖に言ってやんな」
「杖ですか?」
そう言われて杖へ目を向けると、こちらを期待するように見ている気がする。いや、眼球など無いので見てるとは言わないかもしれないが。
たしかに頑張ってくれたのは杖だ。意思があるのかは分からないが、あるとしたらコミュニケーションを取っていた方がいいだろう。
「ありがとね『奪骨の杖』」
そう言うと返事をするようカタカタ鳴らす杖。意思の疎通が取れた事に少し驚く。
「大丈夫そうだね。次に行くよ」
「あっ待って下さいよ師匠」
来紅を見て少し顔を和ませたメリッサは先行きへと進み、来紅は慌ててついて行った。
◆綺堂 薊サイド
「ついてねぇ……」
来紅が初めて化物を倒していた頃、薊は壁に磔にされていた。
尖端に大きな返しの付いた槍で貫かれた薊は抜くのに手間取っているうちに傷の再生が終わって槍が抜きにくくなってしまったのだ。しかも二本。
「このままヘンゼルにでも襲われたらシャレにならないな」
そう言って槍を折り、短くなった柄の方から体を抜く。抜く時は勿論、折る時も体内に激痛が走るが歯を食いしばって耐えた。
「ふぅ」
何とか危機を脱した。この後、何回こんな事があるのかと考えて嫌になり思わず溜息が漏れた。
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