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◆雁野 来紅サイド
来紅達は工房へと向かっていた。理由は、そこに館を奪った犯人達がいると思われるからである。
メリッサいわく。
「この館を制御するには工房にいるのが一番、効率がいいからね」
と、いう事がらしい。
この館は住処と魔法の研究所を兼ねているがメインは魔法研究だ。
また、館ではメリッサの研究の一環として実験的に魔法を付与する事が多く、館の魔法関連は全て工房で操作出来るようになっている。
館の造りも工房を中心に造られており、トラップや化物、果ては敷地全体を特殊な次元へ移動させる結界も、そこで制御されているらしい。
それを聞いた来紅は、とても驚く。
「ええっ!? ここって露店じゃないんですか?」
「は? 露店? なんの事だい?」
ここで始めて来紅はメリッサに自分が何故ここにいるのかを説明した。
「はぁー、いくらんでも気づくのが遅すぎやしないかい?」
「ううっ…… すみません」
来紅も変だとは思っていたのだ、薄々ここが普通ではないと。
しかし、メリッサの事情を聞いたとき館を乗っ取られたせいで店を開けなくなっただけで普段は店を開いていると思っていた。
なんなら武器庫にあった物は商品だと勘違いしていたし、全てが終わったら入口の小屋から館まで長過ぎると文句を言おうと決めていたほどだ。
そんな来紅を見ながらメリッサが言う。
「お嬢ちゃん、あんたは魔女に関しては天才もいっていいほどかも知れないよ」
「はぁ、ありがとうございます?」
唐突に褒められた来紅がよく分からず頭の中に「?」を浮かべながら、取り敢えず礼を言う。
それを聞いたメリッサが「でもね」と話を続けた。
「バカと天才は紙一重ってのは、こういう事じゃないと思うんだ。あんたはどう思う?」
「はい…… すみません……」
「先が思いやられるね」
魔女にとって『魔』を研究し尽くす事は当たり前であり、その過程で誰かを騙し研究の糧にするなど、もはや日常の一部と言っていい。
そこについて、どう教えたものかとメリッサは頭を悩ませながら、シュンと落ち込んでいる可愛い弟子を見つめた。
◆綺堂 薊サイド
正直に言うと薊は迷っていた。
ゲーム知識で館の中心にボス部屋(研究室)がある事を知ってはいた、なので今まで何となく中心っぽい方向へと向かい歩いていたが行き止まりや別の部屋に行き当たる事ばかりだった。
「どうするか」
ゲームではボス部屋に近づくほどに化物が増えていたので、それを宛てにしてもいたのだが何処に行っても違いがわからない。
むしろ館に入ったばかりの頃より敵との遭遇が減っている実感さえあった。
薊は知らない事だが、これは薊が吸血鬼に近づいている事が原因である。化物達は基本的には自分より上位の化物を襲わない、本能的に強さを感じ取り逃げるからだ。
とはいえ、人間はどれだけ強くても襲われるが。化物の始まりは魔王が人間を減らす為に創った生物であり、遺伝子レベルで人間への敵意を植え付けられいるのだ。
「また厨房に来ちまった」
あれほど必死になって探していた厨房に、今は三度も来ていた。毎回違う道を選んでいるというのにだ。
探し物は探している時には見つからないが探さなくなった途端に見つかるものというのは今回当て嵌まるのだろうか。
「まるで迷路みたいだな……っ!」
思わず呟いた自分の言葉にはっとする。やっと薊は一つの打開策を思いついたのだ。
「左手の法則があるじゃないか」
迷路で御馴染みの壁に片手をついて歩けば、いずれゴールに辿り着くという法則だ。これで攻略出来ない迷路も多いらしいが、このダンジョンは迷路の難解さに重きを置いている訳では無いので攻略出来る可能性は高い。
「よし、ならさっそく」
自分の作戦が有用である事を確認した薊は、すぐに実行へ移した。だが───
ザクッ
壁についた左手を見れば槍が貫通していた。ダンジョンのトラップが発動したのだ。
トラップの存在を完全に失念していた俺は思わず天を仰いだ。
「マジかよ……」
このまま別の作戦に移行したいところだが、そんなものはない。
薊は出だしからトラップに引っ掛かるという不運に見舞われた『左手の法則』で攻略を進めることを決意した。
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