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◆雁野 来紅 サイド
「お嬢ちゃん、ここの好きな道具を使わせてやるから、代わりに弟子にならないかい?」
「っ! なりますっ!」
邪悪な笑みを浮かべたメリッサが質問してくる。
来紅は反射的に受け入れた。どうすれば、ここの武器を使わせてもらえるか考えていた来紅にとって、その提案は渡船だったからだ。
心地よい返事を貰ったメリッサは、さらに笑みを深めて話を進める。
「はっはっは、なら武器から選ぼうか。本来なら最初は知識を詰め込むもんだが、それは武器に呑まれないようにする為だ。お嬢ちゃんには必要なさそうだからね」
「ありがとうございます、メリッサさんっ!」
「いいんだよ。それより、あたしの事は師匠とお呼び」
「はい、師匠っ!」
そうして来紅が迷い無く選んだのは一本の杖。身長が百六十センチの来紅と変わらない程の長さだ。
その杖は先端から持ち手まで何かの骨を継ぎ接ぎで作られており、持ち手に付いている小さな頭骨が時折りカタカタと声無く嗤っていた。
正直、とても持ちやすい作りでは無い筈なのだが何故か、よく手に馴染んだ。
直感的に選んだが正解だったようだ。
「どうやら、いいのが見つかったみたいだね」
「はい。とても、いい子が」
そう言って来紅は艶っぽく息を吐きながら優しく杖を撫でた。
「なら、あたしの装備を取ったらさっさと行くよ。ここで授業をしてる余裕なんて無いからね、奴等の居場所までの道中で体に叩き込むよ。魔女の戦い方ってのをね」
メリッサはそう言うと、絨毯で隠してあった地下への階段の扉を開けて入って行った。
どうやら最初から自分のメイン装備を渡すつもりは無かったようだ。普段なら拗ねていたところだが来紅は気にしなかった。
なぜなら、この杖よりも自分に合う武器など存在しないと確信していたからだ。
「早く力を試したいな」
そして薊に褒めて貰いたい。強くなったなって、役に立つなって。
来紅の中には新しい欲求が産まれた。
「薊くん、私を使って……」
来紅は薊に自身の新しい感情を満たして欲しいと願っていた。
◆綺堂 薊サイド
数ある館の部屋で一室のみ数体のミイラが転がっている異質な部屋があった。
下手人は言うまでも無い、薊だ。
「化物は不味いな。いや、こいつらが腐ったり焦げたりしてるのが味の原因か?」
暫く続いていた渇きがヘンゼルの血を吸った事により、ある程度収まったので試しに化物の血を吸ったのだが大失敗だった。
若干、渇きは収まったのだが味は酷く、風味だけで吐き気を催す。正直、見た目と臭いで嫌な予感はしていたが、やはり味も最悪だった。
「食い意地なんて張るもんじゃねえな」
溜め息を吐いて脱力する。
それはそうと、薊は自身に新しい発見があったのだ。
以前、『始祖の心臓』を食べる事によって手に入れた固有スキルの【不死の残滓】が【不死の鼓動】に変化していたのだ。
ステータスで見たところスキルの効果に変化は無かった。変わっていたのは名前だけ、明らかに薊自身の体が変化しているというのにだ。
まあ、予想はついている。
恐らく自分は吸血鬼に近づいているのだろうと、薊は確信に近い気持ちを抱いていた。そして、それが好都合だとも。
『病みラビ』の世界で吸血鬼とは種族的に、かなり上位の強さを持ち、薊が食べた心臓の持ち主の『始祖』ともなれば最強格の種族であるドラゴンに並ぶ程の強さを持つ。
ヘンゼルとの戦闘後から何となくだが、戦闘と吸血を重ねる度に体が人外へと変化していくのが実感できた。
『病みラビ』の吸血鬼に銀や太陽、十字架が弱点になる場合はあるが、それは知能や力も獣と変わらない程度の『低級』と呼ばれる一番低いランクの吸血鬼のみだ。
それ以上の『下級』『中級』『上級』『始祖』ランクの吸血鬼達は人間と変わらない知能を持ち『低級』のように種族的な弱点も無い。そんな悪夢のような存在だ。
ステータスで種族を確認したところ、人間のままだったが変化するのも時間の問題と思われる。
今のところ、館に転がっていた十字架を触っても特に問題無かったので最低でも『下級』には成れそうだ。
「ペースを考えればボス部屋に着く頃には完全に吸血鬼になってるか?」
薊はザックリとした計算をするが、やってみないことには分からない。
成らなかったら、なるまで寄り道をすればいいか。
そう結論を出して歩きだす。
姿は変わっても目的は変わらない『魔女を殺す』。
ただ、それだけの為に前へ進んだ。
読んで下さってありがとうございました!