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ブックマーク50達成しました!
それどころか日間ランキングの異世界転移、転生部門のファンタジーで230位に入ってました!
ブクマや評価して下さった皆様、本当にありがとうございますm(_ _)m
◆雁野 来紅サイド
「着いたよ、ここが武器庫だ」
「つーん」
魔女のメリッサに「天然」呼ばわりされてから数分後、化物が出なかったからか、気が抜けていた来紅は、まるでここがダンジョンである事をことを忘れ平和な日常に居るかのように拗ねていた。
「はぁ。いつまで、拗ねてるつもりだい? あたしが悪かったから早く機嫌を直しておくれ」
メリッサは言葉に若干、冷静さを取り戻し膨れっ面のまま来紅は顔を上げた。
ここまで戦闘、索敵共に一切の出番が無く、化物が出てもメリッサが危なげ無く倒していた為、気が抜けていたようだ。少し反省する。
「私、天然じゃないのに……」
それでもブツブツ文句を言う程度には根に持っていたが。
「はいはい、分かったのから行くよ」
「はーい」
素っ気なく返事をしながらも身構えた。初見の部屋に入るのだ、いくら機嫌が悪いと言っても割り切って警戒するくらいの分別は来紅にもある。
それを見たメリッサは少し安心したように笑いドアノブに手を掛けた。
「開けるよ」
「お願いします」
武器庫の中には様々な杖や魔導書の数々。呪わしげな雰囲気を纏った品々は魔女の所有物であると納得がいく物ばかりだった。
「どうやら、ここは奴等の手が入っていないみたいだね」
「……」
メリッサは冷静にそう言うが来紅はそれどころではない。中に敵が居ない事を確認した後、来紅はそれらの品が放つ、暗く纏わりつくような禍々しさと、ある意味で純粋な在り方に見惚れていた。
来紅は自分の中に薊への異常な独占欲と執着心があることを自覚していない。それでも、無意識の内に武器達の禍々しさに自身の心の闇を重ねて親近感から恐怖心が薄れていた。
いや、それどころか───
「お嬢ちゃん。あんた魔女の素質があるよ」
「えっ?」
固まっていた来紅はメリッサの言葉で我に返る。どういう意味だろうか?
「魔女ってのは、ただ魔法を使う女を指す言葉じゃない事は知ってるね?」
「は、はい」
少し戸惑にながらも肯定する。この世界では割と常識的な話だった。
一般的に魔法を使う人間を魔法使いといい、そこに男女の違いは無い。魔女とは、ただ魔法を使うだけでなく、魔法を愛し魔法に愛された女性を言う。(男性の場合、魔人と呼ばれる)
世間では圧倒的な魔法の才能があれば魔法に愛されていると表現されるが来紅は、そこまでの才能が無い。故に戸惑ったのだ。
「いいかい? そもそも魔女の素質は魔法の才能がある事ってのが違う」
「そうなんですか?」
「魔女の素質ってのは『魔』そのものに好かれ、拒まない心なんだ。魔法の才能なんてのは道具や儀式で後付が利くからね」
まっ、才能もあるに越したことはないがね。と、メリッサはついでのように言う。
この話は初耳だった。だとしても、どうして自分に魔女の素質があるのかが分からない。疑問が顔に出てたのかメリッサが話を続ける。
「お嬢ちゃんが、ここの杖や魔導書を気に入ったのはすぐに分かった。でも、それだけじゃなかった。お嬢ちゃん、あんた『呼ばれた』だろう?」
ドクンッと、心臓が大きく跳ねた。
そうなのだ。来紅は禍々しい武器達に強く心を惹かれるだけでなく、武器達の己を呼ぶ声も聞こえていたのだ。自分達を使えという音なき声が。
メリッサに言われるまでは無自覚だったが、今はっきりと自覚した。自分は、この武器達を使いたい。いや、使わねばならない。
まるで武器達の禍々しさが乗り移ったかのように無意識の内、来紅の頬が吊り上がる。
それは、さながら御伽話の魔女のように。
「こりゃあ、いい拾いものをしたかもねえ」
そして、メリッサも嗤っていた。その顔は子の誕生を祝う母のようであり、獲物を狙う獣のようにも見えた。
◆綺堂 薊サイド
「なんで、こいつこんなに強いのさっ!」
薊とヘンゼルの戦いは、ほんの僅かではあるが薊が押していた。
現状を認め難かったのだろうヘンゼルから悪態が漏れる。
「どうした? 口調が崩れてるぞ?」
「うるさいっ!」
幼い見た目相応の言葉が返ってきた。ゲームでは追い詰められる程、仮面が剥がれ素の性格が出てきたものだが現実になった今でも、それは変わらないようだった。
「クソッ! グレーテルさえ居ればこんな事には……、あいつは何やってるんだ」
とうとう、ここにいない自分のパートナーへ暴言を吐き始めた。ダンジョンに入る時の幼気で優しげな口調は影も形もない。唯一感じる面影は表情が邪悪さだけだろうか?まあ、俺も人の事を言える顔ではないがな。
「ははっ。無様だなヘンゼル」
「っ! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇっ!!」
ヘンゼルが言葉に合わせて剣を振る。攻撃は単調この上なく、言葉でもタイミングを教えているため薊には、まず当たらない。
しかし、と薊は不思議に思う。
自分の中から不自然に力が湧き出てくるのだ。先程の単調な攻撃も、この力が無ければ薊は細切れにされていただろう。
そもそも薊は面倒な固有スキルを持ってるだけの直接戦闘力は低いタンク型の中ボスだ。状態異常に特化したダンジョンの、しかも片割れだけとは言え、やり込み要素である『不規則出現迷宮』のボスキャラなのだ。性能はそれなりにぶっ壊れている。
しかも同じ近接戦闘が得意な者同士、弱点を突いてる訳でも無く、薊は固有スキルさえ使っていない。今の状態は明らかに異常だった。
「まあ、強くなってるんだから問題ないがな。害と言えば幻聴が聞こえるくらいだしな」
「あっ? 何だよ」
「何でもねぇよ」
思考が口に出ていたようだ。そして戦闘中にする事ではないと思い直し、「殺せ、殺せ」と唆す幻聴に従いヘンゼルへ殺意を向ける。
薊は煩わしさを感じていた幻聴に心地よさを覚え始めていた。
読んで下さってありがとうございました!