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 読んで下さってありがとうございます!

雁野 来紅(かりの らいく)サイド








「お嬢ちゃん、こっちだよ」




 来紅(らいく)は今、魔女のメリッサに連れられて館を探索(たんさく)している。


 彼女は『元館の持ち主』なだけあって歩みに迷いが無く頼もしさを感じた。




「メリッサさん、何処に向かってるんですか?」




 厨房(ちゅうぼう)を出発する前にメリッサから館を(うば)った相手を共に倒そうと言ったので愚問(ぐもん)である事は百も承知(しょうち)だ。


 しかし、やはり知らない道を他人の先導て進むのは不安であることと、何か話していないと気まずい雰囲気(ふんいき)になる事が来紅に質問をさせた。




「ああ、言ってなかったね。いま向かってるのは武器庫さ」



「えっ!? 館を奪った相手のところじゃないんですか?」




 てっきり、そのまま敵に突撃(とつげき)すると思っていた来紅は(おどろ)く。


 それに、たしかにメリッサは魔女の格好をしてる割に杖を持っていなかったが今まで敵を一撃で倒していた為、杖で威力を上げる必要を感じなかったのだ。




「そりゃあ、そうさ。不意を突かれたとは言え、あたしは一度、敗けてるんだ。それなりの準備はするよ」




 考えてみれば、その通りだった。羞恥心(しゅうちしん)で顔が赤くなる。




「しかし、おもしろい娘だね。お嬢ちゃんみたいな子をなんて言うんだったか……。たしか天然だったかい?」



「私は天然じゃありませんっ!」




 頼りにしてる相手でも、これだけは(ゆず)れないとばかりに(さけ)ぶ来紅。


 彼女の天然は、今日も健在だった。















 童話の『ヘンゼルとグレーテル』を知っているだろうか?


 『ヘンゼルとグレーテル』は親に捨てられた子供達が自分達を食べようとした森の魔女を(かま)で焼き殺し、魔女の家にあった金品を持って家へと帰る話だ。


 そして、このダンジョンは、そんな『ヘンゼルとグレーテル』がモチーフのなっている。


 童話と違うのは、二つ。魔女が死ななかった事、魔女を窯に入れた二人が金品を持って家へと帰らず、そのまま館を乗っ取った、という事だ。


 これは当然の事だろう。自分を二度も捨てた相手の場所へと誰が()(この)んで帰りたいものか。


 そして、二人は自分達の居場所を手に入れる。


 このダンジョンは、そんな『当然の事』が実現したIFの場所だ。


 幼い子供が、やっとの思いで手に入れた自分達の居場所を守ろうとする。


 ただ、それだけの場所(ダンジョン)である。

 









綺堂 薊(きどう あざみ)サイド


 






 厨房から出た(あざみ)はボス部屋(工房)に向かう事にした。


 封印解除に失敗した場合、ゲーム通りなら主人公達を喰う事で回復した魔女は怒りのまま館を取り返す為に、そこへ向かうからだ。


 また、ここではボス戦以外で有用なアイテムも手に入らない。立ち止まれば雑魚に群がられるので、さっさと進む事にした。




(のど)(かわ)くな」




 何故かは分からないが厨房をでた辺りから無性(むしょう)に喉が渇いた。そして渇きと比例するように幻聴(げんちょう)も聞こえるようになった。


 殺せ、復讐(ふくしゅう)を果たせ、渇きを満たせ、と。


 ゲームで、こんな事は無かったので理由は分からないが、どうでもいい。魔女を殺すのに不都合は無いのだから。




「ねえ、お兄さん。こんなところで、どうしたの?」




 背後から聞き覚えのある少年の声が以前と同じセリフを言っていた。違うところは少年が、もう一人の少女と二人同時に喋っている訳では無く、一人で喋っている事だろうか。




「よお、会いたかったぜ。ヘンゼル」




 振り向くと、そこに居たのはダンジョンへ俺達を連れ込んだ双子の片割れだった。あの時のように操られる心配は無い。何故なら、そういう()()()なのだから。




「魔女の場所を教えろ」



「それは僕が聞きたいな。そのために、ここまで来たんだし。それと何で僕の事を知ってるの?」




 こいつの名前はヘンゼル。魔女から館を奪った内の一人であり『お菓子な魔女』におけるボスの一人でもある。


 どうやらヘンゼルも魔女を探しているようだった。そして、まだ魔女はボス部屋には着いてないらしい。なら、こいつに用は無い。




「そうか、じゃあな」




 俺はヘンゼルを無視することにした。すると───




「待ってよ、お兄さん。約束通りお茶を用意したんだ、ゆっくりしていってよ」




 その言葉に俺は剣を握る拳に力を込める。それはヘンゼル達の戦闘開始のセリフであり───




 ギィィン──




 金属同士がぶつかる硬質な音が響く。




「あれ? どうして分かったの?」



()()()()()()()



「このセリフは今日始めて言ったんだよ。訳が分からないや」




 剣を振り降ろした体制のヘンゼルは困惑顔だ。


 あのセリフは奇襲の合図でもある。ゲーム知識で知っていたので防げない理由は無い。




「まあ、いいや。今ちょっとムカついてるんだよね。だから死んでよ」



「はっ。お前が死ね」




 俺は鼻で笑ってヘンゼルを押し返す。上等だ、こいつを斬れば渇きが収まる気がする。魔女の前に肩慣らしで殺してやろう。


 それに、こいつに会ってから幻聴がうるさくなっている。今も殺せ、殺せと馬鹿の一つ覚えのように永遠と鳴り響いていた。お望み通り殺してやれば少しは収まるかもしれない。


 そしてヘンゼルに斬りかかる。


 最初は戦うつもりの無かった俺だが、いざ始まると不思議と心が踊る。手足は軽く、あれほど辛かった霧の苦痛など微塵(みじん)も感じない。



 そして、俺は気づかなかった。自分の眼が前世と同じ黒から来紅(らいく)の眼より深く鮮やかな紅へと変わっていることに。

※ゲーム時代も武器庫には行きますが手に入るのは魔女用装備だけでなので主人公には使えません。



 読んで下さってありがとうございました!

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