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なんとか『病みラビ』を全クリして眠りについた翌日、目を開けると見覚えのない天井があった。
「は?」
周りを見れば見知らぬ壁、買った記憶のない家具や服。何が起こっているのか分からず呆然としていたが何も変わらなかった。
俺は家に上げてもらえるような友人はおらず、親兄弟とは縁が切れている。彼女など産まれてから一度も出来たことはない。故に、ここが誰かの家という可能性は限りなく低く、周囲を見たところ病室でもなさそうだ。
明らかな異常事態に「知らない天井だ」と、巫山戯る余裕などなく、俺は酷く混乱した。
そうして頭を「?」で埋め尽くしていると、一つの現実逃避が出た。
「なんだ夢か」
それなら深く考える必要もない。夢だと自覚してる夢なんて貴重な体験なのだから、今を満喫しようと気持ちを思い込ませる。
さて、まずは何をしようか。
と考えながら周りを見回していたら大きな鏡が目に入った。
取り敢えず、今の自分を確認しよう。夢ならば現実の俺と違う理想の俺になっているかもしれない。
そうして、軽い気持ちで鏡の前に立つと尋常ではない極悪顔が映っており、驚きのあまり床に尻もちをついてしまった。
「痛っ」
そこで、自分の思考に違和感を覚える。これは夢のはずだ、ならなんで痛いんだ?
不審に思い、頭を必死に回転させていると、だんだん覚醒してきた頭が最悪の可能性を思いつく。
これは夢ではないのかもしれない、その上───
「嘘だろ」
もう一つの最悪の可能性を否定するため、もう一度鏡を見れば、そこには先程の凶悪な顔をした男が映り俺と同じ動きをしている。
そして、その顔には見覚えがある。
寝る直前までやっていたゲームの悪役の顔だ。
「夢ならさめてくれ……」
◆
ひとしきり世界の理不尽さに嘆いた後、それなりに冷静さを取り戻してから僅かに残った希望に縋るため、色々と検証してみることにした。
定番の頬を抓るやつから、家中あさって身分証を探したりした。結果、全て無駄に終わったが。
検証の結果は、まず夢だという可能性は消えた、痛みだけでなく五感全てがリアルすぎるからだ。次にVR世界の可能性も同じ理由で消える。なので俺は現実だと渋々認めた。
そして、見つかった身分証から俺がゲームキャラということも確定した。
最悪の気分だ。
たしかに俺はゲーマーだし、好きなゲーム世界に入りたいと願ったこともある。チートを持った主人公なんて贅沢は言わない、お馬鹿な友人キャラや厨二臭漂うライバルキャラ、それどころか背景に等しいモブキャラでも構わなかった。
そう思っていたのだ。
俺が転生した悪役キャラ、綺堂 薊は『病みと希望のラビリンス☆』という学園シュミレーションRPGにおいて、嫌われ者の代名詞であり、全てのルートで確実に死ぬ男の名前であった。
『病みと希望のラビリンス☆』、通称『病みラビ』とは、他に類を見ないほど鬱展開を詰め込んだエロゲーのタイトルである。
可憐なヒロイン達、美麗なグラフィック、自由度の高い戦闘システム等と、このゲームは膨大な予算と時間を注ぎ込んだだけあって魅力に溢れているのだが、今は関係ない。
重要なのは俺が憑依した綺堂 薊が、このゲームでの役割だ。
いわゆる『悪役キャラ』である。
面倒臭がり、癇癪持ち、都合が悪くなれば人のせいにする。
故に登場人物達は勿論、プレイヤーにも一番嫌われている。おまけに、綺堂薊の能力は復讐対策に優れていて周りも迂闊に手が出せない。
そんなストレス発生装置のようなキャラなのだ。
ちなみに、顔が似ているだけの別人という事もなかった。身分証が見つかったからだ。俺が転生する前の綺堂薊は一人暮らしだったようなので同居人に怪しまれる事なく隅々まで探したが無駄に終わった。
「そもそも何でコイツなんだよ。もっと他にいるだろ」
口に出すと、収まったはずの理不尽に対する怒りが再び湧き上がってきた。
「原作崩壊なんて関係ない。絶対に生き延びてやる!」
腹を括った俺は、生き残るための作戦を考え始めた。
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