15
読んで下さってありがとうございます!
◆綺堂 薊サイド
どうすれば来紅を助けられたのだろうか。
嘆き、悲しみ、後悔、そして絶望。
思考の大半が負の感情に呑み込まれ虚無感に支配されていく中、僅かに残った理性で鈍く考える。
ダンジョンの入口で来紅の手を離してしまった事が悔やまれた。
思い上がりかも知れないが俺と一緒に居れば、こんな事態は防げた可能性はある。
いや、不規則出現迷宮にいると気づいた時点で来紅に、すぐ事情を説明するべきだった。たとえ、どれだけ強引になろうとも。
そうすれば来紅は今も生きていたかも知れないのだから。
ダンジョンへ侵入する時、一定距離内に居ればダンジョンはパーティーとして認識し二人一緒に入れたのだ。
そもそも俺がもっと強ければ今の状況からでも来紅を助けられた。
ああ、これらすべてIFの話であり、俺がいくら後悔しようと来紅は戻って来ない。そんな事は分かっている。それでも後悔せずにはいられない。
俺の叫びと周囲に充満する血の香りに引き寄せられた化物達が俺に群がる。
普段は忌避の対象でしかない苦痛が今ばかりは心地いい。
俺は化物に喰われる苦痛を味わう事で無意識に来紅への贖罪をしてるつもりなっているのだろうか。
だとしたら俺は何と馬鹿な真似をしているのだろうか。
そんな事をしても来紅への贖罪にはならない。来紅はもう、いないのだから。
どこまでいっても、ただの自己満足だ。
俺に群がる化物が増えてきた、そろそろ自然回復で追いつかないダメージ量になる。
このまま死ぬのもいいかも知れない。
色々と未練は残っているが一番の未練は取り返しがつかない事であるし、何より死にたかった。
積極的に死にに行くような自殺をする程の気力は無いが今のように流れに身を任せる消極的な自殺なら出来そうだ。
そのまま目を閉じようとした時、赦し難い光景が見えた。
「おい、お前……」
ある一匹の化物が石窯へと近づく。いや、正確には石窯に向かってる訳では無い。そいつは───
「来紅に近づくんじゃねぇぇぇっ!!」
来紅の唯一、残った指を食おうとしていた。ふざけやがって。
俺の心を包んでいた虚無感は一瞬で消え去り一つの目的が産まれた。
「どきやがれ、【報復】っ!」
俺に噛み付く化物達を固有スキル【報復】でダメージを与え怯ませ距離を取った後、『応報の剣』を持ち、刃を寝かせ己の体を一回転し周囲の化物を斬り殺す。
「死ねっ!!」
両手剣形態のまま『応報の剣』を視線の先にいる不届き者へ投げつける。
前世は勿論、今世でも剣を投げるのが初めての俺が相手を串刺しにするなんて器用な事が出来る筈も無く、回転しながら飛んだ剣は柄を目標の腹に当てる事で地に落ちた。
まあ、いい。最低限の目標は果たした。
「オラァッ!」
剣を腹に受け蹲っていた化物の頭を踏み潰す。
ゴシャッ───
湿り気を纏った硬い物が潰れる音がする。
まだだ、この程度で終わらせる筈が無い。
ゴシャッ、グシャッ、グチャッ
丁寧に頭を潰していると骨を潰す音が消え血と頭蓋の中身が潰れる粘着質な水音だけが遺った。
体が熱い、心臓が燃えそうだ。どこから、ともなく敵を殺せと声が聞こえる。
「だが、悪い気分じゃない」
来紅の指を優しく拾い上げると来紅から貰ったポーションビンの中へ入れ懐に仕舞う。もう二度と傷つけさせない覚悟を決めて。
「安心しろ、俺が守るからな」
次に来紅と会ったら言おうと思っていた言葉を指へと語り掛ける。やっと会えたな来紅、心配したんだぞ。
微笑もうとしたら頬が歪に引き攣った。
俺は壊れてしまったのだろうか? いや、どうでもいいか。何故なら────
「今度こそ離さないからな」
何故なら、ずっと友達といられるのだから。他に何もいらない。
俺は、魔女への復讐心を胸に化物の殲滅を始めた。
◆
多くのファンタジー作品において吸血鬼とは不死の代名詞である。
脳や心臓を破壊されても生きてるなど序の口で作品によっては銀や太陽が弱点にならない事すらある。
それは、この世界『病みと希望のラビリンス☆』においても同様で、吸血鬼の原種である始祖ともなれば心臓だけになったとしても他の目を欺き生き永らえる程だ。
そして『病みと希望のラビリンス☆』は、すでにゲームでは無く、現実となった。この鬱展開しか存在しないゲームがだ。
ならばゲーム時代には無かった未来があったとしても不思議ではない。
たとえば、心臓を喰われ綺堂 薊の糧となった始祖吸血鬼が蘇る事があったとしてもだ。
主人公の精神は崩壊寸前です。復讐心で無理矢理、体を動かしています。支離滅裂な言動をしてる事に気づいていません。
読んで下さってありがとうございました!