14.5
0時頃にもう一話更新します!
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◆雁野 来紅サイド
薊が厨房に突入する十数分前。
「お嬢ちゃん、ありがとね。本当に助かったわ〜」
助けた魔女(?)は滅茶苦茶フランクだった。
魔女(?)は傷が治った直後こそ湧き出す憎悪のまま誰か来紅の知らない相手に罵詈雑言を吐き出していたが落ち着いたと思ったら急に人懐っこい笑顔となり感謝を告げて来た。訳が分からない。
「あたしは魔女のメリッサって者だよ。それはそうと、さっきはごめんね。腕ごと食べちゃったろ?」
『魔女(?)』改め『魔女のメリッサさん』は腕ごと食べた事を謝ってきた。あれは痛かったし、何より悍ましかった。
今まで自分の血をポーションとして売り、今日は何度も化物に体を喰われて来たが、やはり目の前で自分の体を喰われ、嚥下する光景を見るのは辛い物がある。
自分の意思で喰われるのと他人の意思で喰われるのは違うのだ。なんなら食べ残しの指が落ちてるのも何か気に入らない。
まあ、普通なら謝って済む問題では無いが自分は問題ない。
「大丈夫ですよ、私なら」
ほら、この通り。何て言いつつ残り少なくなった右腕を何度か齧る。それで傷は無くなった。まあ、すぐに霧の影響でダメージを受けたが。
「まあっ! 凄いね〜、固有スキルかい?」
「そうですよ、他の人には言わないで下さいね」
魔女にバレるのは覚悟していた事だが、これ以上広まるのは避けたい。故に口止めした。
「わかったよ、命の恩人のお願いだからね。他言無用にしとくさ」
その言葉に少し安心する。やはり言葉だけの保証だったとしても無いより遥にマシだ。
「そうだっ! お嬢ちゃんにお礼しなくちゃね。先ずは、この厄介な霧を何とかしてあげるよ」
パチンッ───
メリッサが指を鳴らすと来紅を青い光が包み込み憎たらしかったを霧を弾いた。何これ、すごいっ!
「ありがとうございます、メリッサさん」
そう言って本心から頭を下げる。あの霧から守ってくれるなら腕の一本くらい安い物だ。何処に行っても付き纏って来る鬱陶しさは本当に困っていた。
「いいんだよ。それより、ここから出たいんだろう?」
「そうなんですっ! メリッサさんも、ここに閉じ込められてるんですか?」
正直、向こうから本題を振ってくれて助かった。
徐々に心を許している自覚があるとは言え、よく知らない相手に自ら弱みを晒すのは気が進まないからだ。
まあ、最初にかなりボロボロの姿を見られている上、固有スキルを握られているので今更かも知れないが気分の問題だ。
「いや、あたしは少し違うよ」
「どう違うんですか?」
自分の意思で残っているのだろうか? だとしたら、それが原因で石窯の中で死にかけた可哀想な人という事になる。脱出に協力してくれるならありがたいが、あまり頼りになる人では無いのかも。
と、失礼極まりない事を考えていると予想外の言葉が飛んで来た。
「あたしは、この館の本来の持ち主さ。ちょいと前にクソみたいな奴等が来てね、奪われちまったのさ」
「ええ!? そんなあ……」
ショックだった。この地獄のような場所を創ったのがメリッサだと聞いて。さっきまで気さくな近所の優しいお婆ちゃんのように思っていたのに。
勝手なイメージを押し付けていた事は百も承知だが、それでも裏切られたような気持ちは拭えない。
「言っとくけど、あたしは霧だの化物だのは知らないよ。奴等が館を奪ってから現れたんだ」
「そうなんですね、ごめんなさい。それと、よかったです」
ギロッと睨みながら否定された。
本当によかった。薊がいない今、唯一頼れる相手がメリッサなのだ。全面的に信用する訳ではないが、それでも最低限の信用は出来そうだ。
「あたしも説明の仕方が悪かったから気にしないでおくれ。さっ、本題に戻るよ」
「わかりましたっ!」
必要な事だったとは言え、自分が話を脱線させた自覚はある。なので、ここは素直に従う事にした。
「あたしは魔法使いだ。攻撃魔法が得意だよ、単体攻撃よりも範囲攻撃の方が得意だね」
「範囲攻撃が得意なんですかっ!? すごいですねっ! 私は少し回復魔法と強化魔法を使えます。 化物から逃げてた時も『スピード・アップ』を自分に掛けてました」
思ってた以上に頼もしかった。範囲攻撃できる魔法は中々、覚えられる物ではない。それが得意だと言うのなら単体攻撃魔法も相当強い筈だ。
「なるほどね。二人共、後衛とは言えアタック役とサポート役が揃った訳だ。ここから出るには、どの道あたしから館を奪った連中を倒すしかない。どうだい? 目的が一緒なんだ。あたしと組んで敵を倒そうじゃないか」
「お願いしますっ! あっ、もう一人ここに閉じ込められてる人がいると思うんです。その人も一緒を探すのを手伝って貰えませんか?」
薊を探す事は譲れない。ここに入って来るのを見た訳では無いが状況から考えて、いる可能性の方が高いだろう。
「はいよ。なら、お嬢ちゃんの言う相手も探しながら行くとするかね。それと、いつまでもお嬢ちゃんじゃ締まらない。お嬢ちゃんの名前を教えてくれないかい?」
「私は雁野来紅と言います。ごめんなさい、言い忘れてました」
いいよ、いいよ。と、軽く言いながら冷蔵庫を退かし始めた。
許してくれた事に感謝しながらも、冷蔵庫を退かしている事に少し驚く。
「えっ!? もう出発するんですか? 私、MPの残りが少ないんですけど……」
「ここも何時まで安全か分かったもんじゃ無いからね。攻める時は自分から行くに限るさ。まさか、ここで一眠りする訳にもいかないだろう?」
正論だった。確かに私は、この扉の防御力を過信していた。ましてやMPが回復するまで眠るなんて、とんでもない。
「うっ、そうですね。行きましょう」
「決まったね。なら行くよ、お嬢ちゃん」
結局お嬢ちゃん呼びじゃないですか! と、言う来紅のツッコミは聞き流され冷蔵庫の移動は終わった。
「準備はいいかい?」
「大丈夫ですっ!」
来紅の返事と同時に扉が開かれた。化物達が部屋に押し寄せて来る。来紅は恐怖に身を竦ませるが、メリッサは冷静に呪文を唱える。
「『ミアズマ・サイクロン』」
目の前に黒い嵐が顕現した。数秒後、嵐が消えた後には視界内の化物達が一掃されていた。
思わず出口から身を乗り出して外を見れば化物達が逃げて行くところだった。
「すごいっ!すごいです、メリッサさんっ!」
「はっはっは、それ程でもあるよ。さっ、あっちから見て回るとしようか」
「はいっ!」
来紅は元気よく返事をしてメリッサについて行った。薊のいる道とは逆の道へと。
※薊(主人公)はメリッサの戦闘音に気づいてません、自分の戦闘音がうるさくて聞こえ無かった為です。
そして、メリッサと来紅も自分の戦闘音で薊の慟哭が聞こえませんでした。
読んで下さってありがとうございました!