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今日は二話投稿予定です。十四時頃にもう一話投稿し、明日の零時頃にも更新します。
読んで下さってありがとうございます!
◆雁野 来紅サイド
来紅は今、謎の黒い塊に捕らわれている。
いや、よく見ると黒い塊は魔女のように見える。
おおきな三角帽にゆったりとしたローブ、高い鷲鼻は御伽話で出てくる魔女そのものだ、シルエットはだが。
だが、黒い。三角帽もローブも鷲鼻も、それどころか眼孔から口内まで焼け焦げて、全身黒一色だ。
そして、その魔女(?)は本来なら眼球があるであろう窪みを、こちらに向けて何かを喋ろうとしていた。
「イ゛…タ゛……」
ミシッ──と骨が軋む程に強い力が来紅の肩を握る手に込められる。イタ?「痛い」て言いたいのかな? でも正直、痛いのは私の方だ。
どうする? と来紅は自問自答を始める。目の前の魔女(?)から痛みを取り除くのは簡単だ。しかし問題は、その後。来紅は固有スキル【泡姫の献身】を今まで誰にも明かした事はない両親や、この世で最も大切な綺堂 薊にすら言っていない。(まあ、薊に言ってないのは他の人とは少し事情が違うけれど)
この固有スキルのせいで来紅は生きる回復アイテムとなっている。そして、その回復効果は他人は勿論、化物どころか来紅自身も享受する事が出来る。来紅の血肉を口からの摂取しさえすれば。
つまり、来紅を削り回復アイテムを得て、死にかけたら来紅自身に削った肉を食わせれば永遠に回復アイテムが量産出来る。
このスキルが世間にバレた未来を考えた時、恐怖に震え何度も神を呪ったものだ。
だが、最近は感謝する事さえある。何せ【泡姫の献身】のお陰で薊と出会え、この館で生き延びる事が出来たのだから。
しかし、どんなに良い事があろうと、【泡姫の献身】の露見に大きなリスクがある事に変わりはない。
来紅は色々考えて結論を出した。
「痛いんですか? ちょっと待って下さい」
悩み抜いた末、来紅は目の前の魔女(?)を治療する事にした。
元々、選択肢なんて合って無いような物だ。なにせ密室で謎の相手に捕まっているのだ、唯一の出口の前にある冷蔵庫は簡単に動かせる代物ではなく、そんな物を悠長に動かしてる時間を与えてくれる筈も無く、仮にあったとしても扉の外で待機しているであろう化物達に喰われ尽くすのが落ちだ。
「これを食べて下さい」
そう言って来紅は石窯の蓋を開けた拍子に取れかけていた指を引き千切り目の前の魔女?に差し出した。ついでに自分も肉の一部を食べて回復しながら。
ここで出し惜しみするよりも恩を売る方が生き残れる確率が高いと信じて。
「ア、アァァァ」
来紅が言葉を言い終わるや否や魔女(?)は差し出した指に齧りつく、持っていた来紅の腕諸共に。
「ッゥゥ!!!」
覚悟はしていた。そして今日は幸か不幸か、いま以上の痛みを何度も味わっている。歯が砕けるほど食いしばり、何とか声を抑え込んだ。ここで下手に相手を刺激して殺されでもしたら今までの苦労が水の泡となるのだから。
ガリッ、ボリッ
そのまま肘あたりまで食い進めた魔女(?)は、やっと顔を引いき、口に残った来紅の一部を嚥下した。
効果は劇的だった。
炭化していた腕には肉と皮が蘇り、黒く窪んだ眼孔には憎悪に燃えた瞳が現れる。
その眼は悪鬼のソレで、その眼を見た瞬間、来紅は己の末路が予想出来た。
「薊くん……」
万策尽きた来紅は最愛の人の名前を呟いて、ゆっくり眼を閉じた。
◆綺堂 薊サイド
「来紅…… どこにいるんだ来紅っ!」
薊は焦っていた。来紅がいつま経っても見つからない事に。そして、どんどん増える化物達に。
しかし、と薊の僅かに残った冷静な思考が語り掛ける。
化物の増援はダンジョンに入ってからずっとあったが、ほんの少し前からの異常に増えた。それも様子が普通では無い。まるで何かから逃げるように必死に走って来る。
「それに放置も出来ないんだよなあ」
化物共が何かから逃げてるのだとしたら放置すれば勝手に横を通り抜けるのでは? と思い一度、放置しようとしたところ普通に襲ってきた。面倒すぎる。
「クソがっ! ダーク・スラッシュッ!!」
鬱憤を晴らすように化物へ魔法を放つ。ちくしょう、MPも少なくなって来た。そして、俺にはMPを回復する手段が無い。一晩寝て起きたら回復するが勿論そんな暇は無い。
「っ!?」
毒霧と剣の呪い、そして戦闘で文字通り身を削りながら前に進んでいると突然、化物の増援が突然、減った。
正確には手強かった化物、つまりは来紅を喰って回復したであろう化物達が一切いなくなった。
「嫌な予感がする……」
加速度的に増していく焦燥感に煽られるように足を急がせる。
その先で俺が見た物は───
「嗚呼ぁぁ……」
開け放たれた金属製の扉。
周囲に散乱する化物の破片。
魔女の封印が解かれた石窯。
「ぁぁァァァ……」
そして、石窯の傍に落ちている人間の指。その指は傷ついて尚、白魚のように美しい。
状況を考えれば認めるしかない、あれは来紅の指だ。なにせ眼に映る光景はゲームで魔女の復活に『失敗』した際、入手できるイラストそのままだったのだから。
「ア゛ア゛ア゛ァァァァァァッ!!!」
周囲には俺の慟哭が響き渡った。
読んで下さってありがとうございました!
今日は二話投稿予定です。十四時頃にもう一話投稿し、明日の零時頃も更新します。