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 読んで下さってありがとうございます!


綺堂 薊(きどう あざみ)(主人公)サイド








「ダーク・スラッシュ」




 俺は自分のもつ数少ない攻撃魔法で化物(モンスター)を牽制しつつ敵を両手剣形態の『応報(おうほう)の剣』で切り捨てる。


 こんな事なら露店で『妖精の祝符(しゅくふ)』を買って置くべきだった。あれさえあったら俺の雑魚(へっぽこ)な攻撃魔法も敵を狩れるレベルになったかも知れないというのに。




後悔(こうかい)しても仕方ないか」




 過去を悔やんでも何も変わらない。いま出来る事をしよう。


 気持ちを切り替えた俺は来紅の捜索を再開する。




「ここも違う」




 実は俺が探しているのは来紅だけでは無く、この館の厨房も探していた。


 腹が減ってる訳では無い。そこには『お菓子な魔女』を攻略するために必要不可欠の要素があるのだ。


 だが俺の知識だけでは手に入れる事は出来ない、来紅に協力してもらわねばならないのだが、問題は俺が本来なら誰も知らない『お菓子な魔女』の攻略法と来紅の固有スキルである【泡姫(あわひめ)献身(けんしん)】を知ってる前提で話さなければならない訳で、そこが悩み種だ。




「まあ、何とかするしかない」




 出来なければ二人共、死ぬ。


 俺は頭に浮かんだ最悪の結末を現実にしない為に走る速度を上げた。








雁野 来紅(かりの らいく)サイド








 化物(モンスター)達から逃げているとお菓子で出来た他の部屋とは明らかに違う金属製の扉で出来た部屋が目に入った。


 あそこなら化物達の攻撃を(しの)げるかも知れない。だが、異質な部屋だ。トラップや強敵がいる可能性もある。いや、ここは地獄のような場所だ。むしろいた方が自然でさえある。だが───




「入るしかないよね」




 来紅(らいく)には選択肢など存在しなかった。


 自分の一部を喰らう程に身を癒やし、追って来る速度を上げてくる化物(モンスター)達。


 それだけでは無い、敵の数もどんどん(ふく)れ上がっていた。最初は数匹だったが、今は後ろを見れば数え切れない。


 先頭の化物達が霧のダメージで流れた血を()める為に足を止めていなければ、来紅はとうの昔に骨も残さす喰い殺されている。


 また、挟み撃ちにされる事が増えて来た。


 後ろから来る化物以外は朽ちかけた見た目、相応に動きが遅いので今のところ何とかなっているが運に見放されたらお仕舞(しまい)のギリギリ回避を続けている。




「お願い、開いて」




 金属扉の前に来た来紅は取っ手を握り思いっ切り回した。ここで開けるのに手間取ったり、そもそも鍵が掛かっていたら死ぬしかない。


 祈るような気持ちで扉を押すと意外とすんなり開いた。


 直ぐに部屋の中へと入り扉を閉めた。追われてた時に、ずっと聞こえていた(うな)り声や足音が止んだ。


 扉には、そもそも鍵が付いていないようだったが自分を追って来た化物(モンスター)達の中に人型や頭の回りそうなのはいなかった為、少し安心し胸を撫で下ろす。




「……ガァァァッ」



「ひっ」




 聞こえて来た咆哮(ほうこう)に僅かな安心感は吹き飛び、来紅は慌てて扉の(つっか)えになるような物を探す。




「これがいいかな」




 下に小さなタイヤが付いてるタイプの大きな冷蔵庫があった。


 かなり重いが動かせ無い程でも無くタイヤのストッパーを解除して扉の前まで移動しストッパーを固定した。


 本当はタイヤを破壊して冷蔵庫を完全に固定したいが、そうすると自分も出られなくなる上、(あざみ)が来てくれた時、入って来れないので諦めた。




「これで一先(ひとまず)は大丈夫そうかな?」




 ここの扉は内開きである。


 これでやっと本当に一息つけるかな。そう思っていた矢先に───




「……ガァァァァァッ」




 思わずビクリとする。


 一度目は慌てていたせいで気が付かなかったが今なら分かる。この声は部屋の内側から聞こえてる事に。いや、そもそも扉を閉めた時に外の音は聞こえ無くなっていたのだ。その時点で中から聞こえてる事に気づくべきだったなと少し反省。




「でも、どこから?」




 見たところ部屋の中に敵はいない。


 隠れる場所もあるが隠れているのなら、わざわざ声を上げたりしないだろう。知能が低い獣ですら分かる事だ。




「……一応、探してみようかな。何かあると怖いし」




 放置と探索で、かなり迷った来紅だったが探索を選択。それに、ここは厨房のようだ。ついでに武器も探そう。


 そう思って来紅は動き始めた。


 手前には武器になりそうな物は無かった為、奥にあった流し台へ向かい包丁を手に入れる事にした。




「ダ…ガァァァァッ」




 包丁を手に入れた直後、また聞こえた。


 しかも、今までは聞こえなかった部分も聞こえた。どうやら人の言葉を話しているらしい。




「あれは、お(かま)かな?」




 厨房の最奥にはパンを焼くような石窯(いしがま)があった。どうやら、そこから声が聞こえるらしい。


 あの声が響くのに合わせて石窯の蓋が振動しているので間違い無いだろう。


 だが、あの石窯は火が付いてる状態だ。数メートル離れている来紅でさえ熱気を感じる程の。普通なら中に人が生きてるとは思えない。


 中にいるのは、ほぼ間違いなく普通の相手ではないだろう。だが───




「タ゛レ゛カ゛ァァァァァァッ!」




 その言葉を認識したら来紅は動かずにはいられなかった。


 来紅は本来困ってる人を見捨てられないタイプの人間だ。自分の心に余裕が出来た今、動かないはずがなかった。




「いま助けますからねっ!」




 中にいるであろう相手に声を掛けながら石窯に付いている(かんぬき)を外して蓋を開けた。蓋を開ける時、指の一部が焼け剥がれたが今更、痛みは気にならなかった。


 そして、開けた瞬間。中から黒い塊が飛びたして来紅をガッシリと掴んだ。




「あ、う」




 恐怖でまともな言葉が出てこない。相手の握力は強く、とても逃げられる力ではなかった。


 失敗したな。そして来紅は石窯を開けた事を後悔した。

 来紅は『厨房内は外の音が聞こえない=薊が来ても分からない』という事に気づいていません。慌ててた+天然なので。




 読んで下さってありがとうございました!

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