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 読んで下さってありがとうございます!

 俺は今、双子に連れられて森の中を歩いていた。


 最初は薄暗い廊下のような道を歩いていたのだが、少し歩いてから突然、景色が切り替わり辺り一面森になった。


 この森は禍々(まがまが)しかった。


 木の幹は赤黒く、葉は紫。空を飛ぶ鳥たちは腐敗(ふはい)して骨が見え隠れしている。


 地面には無数の十字架が突き刺さり、野ざらしの髑髏(しゃれこうべ)が散らばっている。



 だが、この禍々しさ当然だ。俺は魔女の館に向かっているのだから。


 ここのダンジョン名は『お菓子(かし)な魔女』。ファンシーな名前に反して毒や瘴気(しょうき)を操る魔女の住処である。




「「見えてきた。あそこが、お婆さんのお家」」




 考え事をしている間に到着したようだ。


 目の前にはお菓子の館があった。ケーキの屋根にクッキーの壁、飴細工の窓。甘い香りに食欲を刺激される。


 (うごめ)く謎の黒い液体が掛かっていなかったらの話だが。




「「さあ、入って。私達はお茶を用意してくるから」」




 双子の声に合わせて触れていない筈の扉が独りでに開く。中からは強烈な甘い臭いに混じり、腐敗臭や焦げ臭さが(ただ)う。反吐(ヘド)が出そうだ。




 グチャ───




 一歩、踏み入れれば粘着(ねばつ)く感触と共に不快な音が響いた。


 館の中に紫色をした毒々しい(きり)が満ち始める。


 霧に触れた肌が痛い、目が溶けそうだ、呼吸するだけで体内が()かれたように熱い。全身が毒に侵されているのを感じる。



 これは、ここのダンジョンの特性で『一ターンor十歩毎に最大HPの十%ダメージ』を与える『魔女の毒霧』。現実となった今では『十秒毎に最大HPの十%ダメージ』となるだろう。


 対策をしていなければ、まともに攻略出来ないにも関わらず出現は完全ランダムという開発者の悪意から産まれた特性だ。


 だが、俺は固有スキル【不死の残滓(ざんし)】の効果で『十秒毎に最大HPの三十%自然回復』で相殺(そうさい)されるので問題ない。身体を()かれるような激痛を除けばだが。


 ここで、やっと体が自由になった。


 早く来紅(らいく)を見つけて脱出しなければ。


 そんな思いを抱いて俺の探索は始まった。








雁野 来紅(かりの らいく)サイド







「はぁ、はぁ──」




 来紅は走っていた。襲い来る腐敗した蛇や鳥、焼け焦げた蜥蜴(とかげ)化物(モンスター)達から逃げるため。


 来紅は勿論、化物達も必死だった。


 当然だ。喰えば自身の傷が治り、徐々に朽ちていくしか無かった己を延命出来るのだから。魔女の呪いによって生かされているが、限界がある。それに、永遠と感じる痛みが和らぐのだ、襲わない筈が無い。


 本来なら死んでいる筈の化物達は並の生物より(はるか)かに生に貪欲(どんよく)だった。



 一方、来紅も同じ程度に必死だ。


 霧に身体を灼かれては己の肉を喰らって傷を癒し。


 トラップで腹が裂け中身が(こぼ)れ落ちれば傷を癒しながら、腹から零れた()()を引き千切り囮として投げ捨てた。


 これでは、どちらが蜥蜴が分からないなと自嘲(じちょう)する。


 今の自分は(はた)から見れば無様を(さら)して無駄な足掻(あが)きをする愚か者だろう。人によっては苦痛を長引かせるだけだ、と言われるかも知れない。それでも──





「それでも、死にたくないなあ」



 

 もっと(あざみ)くんと、一緒にいたい。その為には死ぬわけにいかない。


 薊とは喧嘩(けんか)別れのような形になったが、きっと大丈夫。彼は優しいから助けに来てくれるはず。


 自身にそう言い聞かせ必死に逃げ続ける。




「薊くん、私もう怒ってないよ。だから助けに来て……」




 いつか薊が助けに来てくれる、そう信じて。








綺堂 薊(きどう あざみ)(主人公)サイド








「オラッ」




 俺が剣を振るうと出現した化物(モンスター)達は絶命していった。


 この剣は以前に『呪いの刀剣専門店』で買った物で『応報(おうほう)の短剣』という(めい)だ。


 この剣には『両手剣形態と短剣形態が選べる』能力と『物理攻撃力を二百%上昇』させる効果がある。念の為、この剣は短剣形態で服の中に隠して持ってきていたので助かった。


 俺の貧弱な火力でも三倍にすれば、それなりにダメージは出る。まあ、デメリットで『十秒毎に最大HPの十五%のダメージ』があるのだが。


 いくら『HP自然回復』の特性で霧を含めた継続ダメージを回復出来るとは言え痛みが辛い。


 せめてもの救いは、先程『苦痛耐性』のスキルを手に入れた事と、継続ダメージは十秒毎に全てのダメージを食らう訳では無く、十秒の間に等分したダメージを少しずつ食らう事だろうか。


 十秒毎に全てのダメージを一度に受けていたら、とても耐えられる痛みでは無い。




「来紅はこっちか」




 俺に向かって来る化物の中で妙に欠損が少ないヤツが目立ってきている。見ると欠損が少ないヤツは全て同じ方向から来ていた。おそらく来紅の肉を食った事が原因と思われる。




「そう言えばゲームでも敵を回復してたっけ」




 来紅はゲームでも噛み付き等の特定の攻撃を受けると被ダメージに応じて相手を回復させていたのを思い出した。


 ゲームでは来紅以上の単体回復キャラは存在しない為、よくクエスト毎にメリットとデメリットを天秤(てんびん)にかけて来紅の加入を悩んでいたなと苦笑する。




「待ってろよ、絶対に助けてやるからな」




 気を引き締め直した俺は、来紅がいるであろう方向へ化物(モンスター)を倒しながら進んで行った。

 来紅は主人公と出会う前から『苦痛耐性』のスキルを取得済です。


 来紅のHP自然回復量は十秒毎に五%なので『魔女の毒霧』で十秒毎に五%の継続ダメージを受けます。




 読んで下さってありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 生き残るにはそれしかないかもだけど、 くっそ痛そうなビルド組んでて草
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