8
読んで下さってありがとうございます!
よろしくお願いしますm(_ _)m
人生で初めての友達が出来た翌日、少しオシャレをした俺は公園に向かっていた。
そこで、来紅と待ち合わせをしているからだ。
「到着は集合時間の三十分前になりそうだな。来てないだろうが待ってればいいか」
正直に言うと俺は浮かれていた。昨日の夜、待ち合わせの約束をしてから全然眠れなかった上、当初は約束した時間の三十分前ではなく一時間前には着いてる予定だった。
僅かとはいえ睡眠を取った後、流石にすることが無いだろうと思い直し、家で時間を潰していたが。
「たしか、昨日のベンチに集合だったよな」
何でも渡したい物があるそうだ。何が貰えるのか分からないが、その気持ちだけでもありがたい。
それに俺も昨日の発言の真意を聞きたかったし、何より友達と約束というシチュエーションに憧れていたので断る理由は無かった。
「着いたらソシャゲでもしてるか」
幸い、この世界にもスマホはあり、そしてソシャゲもある。根っからのゲーマーな俺にとって三十分くらい時間を潰すのなんて訳無いだろう。そんな風に考えていた。
そして俺は、この時の判断を悔む事になる。
俺は忘れていたのだ、彼女に関する重要な事を。
◆
「ひっぐ、ぐすんっ」
公園に着いたら俺が最初に見たのはベンチの前で泣いてる来紅だった。
不謹慎は百も承知だが、彼女が透き通るような白い肌を朱に染め、宝石のような紅い瞳を潤ませる姿は、男の庇護欲を誘うと同時に儚く幻想的な印象を受ける。
自分の心が、ずっと眺めていたい、そしてこの光景を俺だけのモノにしたい。そう叫んでいる。
と、ここで一時我を失っていた俺は理性を取り戻し、自分のやるべきことを思い出す。
こんな事を考えている場合ではない、友達が泣いているのなら、まずは事情くらい聞きにいくべきだろう、と。
「大丈夫か、来紅!」
先程、呆けていたせいで到着が遅れた罪悪感を掻き消すように、少し大きい声で呼びかける。もちろん、心配する気持ちの方が大きいつもりだ。
ゲームで彼女は溜め込みやすいタイプだった。現実となった今でも、父親との喧嘩を考えると性格は変わらないと思われる。
そんな彼女のことだ。もしかしたら、また何か大きな悩みが出来たのかもしれない。俺は彼女の友達として、力になりたかった。
「あっ、薊くん。良かった、よかったよぅ」
声を掛けた俺を見て、彼女は余計に泣いてしまう。しかし先程とは違い、安心感からの涙のように見えた。そんな彼女を見て俺も少しは安心した。
一先、来紅が落ち着くまで待とう。時間ならあるし、この後の予定など隠しダンジョンでレベル上げする程度であるし、故意ではないとはいえ泣いている彼女を放置した罪悪感も残っている。この程度なら安いものだ。
それから程なくして、会話ができる程度には落ち着いた彼女が、ゆっくりと口を開いた。
「どうして……」
どうやら俺に何か言いたいことがある様子だ。もし、泣いていた原因が俺だとしたら悲しいが全てを受け止めて謝罪をしよう。その上で来紅の意見を聞きながら自身を改善するつもりだ。
最初の出会いを含めて、心当たりがないわけではない。無論、俺以外が原因だとしても協力しよう。多少ちょっかいを出すことはあっても、やはり人生初の友人は大切なのだから。
大丈夫、話をするまで俺は待ってるよ。そんな意味を込めて優しく微笑む。
「どうして……」
「なんだ?」
その後、俺の気持ちが伝わったのだろうか、覚悟を決めた表情で来紅が続きを話た。
「どうして、時間通りに来てくれなかったの!?」
「……は?」
俺はスマホで時計を確認してから昨日、彼女とやり取りしたメッセージも確認する。大丈夫、ちゃんと集合時間の三十分前だ。
わけが分らず困惑する俺に気づかない程に興奮した彼女は、さらに捲し立てる。
「遅れるなら連絡してよ! 私を嫌いになって来なくなったのかと思ったじゃん!!」
それは被害妄想が過ぎるだろう。
だが、ここに来て漸く俺の認識と来紅の話が噛み合わない理由を悟る。そして「ああ、そうだったな」といつ感想が心に浮かんだ。
そう、俺は忘れていたのだ。
「遅れてないぞ? むしろ、まだ三十分前だ」
そう言って、彼女に昨日のやり取りを見せた。
「あっ……」
そう、俺は忘れていたのだ。彼女が天然だってことをな!
◆
「天然の来紅は落ち着けたか??」
「てっ、天然じゃないから!」
彼女が自分のミスに気づいてから暫く呆然としていたので、俺は少し間を置いてから声を掛けた。……腹いせに精一杯、煽りながら。
ここで、ふと俺は一つ疑問が出来たので彼女に聞いてみる。
「なあ、どれくらい前から待ってたんだ?」
「……二時間半」
「……」
バカじゃねえの? そう思ったが流石に言わなかった。さっきまで泣いていた彼女に掛ける言葉ではないだろう。故に俺が言うべき事は。
「やっぱ天然だな」
「うわーん。薊くんがイジメるー」
出合い頭に勘違いで罵倒されたのだ、これくらいは許されるだろう。まあ、そうでなくても彼女を天然ネタでイジるのは楽しいのでやったかも知れないが。
「それで、俺に用事って何なんだ?」
俺が蒔いた種とは言え話が進まないのは困る。なので本題に入る体を装って話を逸らす事にした。
「あっそうだった。これ渡そうと思って」
はいっ、と渡されるのは以前にも貰った彼女の血液。俺は、どこも怪我してないし体調も悪くない。その上、仮に悪かったとしても大抵は『不死の残滓』のHP自然回復で勝手に治るしな。
「でも、この前は体調悪そうにしてたでしょ。私特製のポーションは、とっても体にいいんだから飲んで!」
血液は完全食だと聞いた事はあるが、それは雑菌が無かったらのはずだし(諸説あり)血液だと分かってる物を飲むなどメンタル的にもよろしくない。特にトラウマが色濃く残る今は。
とは言え、これだけ強く勧められると断りにくい。ここは貰うだけもらって飲んだ事にするのがベストだな。
「……わかった、ありがとう。後で飲ませてもらうよ」
「ダメ。いま飲んで」
当たり障りのない言葉で、この話を終えようとした俺のセリフを来紅の声が鋭く遮った。
めっちゃ、飲みたく無い。いくら友達のものとは言え誰が好き好んで人間の血液など飲まねばいけないんだ。
俺は出来る限り抵抗したが彼女は引かず結局、今飲む事になった。
口に含むとドロッとした舌触りと若干の鉄臭さ、それに何とも言えない独特のしょっぱさを感じた。一言で言うとかなり不味い。
「じー」
吐き出すのを我慢して彼女の血液を飲んでる最中、何故かガン見された。
もしや、この後に及んで、まだ飲まないかもしれない思われてるのだろうか? だとしたらそれだけ信用されてないということなので少し凹む。
「ふう……、ぉぇ」
「ほわぁぁ」
不味さを我慢して何とか飲みきった。飲みきった後、彼女が何故か顔を赤らめながら喜んでいるのは何故だろうか。
「この後、何かするか?」
本来、回復する筈のポーションを飲んだのに、むしろダメージを受けた気がする。メンタルに。
だが彼女に、それを悟られたくないので必死に我慢しながら声を掛けた。
何かするか? というのは社交辞令だ。せっかく友人と会ったのに用事が終わったら、すぐに帰ろうとするのも感じが悪いしな。
まあ、現在の体調では早く帰って休みたい。なので彼女が断ってくれることを祈る。
「うん! 私がポーション売ってる市場に素敵なお店があるの! 今から行こう!」
俺の祈りは儚く潰えた。
満面の笑みを浮かべた彼女は、俺の手を引き目的地へと走り出した。
読んで下さってありがとうございました!