読んで下さってありがとうございます!
この小説で読みにくい点や説明不足の箇所などあれば、お手数お掛けして申し訳ないのですが感想欄で教えて頂けるとありがたいです。
作者の技量内で時間がかかっても出来る限り修正します!
俺は今、斧で腕を切られている。
重量で肉を断つ鈍い音と、腕から斧を引き抜く際に出るの粘着質な音だけが等間隔に響くだけで、他の音は一切しない。
抵抗はできなかった。
俺の体は、石台に鎖で固定されており、さらに薬でも使われたのか、体が思うように動かなかった。
薬を使ったのに鎖で固定する必要があるのかと疑問だったが斧を腕に叩き付けた際、腕が大きく跳ねていたので、俺を拘束するためというよりも腕の位置がズレないための固定なのだと分かった。
ははっ、まさに手も足も出ないな。
そんな風に無駄なことを考えていると、これまでとは違う硬質な音が響いた。横目で見れば腕を切った勢いが余って、斧を石台に叩き付けたらしい。
チラリと見えた腕は酷い有様だった。
二の腕の半ばから切られてはいるが、それぞれの断面から肩、肘の辺りまでは斧を無駄に打ち付けた跡が、びっしりと刻まれており相手の不器用さが伺えた。
相手は、そのままもう片方の腕を切り始めた。
心当たりは無くはないが、こうなった理由は相手から聞きたい。
そう思って、斧の重量にフラついている最愛の彼女へ、上手く動かない体に鞭打ち全身の力を口に集中して言葉を紡いだ。何故、こんなことをするのかと。
「貴方が浮気出来ないように」
作業の手を止めないまま、生気のない瞳と抑揚のない声で俺の質問に答えた。
当然かもしれないが、この質問は彼女にとって地雷だったのだろう。顔と声に感情が乗らなかった分、ソレは斧へと流れたようで今日一番の重い音が鳴り、そのまま二本目の俺の腕が切れた。
出血は少ない。
作業に使われている緋色の斧は周囲の景色が歪むほどの熱気を放っており、傷口が焼かれて止血されるからだ。血の代わりに炭は溢れるけどな。
腕二本で終わるかと思えば、そんなことはなかった。
さも当然と言わんばかりに足へ視線を向けた彼女は、そちらへ移動して作業を再開した。どうやら俺は足もなくなるらしい。
空を飛べない俺が足までなくなるのは困るのだが彼女に言っても聞かないだろう。
こうなった時は絶対に意思を曲げないからな。
今のように、目から光が消えている時は、いつも目的を達成するまで止まらない。今回は、おそらくだが俺の四肢を全て切り終えるまで目に光が戻ることはないのだろう。
まあ、彼女のそんな不器用で真っ直ぐな生き方は、とても可愛らしく俺が好きなところの一つなのだが。
そう考えると仕方ないという気がしてきた。俺の手足が無くなる程度で彼女が安心してくれるなら安いものだとさえも。惚れた弱味だろうか。
一応、不満はある。
将来、産まれるかもしれない彼女との子供を抱き締められないという不満だ。
ただ、それも俺にとっては割り切れる程度の不満だった。
なぜなら、俺は将来の子供より大好きな彼女を大事にする主義だからである。
そんなふうに惚気てると彼女は作業を終えた。
消毒と包帯で手当てし始めたところを見るに殺す気はないようだ。
良かった。浮気防止だと言っていたから殺す気はないと分かっていたが「罰として一日放置」なんて言われたら、そのまま死にかねなかったので一安心だ。
流石に死ぬのは嫌だ。彼女と会えなくなってしまうから。俺が四肢切断を許容するのは、あくまで彼女と共に居続けるためなのだから。
安堵に浸っていると目蓋が重くなるのを感じた。そろそろ体力の限界らしい。
我ながら、よくここまで保ったという気持ちと、ここまで保たせたのだから、最後まで保たせろよという気持ちが内心でせめぎ合うが、限界なので仕方のない。
徐々に黒へ染まる視界に合わせて寝てしまおう。
それから俺は目を閉じた。明日は笑顔の彼女を見られると信じて。
◆
「納得出来るかぁぁっ!!」
俺は今プレイしているゲームのハッピーエンドに文句を言った。
「ただ近所の婆ちゃんに会釈しただけで、なんで四肢切断なんだよ!」
ゲームのストーリーは主人公が四肢切断された後も続いており、ヒロインとの間に生まれた子供達と幸せに過ごした事が描かれている。
主人公を含めた家族全員が屈託のない笑顔を浮かべてるところが、逆に狂気を感じた。
このイカれてるといっても差し支えないゲームのタイトルは『病みと希望のラビリンス☆』という。
この『病みと希望のラビリンス☆』、通称『病みラビ』は、とある有名なエロゲ会社が総力を上げて作り上げた十八禁ゲームである。
このゲーム、戦闘面やシナリオの多様性等の素晴らしい部分も多いのだが、ただ一つ全てを台無しにする要素があった。それはハッピーエンドでハッピーにならないことである。
例を上げるなら、ヒロインに四肢切断された挙げ句監禁されたり、魔物ヒロインに取り込まれたりするのだ。
だが、バッドエンドはもっとヤバい。ヒロインをチャラ男に寝取られた挙げ句、その寝取られたヒロインに殺され二人がセッ○スで使う媚薬の原料にされたり、ぽっと出のオカマ科学者に男のまま妊娠できるように改造され、未来永劫そのソイツに孕まされ続けたりするのだ。
ついでにモブや脇役は勿論、主人公やヒロイン、悪役を含めて全員ポンポン死ぬ。命の値段が羽根よりも軽いゲームなのだ。
極めつけには、このゲームは他の似たようなゲームに比べて、戦闘難易度が激高なのだ。そして、そんな難易度をクリアした報酬は、ほぼ全て鬱展開になるので、ユーザーにとっては心にも体にも優しくないゲームなのだ。
タイトルには『病みと希望のラビリンス☆』と希望の文字を入れてるにも関わらず、ストーリーに希望など無に等しいので、業界ではタイトル詐欺の名を欲しいままにしてる。
故に、このゲームには極一部の変人しかまともにプレイすることが出来ず、全クリする人間など殆ど存在しない。
「まあ、俺は極一部の変人だから、全クリを目指すんだけどな」
大声を出して気持ちを切り替えた俺は、ラスボスを倒して寝落ちするまでゲームを続けた。
読んで下さってありがとうございました!